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傷ついた魂の応援歌

気持ちはわかります。いまでもアニメ史上最高のEDだと思っていますから。曲自体が素晴らしいことに加えて、あの秀逸な流れ。アニメ2作目後期のED「STILL LOVE HER」も拭いきれない切なさとそれでも前を向こうとする意志が涙を誘う名曲です。でもやはり「Get Wild」の連想させるハードボイルドな背中の方が胸にグッと来ますね。

と同時に、「Get Wild」の似合う背中を持った人がいまどれだけいるのかなって。私はとてもじゃないけど「Get Wild退勤」なんて恥ずかしくてできません。人としての器、努力の量、優しさなど全てにおいて冴羽さんの足元にも及びませんから。形だけ真似ても虚しいだけ。あの人はいまでも私の中で「カッコいい男」不動の第一位なのです。

もちろん世間の方々があの曲をBGMにして気持ち良く退勤するのをバカにするつもりはありません。「今日も一日頑張った! いい仕事した!」という自負を抱けるほど頑張れる人を尊敬します。素直にすごいと思います。ただ私は帰宅後も本を読むし、文章や小説を書きます。むしろ仕事を終えて家に帰ってからが勝負の時間です。だからもしこういう形で「Get Wild」を聴くのなら、全てが終わって眠る直前しかありません。

帰宅時の私に「Get Wild」は似合いません。そんな大した仕事はしていないし、おこがましい。でももしかしたら、寝る前のほんの一瞬だけなら少しだけ資格があるんじゃないかな、と思える静かな夜がごく稀にあります。どこに繋がっているのか、何を生み出すのか。それらがはっきりしない何かのために人生を懸けて全力で打ち込む。そんな生活を何年も続ける。虚しいなんて思いませんが、悔しいとか情けない不甲斐ないはあります。でも本当は戦っていないのに戦っている振りをし、わかった風な顔をして必死に戦っている人を冷笑するくだらない群れのひとりに甘んじるよりずっとマシです。

そもそも「Get Wild」はそういう歌です。二番の詞を見てください。

「ひとりでは消せない痛み 心に抱いて」
「この街で自由をもてあましたくはない」
「ひとりでも傷ついた夢をとりもどすよ」

ひとりでは生きていけない。本当は誰かのために、愛する誰かと共に生きていきたい。でもそのためには、まずひとりで戦わなくちゃいけない。何度負けようとくじけようと痛みに耐え、傷ついた夢を形にする。絶対に。だからワイルドになれ、タフになれ。運とチャンスをつかめ。「Get Wild」は今日も頑張ったねいい仕事したねという達成感の歌ではありません。強大な何かにひとりで立ち向かう孤独な闘争心、生温い馴れ合いに抗い続ける反骨心を後押しする、傷ついた魂の応援歌なのです。


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