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ポテチロケットと月の裏側

人類ポテトロケット計画

「毎日こんなにたくさん作って、一体どこいくんやろ?」

アサヒビールの銀色の缶を手に、母が驚いていいる。

テレビでは、ものづくりの背景を取材した教育番組がついていた。

あるチョコレートが毎秒何個売れているとか、工場で毎日何万人分のポテトチップスが作られ続けているとか、そんな内容だった。

洗浄されたおびただしい数の芋たちが、ボブスレーのように滑走し、油の海に次々とダイブをキメる。

なぜか見ていてすごく気持ちが良く、頭を空っぽにしながら画面を眺めながら耳を傾ける。

何千万個、何トン、毎秒あたり…あまりにも馴染みがない巨大な数値や単位だ。

もしかしたら、この芋たちは月の裏側への極秘移住計画の一部なのかもしれない。

きっと、地球からは見えない場所で、何十年も前から秘密裏に開発が行われているのだ。

補給物資として、ロケットに積まれたポテトが毎日何発も打ち上げられている。

その名も、人類ポテトロケット計画だ。

そんなふうに無知を埋め合わせるようと、脳内ではB級SF映画のような妄想が広がっていた。

月人「O」

月の裏側に暮らしている住人たちのように、普段の生活では出会うはずのない人たちと、偶然にも接触することがある。

先日いわきに訪れた時、ゲストハウスである男と出会った。

彼の名は「O(仮名)」

さまざまなサービスを駆使し、宿泊施設を渡り歩きながら暮らしている。
世間では、彼らのような者をアドレスホッパーと呼ぶらしい。

映画「ノマドランド」を観た方はわかるかもしれないが、映画の中に出てくるセリフ「ホームレスではなく、ハウスレス」という言葉通りのくらしを送っている。

(↓ノマドランド 感想)


そんなユニークなライフスタイルを持つOさん。

彼ユニークさはそれだけにとどまらず、病的なまでの論理的思考と繰り出されるマシンガントークには脱帽してしまう。

「アファンタジア」という名を聞いたことがあるだろうか。

その症例に該当する彼は、先天的に脳内で情報を視覚化する能力が欠乏しているそうだ。

小さな頃から車の窓の外を眺めては、高速で並走する忍者やらモンスターやらを妄想していた私にとっては想像もつかない。

見えている世界は全く別物だろう。

だが、話を聞いていくとこの性質は欠点というわけでもなさそうだ。

理屈が通っていれば、どんなことでも当たり前のように感じられるそうだ。

頭の中で、情報の処理の仕方に大きな違いとなって現れているのだろう。

おそらく、ポテトチップスの生産量が幾万トンだろうが彼には当たり前のことなのかもしれない。

ロケットもポテトを乗せて飛び立つことはないだろう、少し寂しい気もするが。

なんでも屋と初めての就職活動

そんな彼と、先月再び東京で再開した。

なんでも、面白い経験を求めて「なんでも屋」をはじめたらしく、その報告にやってきたのである。

面白すぎて吹き出した、不思議すぎる。
未知レベルがさらにあがって、月を飛び越え火星人になってしまった。

そして現在、お試しクライアント第1号として毎週就職の相談に乗ってもらっている。

なかなか思うような職が見つからず、もやもや漠然とした悩んでいる今日この頃。

火星人は得意の理論でズバズバ具体的な解決策を楽しそうに打ち立ててくれる。

相手は話すのが好き、こちらは話を聞くのが好き。

餅は餅屋というか、互いに異星人であることのメリットは計り知れない。

「変な人」が好きでしょうがない。

ここまで読んだ多くの人が、彼を変人だと思うかもしれない。

わたし自身、うまく説明ができずに知人に心配がられることもある。

ただ、これも何かの縁である。
異星間でタッグを組み、自分達のくらしをデザインしてみることにしよう。

世の大半は、未だ会ったことのない宇宙人でいっぱいだ。

工場から送り出されたポテトチップスは、今日もまちの小さな明かりの一つ一つに吸い込まれている。


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