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鳥って面白い 鳥類学者だからって鳥が好きだと思うなよ 川上和人

私が普段よく行くスーパーは、総合スーパーとでもいいましょうか、いくつかテナントがはいっているけど、モールというほどの規模はない、そんなスーパーです。
その片隅に小さい本屋が入っています。漫画がいくらか、ハードカバーは新刊のみ、文庫の棚も各社あるけど寂しい品揃え。半分以上が雑誌であとは学参や絵本が少し、といったところでしょうか。
そんな物足りないような本屋でも、あると覗かずにいられない性分です。
その本屋の平台からここ半年ほど私に向かって自己主張を続けていた本(気のせい。置いてあるだけ)が1冊。
でもこのスーパーに行くのはたいてい図書館に寄った後なので、私のリュックは欲望のままに借りた本の重みでずっしり肩にのしかかっています。その重みが私の理性を働かせてこの本屋では書い続けているシリーズものや漫画の新刊以外は買わずにすんでいたのですが……。
あまりに目が合うので買ってしまいました。
こちら。

出張先は、火山にジャングル、無人島──
「鳥類学者は(たぶん)神に選ばれし存在である」
鳥部門に君臨し続けるベストセラー、文庫版!

鳥類学者、それは神に選ばれし存在である。スマートな頭脳に加え、過酷なフィールドにいつでも出張できる体力が必要なのだから。かわいいメグロからの採血。噴火する孤島への上陸。ある日は吸血カラスの存在に驚き、ある夜は蛾の襲来に震え……。美女たちよ、わたしに近づくな。やけどするぜ。生き物を愛する人にも、そうでもない人にも、絶対に楽しめる、汗と笑いの自然科学エッセイ。

Amazon商品ページより

ベストセラーになっていましたので、本屋で何度か見かけていたし、タイトルはしっていました。でも触手が伸びなかったというか、面白そうと思いつつ、手が出ていなかったこの本。
ベストセラーではありますが、出てもう数年経っているこの本が、品揃えの貧弱な本屋で返品もされず生き残り、その上平台に並び続けていたわけで、そうなるとよほど面白いのかしらとそわそわし始めるのが本好きの性。
というわけで買って読んだんですが、わたし、多分この人の本揃えるな(笑)。
めっちゃ面白いし好きです、この感じ。
プロフィールを拝見すると、いくつか年上ですが、ギリ同じ小学校に通うぐらいの年齢差ですのでほぼ同年代。ですので文中に挟まれる小ネタがツボにハマります。
小笠原諸島を中心にフィールドワークを行っている鳥類学者の著者が、そのフィールドワークや研究の悲喜こもごもをユーモラスに描いた自然科学系エッセイなんですが、各章の中の節のタイトルが映画や絵本やアニメから取られていて、そこもまた同世代には嬉しいチョイスですでに楽しい。
例えば、第1章の中の4節目のタイトルは『帳(とばり)と雲雀(ひばり)の間に』なんですが、そのさらに細かい見出しが『寝ない子ダレダ?』『耳をすませば』『仄暗い穴の底から』。絵本、宮崎アニメ、そして鈴木光司。なかなかのチョイス。
もちろん内容も楽しいんですが、例えにちょいちょいアニメや映画が出てくる上に言い回しがいいんですよね。(いい意味で)バカだなあ、この人、とちょっとニヤニヤしながら読めちゃう感じです。いや、東大卒捕まえてバカもなにもないんですけども💦
ダラダラせずに、いいタイミングでネタを挟んでくるテンポの良い文章は、頭がいい以外の何者でもないんですけど、バカだなあ、とこちらをニヤニヤさせるのがお上手です。
脳内でチョコボールのキャラクター、キョロちゃんをリアル鳥化させ、その生態を推測していく章なんかはもうバカバカしさの極致だと思うんですが、もっともらしい生態が書き連ねられ、キョロちゃんはもしかしたらこんな鳥ライフを送っているのかもしれないと思わされます。目が前方に付いているのは肉食の捕食者の特徴だから、もしやキョロちゃんは肉食なのかとか、足の指の形状から樹上生活者である可能性が高いとか、けっこう真面目に分析しているからよけい面白いんですよね。こういう悪ふざけ、大好きです。
一々表現が面白い文章を書かれる方なんですが、私が好きな文章を少し引用してみようと思います。
極小のカタツムリが排泄された時は生きていたと思われる状態で鳥の糞から発見されたことで、極小カタツムリを鳥に食べさせて、排泄されるまで生きている個体が本当にいるかどうかの実験を行った、というエピソードの一節。結果は生きて排泄される個体もおり、植物の種子と同じように鳥に運ばせて生息域を広げることができそうだという結果が出たそうです。

