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やわらかい手

イギリスのヒューマン・ドラマ『やわらかい手』。

主演はかつてのポップアイドル、マリアンヌ・フェイスフルです。確認してないけどnoteの規約的なものというか、レーティングに引っかかったりしたらアレなんで、あらすじはリンク貼ります。

あらすじを見てもらうとわかると思うんですが、ちょっと間違うとキワ物になりそうなプロットの映画ですが、全体に落ち着いたトーンと淡々とした語り口で、マギーの心の動きと変化に焦点の当たったとても良い映画に仕上がっています。
最初はとぼとぼと歩く疲れたどこにでもいる初老の女性だったマギーが、孫の為とはいえ180度違う世界に飛び込む時の逡巡や嫌悪感、後ろめたさ、そういった部分が彼女の表情で伝わってきます。台詞はかなり少なめで、それぞれの表情や佇まいで語りかける感じです。暗転してのシーン転換、音楽も控え目でかなり抑えた作りなので、お涙ちょうだい感も無くて私は好きです。
単純にまだ女性として魅力的でマギーより若い難病の息子を抱える母親にこういう商売をさせて主役にするんじゃなく、祖母であるマギーを持ってきたっていうのがユニークというかキモですねぇ。母は強し、ではちょっと単純すぎますしね。
とにかくマギーがとてもチャーミングです。疲れた顔をしてはいるのだけどかわいらしい。初仕事の場面や、少しでも気持ちを和らげようと“仕事部屋”を絵や花で飾り仕事道具を自分好みの容器に入れ替えたり、そういう彼女の初老の女性“らしさ”に少しクスリとさせられたり。
初めて飛び込んだ世界、戸惑い嫌悪を感じながらも次第に彼女はたくましく強く変わっていきます。そして“商品”として扱われることを拒否し、人として関わることで店のオーナー、ミキの心に温もりをもたらし、おためごかしの良識と友情を捨て、自分の決めた道を歩んでいくマギーの姿はとても美しくて強い。
息子に売春婦と罵られ理解されなくても、実際彼女は期限付きだった孫の命を救った。息子に罵倒され深く傷ついても、彼女は自分の選択に後悔はなかったし、そうした世界に身を置くことで見えた物もあった。その事実が彼女を支え、歩ませたんじゃないでしょうか。
もちろん、その現実を受け入れられない息子の気持ちもわかります。子供を救いたい、けれど母親がそんな商売をするなんて耐えられない。当たり前の感情でしょう。でもマギーにしてみてもたくさん悩み、躊躇し、けれど今何を1番優先すべきか、何が1番必要なのか考えた結果の行動でした。だからこそ息子に責められても最終的にはミキの元に戻ることに決めたのでしょう。
為すべきか、為さざるべきか。そして彼女は彼女がそうすべきだと思ったことを為した。
あまりに安易な方法だと思う人もいるかもしれません。けど彼女にとって安易ではなかったことを忘れてはいけないと思います。
一つ間違えれば陳腐なストーリーに成り兼ねないプロットを、きちんと練り上げ魅力的に人物を配し、丁寧に描き上げた監督の力量にも脱帽です。
ちょっとご都合主義な部分もあるけれど、中心のぶれないしっかりと作られたとても良い映画だと思います。
最後に訪れるささやかな幸せの予兆に暖かさを感じられる、そんな映画でした。
あらすじに尻込みせずに見てほしい、そう思います。

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