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とりとめのないこと2024/03/17 成長と格差の岐路に立つ日本社会


成長と格差の岐路に立つ日本社会

 バルにてスペイン人の同僚たちと経済や時事の話をしていた。日本はどうだろうか。ふと疑念が湧く。
 
 1990年代後半から2000年代にかけて、日本はさまざまな改革に取り組んできた。賛否両論あれど、その中心的な役割を果たしたのが、小泉純一郎首相の経済財政諮問会議で影響力を持った経済学者の竹中平蔵だろう。
竹中氏は、構造改革と規制緩和、小さな政府を重視する新自由主義的な経済思想に基づき、郵政民営化を含む一連の改革を推し進めた。市場原理を尊重し競争を促進することで経済の活性化を図る考え方のようだ。しかし一方で、非正規雇用の拡大による雇用の不安定化や格差の拡大といった副作用も生じた。

国民の生活実態に目を向ける

 こうした政策の功罪を検証する上で重要なのは、単に経済指標だけでなく、国民一人ひとりの生活実態に目を向けることだ。確かに就業者数は増加したが、非正規雇用が36%まで高まり(出典:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2021年平均結果」)、貧困問題も深刻化している。経済成長とは裏腹に、相対的貧困率は15.4%(出典: 2022年厚生労働省「国民生活基礎調査」)と、OECD加盟国で最悪の水準となっているのが実情だ。これらの数字は、経済成長の裏で進行する社会的問題を浮き彫りにしている。

  非正規雇用の拡大は、グローバル化の影響で企業が人件費を抑制する必要に迫られたことや、規制緩和による労働市場の柔軟性の名の下に進められた労働法制の変更などが主な要因と指摘されている。(註釈)

グラフは2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況より引用

高齢化社会と死生観

 一方で高齢化の進展に伴い、終末期医療をめぐる死生観の問題も顕在化してきた。2022年10月から後期高齢者の医療負担は二割へと増額された。こうした問題の背景には、生きる意味や死生観が希薄になってきたり、少子高齢化の現代社会の影響もあるのではないか。

 高齢化に伴い、介護人材の確保や施設の充実、認知症対策など、包括的な高齢者支援体制の強化が不可欠である。さらに、尊厳死の議論や遺産相続の在り方など、死生観にまつわる社会規範の見直しも重要な課題となってくるだろう。特に、介護士や理学療法士らの報酬や労働環境の見直しが急務でもある。

高齢化の現状データ

  • 内閣府「高齢社会白書」(毎年版) 2022年版では、65歳以上の高齢者人口が29.1%と過去最高となったことが報告されている。

  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」 2018年推計では2053年に3人に1人が65歳以上の高齢者になると推計。

介護人材不足

  • 厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」 2020年には介護職員が約198万人不足していたと報告。2040年には345万人が最大で不足すると推計。

  • 一般社団法人 介護労働安定センター「介護人材需給推計」 2025年には約38万人の介護人材が不足すると推計している。

認知症高齢者の現状

  • 厚生労働省「令和2年度認知症施策推進総合戦略(新橋本)」 2025年には認知症高齢者が約700万人と推計。65歳以上高齢者の約5人に1人が認知症に羅患すると見込まれている。

教育

 また、教育現場では、生命の尊重や規範意識、思いやりの心を養う倫理教育の充実が求められる。アクティブ・ラーニングの手法を取り入れ、生徒自身が主体的に考え、対話を通じて価値観を育む機会を設けることが有効ではないか。

家族の教えと現代社会

 個人的なことになるが、僕には、満州からの引き揚げ時に、「絶対に生きて帰る」と心に誓った戦地で負傷した曽祖父がいる。現在の社会に生きる僕は、彼の言葉が心に染み付いている。彼は、常に、「どんな困難があろうとも、生きて、生き抜くことが大切だ」と家族に教えていた。彼の教えは、現代社会においても、困難に立ち向かう意志の重要性を示している。

経済成長と幸せの追求─多角的な視点からの議論

 経済成長と国民一人ひとりの幸せの両立を目指すためには、具体的な施策を組み合わせた総合的なアプローチが必要不可欠である。

 まず、再分配政策としてベーシックインカムの導入を検討すべきだろう。一定額の現金給付により所得の底上げを図ることで、貧困問題の解消と需要の底上げにつながる。また、所得控除などの減税措置を講じ、勤労意欲の維持と中間所得層の支援を図ることも重要だ。

 次に生産性向上策として、AI・IoT等の先端技術の活用や規制改革による新産業の創出、リカレント教育の拡充などを進めることで、イノベーションを加速させ、持続的な経済成長を実現する。

 加えて、医療・介護分野への重点投資により、高齢者支援体制の強化と良質な雇用の創出を同時に達成できる。認知症対策としては、地域包括ケアシステムの構築と、家族の負担軽減に資する施設整備、介護人材の処遇改善などが不可欠だ。

 以上のように、成長、分配、社会保障のそれぞれの施策を適切に組み合わせることで、経済発展と格差是正、高齢化対策を両立させることができるはずだ。

 骨太な批評を探している──様々な知見を活かし、多角的な視点から現状を分析し、建設的な社会像を提示していく議論が欠かせない。


註釈


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