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『密会』 安部公房

ひとり安部公房祭 第六回『密会 』
1977年作

個人的に好きしかない作品。
めちゃ好きです。

あらすじ
前回投稿した『箱男 』は救急車のサイレンを男が聞くところで唐突に終わる。
今回の作品は、本作の主人公が馬とのナンセンスな会話をした後、その余韻を引き継いで始まるかのように、ある日突然、妻が救急車に呼んだ覚えもないのに連れていかれ、その妻が失踪するところから始まる。

本作はある意味で僕の世界観と凄く近しい。
ナンセンスエログロシュールが炸裂してて好き
主人公
妻が救急車で連れ去られその後失踪し追跡し始める。

副院長/馬
ED持ち、性的弱者だが権力濫用で自分のED治療のためにやりたい放題している。
病棟のあらゆる箇所に盗聴器を付けている。
これも自分の治療のため。

当直医
精子バンクに自分の精子を売っている。
オナってるところを見られて激怒したら2階から墜落してチン子勃ったまま気絶する。

女秘書
試験管ベビー

これ以上はネタバレになるので登場人物に興味あるひとはWikipedia がよくまとまっているから見てほしい。

EDの権力濫用する管理者とそれにぶら下がる管理される者たちのうごめくエロ。

箱男では匿名性をキーワードにしていたものが密会では権威主義の構造と歪み、弱い立場の人間の無力さと権力をだからこそ欲する人間の欲望をキーワードになっていると思う。

逃げ場のない都市での弱者たちのたむろしている姿というよりも、ダイレクトに大学病院の内部告発的なものを彷彿させられる。

九九が弔辞ってシュールすぎて好き。

ほんとこの作品は好きしかない。

本物の患者には、インポテンツなんて無いらしい。病気の内にも入らないらしいんだな。でも、なぜだろう。もしかすると患者社会の構造と関係があるのかもしれない。
中略
「嘘の論理学=儀式化による構造への適応」
『密会』安部公房 新潮文庫

箱男の時は箱男になりきれない人物もいたりする。

密会では、妻の連れて行かれた病院に失踪した妻を探しにきたはずが、いつの間にか自分が盗聴されていたり《患者》になりきれない主人公。

いつものミイラ取りがミイラになる展開。

もっと言うなら、良き《患者》になった妻と《患者》にはなりきれなかったその夫、彼らを取り巻く権威主義的な《管理構造》の物語。

つまり医師と患者という構造を踏襲できず、弱者の立場で弱者なりに抵抗を試み続けて踏みつけられ続ける構造から脱却できない。

今も弱者から税金がめてほんのひと握りの強者に有利な経済政策だったり、クーポンとかおかしな少子化対策だったりと、本作の舞台となる病院内での構造と酷似しているように感じる。

やっぱり、安部公房はセンスと洞察力の塊だと思う。それと、ブレずに一貫した社会問題への切り込みがどの作品にもあり、そうした視座の高さと論理的思考力が非常に好きだ。

時々思う。
不器用なくせに筋通さなくて良いところで筋通そうとしてたり憤りを感じて疲れ果てたり。
「それで疲れるなら、最初から良い人ぶらなきゃいいじゃん」と友人に相談するとよく言われてたなぁ。今もあまり成長していない。
この作品の主人公に限らず、安部公房自身がペシミストなのかわからないけれど、安部公房の描く主人公は結構そういう性格が少しあると思う。打算的になりきれない、とか割り切れないとか。などなど。
何事も引きずり根暗な私の実態

この作品を自分なりに共感するひととは話が合うかもしれない😂
あまり出会ったことがないけど世界は広いからいると思う🤣

箱男より密会の方が僕は好き。

最後の一文は男と少女が死につづけて──欲望に飲み込まれ踏みつけられながら──弱者の生を産み出して行く、ピラミッド型の形成、そんな感覚と余韻が広がる。

安部公房作品はサティとすごく合う気がする。

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