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暁滅のナイトフォール


「眩しすぎるな」

 輝くビル群に囲まれたハイウェイ上。魔導バイクに跨った青年が、夜風に外套をはためかす。

『確かに。お主には酷じゃの、【夕陽の勇者】殿?』通信機から老人の声がひびく。『魔族らめ、太陽を奪いとれて、相当はしゃいでると見える』

「姫は」

『都市中央の魔天牢。ハイウェイをそのまま直進じゃ。当然、竜人兵の歓迎があるぞ』

「また蹴散らす。先生、導きを頼む」

『ほほ。お主に星辰の加護を祈ろう』

 星辰か。彼は一面の闇、魔王の翼に抱かれた天空を睨む。

 二千年ぶりに蘇った【暁の魔王】により、地上は空の光を奪われた。奴はその翼で受けた全太陽光エネルギーを、かつてと同じく魔族のためだけに使っている。人類はふたたび被支配階級に堕とされた。

 勇者は静かにバイクを唸らせる。

 暁が来れば夕暮れも来るのがさだめだ。だから自分たちも蘇った。だからやるべきことをやる。

『さあ、来よるぞお! 援護は任せい!』

 後方に老魔術師の幻像が投影される。勇者はそれを引き連れ、バイクを走らせた。

 前方から迫るのは無数の竜人兵。寡黙なる彼らに代わり、騎乗するバイクがヘッドライトの眼を怒らせ、機械音の咆哮をあげる。

『《幻影呪文》転送じゃ。足元注意じゃぞ、竜人兵ども!』

 魔術師が皺を刻んだ指を躍らせ、呪いの文言をキータイプする。遠隔地から羽ばたいた呪文が微小なラグを経て到達する。竜人兵の跨るバイクの回路に惑いの霧がかかり、スピンさせた。

 勇者は背中から古の聖剣を抜き、意志を込めた。刀身が夕陽色の光を纏い、ハイウェイに流星のごとき線をひく。

 まごつく竜人兵とすれ違う刹那、剣が幾重にも閃いた。爆散する敵を後方に残し、第二陣へ。

 襲い来るブレス攻撃の数々を、加速し、車体を傾かせ、躱す。そして斬る。第二陣も突破する。

『ぬう、奴が気付いたぞ! 急げ!』

 勇者は空を見た。

 闇の中に一点、しだいに輝きを強める不吉な明星があった。翼より下る光の矢、《滅びの暁光》の兆し!


【続く】

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