シェル・コレクター

まず私の新潮クレスト・ブックスに対する愛を伝えたい。本文用紙のどこか懐かしい風合い、目に優しい落ち着いた色味、そして本を読むペースにぴったりマッチする行間や余白のスペースの取り方まで、並々ならぬ本への愛情が込められていること、感じてますよ!そして何と言っても翻訳がいい!作品のチョイスがいい!抜粋している批評もいい!もう、何読んでいいか分からないという人はとりあえずクレスト・ブックを買いましょう。

はい。

O・ヘンリー賞を受賞した『ハンターの妻』を含む、8編が収録されています。好みかと言ったら好みではないのだけど、ただこの人の書く圧倒的な文章は読んで損はないと思います。盲目の貝類学者が足の先で貝に触れた時の感覚をここまで鮮やかに表現できる作家がどれだけいるでしょうか?とにかく素晴らしいの一言。

『だが、決定的な出会いは、くるぶしほどの浅い海を歩いている時に訪れた。足の指が触れた小さな丸い貝、少年の親指の先ほどしかない貝が、彼を心から変えた。貝を指で掘り出し、卵のようになめらかな殻に触れ、ぎざぎざした開口部に触れた。こんなに美しく洗練されたものを手にするのは初めてだった。……彼は指でやさしく貝をなで、裏返し、回した。こんなになめらかなものに触れたのは始めてだった。―――こんなに深く磨かれたものがあるとは思いもしなかった。彼はささやくようにたずねた。「だれがこれを造ったの?」』

淡々とした筆致で描写される自然の光景や動植物の姿はとにかく圧巻で、冬眠する熊の息遣い、雪の上に流れる鹿の血の匂い、あえいで跳ねる魚の弾けるような筋肉、まるで映像を見ているように脳内に再生されます。(そしてそこまでの人間離れした文章力があるからこそ、『ハンターの妻』を生み出すことが出来たのでしょう。あんな物語、書きたくても普通の人には書けない。)が、いいストーリーテラーかというと、そうでもなくて、全体的に若干ダサいというか、なんだろう、物語自体は結構ひどいことが起きるのに希望に満ちた感じの読後感が残るところとか、上手くまとまってしまっている感があるような気がする。すっごく上手く描けてるけど、家には飾りたくない絵、みたいな。(ごめんね、ドーア。)

それにしても、この本は文章で読むから意味があるんじゃないかな、と。なぜか表題作が日本で映画化されるらしく不安でいっぱいな気分になる。(ただ、ナンシー役が寺島しのぶさんというのは完璧なキャスティング!爆笑!)


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