カタツムリは、流木に乗ったり、鳥の羽毛に付着したり、時には風に吹き飛ばされて長距離移動すると考えられてきた。そこに、ゼペットじいさん並みのエクストリームヒッチハイクという選択肢が加わったのだ。
こうなるといろいろな動物で試したくなる。硬い外骨格を持つ小型の甲虫、丸まれば無敵のダンゴムシ、鬼の胃袋で暴れた一寸法師、じゃんじゃん鳥に食べさせたい。夢は広がるばかりだ。
この実験を見守りながら、私の頭の中では妖獣ジンメンがデビルマンに言い放った言葉がこだましていた。
「生き物を殺すのはいけないことだ。なーっ、そうだろう。だからおれは殺さずに食ったのさ!」
ジンメンに食べられた人間は、意識を保ったまま背中の甲羅に顔が浮かび上がり苦しみ続ける。デビルマン史上最も嫌悪すべき敵だと思っていたが、もしかしたら捕食されても生き残る動物の存在を予見していたのかもしれない。これからは、この移動様式をジンメン式移動と呼ぼう。さすが永井豪先生である!サインください!

本書P116〜P117

うんうん、『デビルマン』は名作ですよね〜、ではなく(笑)。カタツムリの新たな移動手段ってけっこうな発見だと思うんですが、この軽い書き口!こんな感じのノリで全編に渡って楽しく鳥について知ることができます。
国際会議に出席するエピソードで、ご自身の英会話能力を嘆くところなんかはちょっと共感もあったり。もちろん私は読み書きも不自由なんですけど😅
留学経験のない生粋の国産学者で、英語論文を読み書きできても会話能力は低いという著者がしまいに悪態をつくところがまた面白いんです。

だいたいNASAが悪い。月とか火星とか行ってる暇があったら、まずは早々にほんやくコンニャクの開発だろう。サーズデイに発表があると言えばサタデーなんだねと相槌を打たれ、バードの研究をしているといえばそれはどんな昆虫かと聞き返される私の会話力をなめるな!
どう考えても悪いのは私ではなく日本の教育制度とNASAのせいなので、恥じ入ることはない。腹をくくって、国際会議に潜入することにしよう。

本書P216〜P217

終章では成り行きで鳥類学者になったと書かれているんですが、大学に入って野生動物を研究するサークルに入ったそうで、その理由が子供の頃見た『風の谷のナウシカ』に感動してちょっと憧れていたから、という理由だったりと最後まで楽しい。
なんとなく、ちょっと照れ屋な方なのかな、と思ったりしました。真面目なのも研究への情熱をストレートに表現するのも照れくさくて、こんな風にちょっと茶化したようにネタ満載の文章になさるのかしら、なんて。
そんな小ネタも面白いんですが、もちろんちゃんと鳥についての記述も興味深いです。特に火山活動が活発で、何度も生態系がリセットされてしまうほどの環境にある西之島のお話は興味深い。溶岩に覆われた土地がどのようにして植生を回復し、そしてどんな風に生物たちがまたそこに生態系を作っていくのか、それを観察できることの貴重さや難しさ、積み上げたものがまた噴火活動で振り出しに戻る、自然相手だからこそ思い通りにいかないこと、それでもその島に営巣し、その島の生態系を作る一歩になる海鳥たちの逞しさ、この本を読まなかったら知らなかっただろうことも沢山知りました。
学名の付け方や数が多い方がなぜか亜種になってしまうケース、外来種の駆逐の大変さ、1度失われた環境と本来の生態系を取り戻すことの難しさなども書かれていますし、ちゃんと学びも得られる1冊になっています。
もう少しふりがなが多かったら小学生でも十分読めそうだし、面白がってくれそうだな、甥っ子にも読ませたいな、恐竜も出てくるし、なんて思ったり。
がぜん鳥に興味が出てきます。これ、田舎者あるあるかな、と思うんですが、あんまり身近に色んな生き物がいるもんだから、かえって興味が薄くなったりするんですよね💦だから案外鳥や虫の名前を知らなかったり、生態とか考えたことなかったりして。次からは実家に帰った時、この本に出てきた鳥を見たら楽しいかも、と思ったりしました。
テンポよく話題が進んでいくし、とにかく表現が面白いので一気に読めちゃいました。
うん、宣言通り、私これ揃えちゃうな。
そのぐらい楽しい1冊。
あ、でもタイトルは詐欺かな。全編鳥愛に溢れてます🤣

あと、これは超個人的感想ですが、若干つねたさん味を感じました😄もしかしてお好きなのかしら。

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