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彼女を見ればわかること

オムニバス映画です。監督はガルシア・マルケスの息子、ロドリゴ・マルケスで、この作品が映画としてはデビュー作だそうです。
キャストも豪華で、老母を介護しながら暮らす医師をグレン・クローズ、不倫中のキャリアウーマン、銀行の支店長をホリー・ハンター、童話作家で息子に愛情を注ぐシングル・マザーをキャシー・ベイカー、死が近いパートナーと共に暮らすレズビアンの占い師をキャリスタ・フロックハート、盲目の妹を持つ女性刑事をエイミー・ブレネマン、その妹をキャメロン・ディアスが演じています。かなり豪華な面々を揃えていますが、内容はとても静かで穏やかです。
監督は男性なのにどうしてこんなに細やかな女性の心の機微がわかるんだろう、という印象。彼女達は特別不幸な生活をおくっているわけではないし、なにか強烈なトラウマのようなものを抱えているわけではありません。当たり前の普通の生活の中にひっそりと存在する孤独や不安や悩み。それらが抑えた台詞と彼女達の表情でじわじわと伝わってきます。
許されない子供を授かり躊躇なく中絶を決意したホリー・ハンターが、手術の後どうしようもない喪失感と悲しみに襲われて、街中であることも忘れて声をあげて泣くシーンがとても印象的。
二人の出会いを思い出し語り、どれくらいパートナーを愛しているかを改めて感じ、そしてもうすぐ彼女を失う悲しみを抑えきれないキャリスタ・フロックハートがとても切ないです。絞り出すように「その時あなたは初めて私の名前を言った。…“クリスティーン”って。」という台詞からは彼女の苦しみや悲しみがにじみでていて、思わずうるっときてしまいます。
姉の自殺した友人の自殺の理由を様々に想像しながら語るキャメロン・ディアスが最後に語る台詞もしみじみと心に響いてきます。「女の人生を推測するなんて愚かしいわ。出口のない人生に疲れたのよ かかってはこない電話、守られる事ない約束、同じ石につまずく日々…彼女の心の奥など誰にもわからない。無理なのよ、誰とも分かち合えない」
本当の所なんて誰にもわからないし、心の底から理解しあえるなんて幻想にすぎない。だけどその幻想を持っていたい人の心の弱さ、頼りなさ。誰の心にもある孤独。なんでもないことに傷ついたり悩んだり。それでも一人で立ち上がって歩いていかなくてはいけない人生。完全に理解しあうことなんて幻想ではあるけど、それでも一緒に寄り添って歩いていける人がいた方が幸せだよなあ、なんてことを考えさせられます。
けど、それでも孤独は心の中に忍び込む。それは満たされているはずの時でもふとした時に感じてしまう孤独。それは人が欲張りだからなのか、それとも人は結局一人だからなのか。
この映画で描かれているのは皆女性だけど、ふと日常に忍び込み急に気付く孤独、っていう感覚は男性でもわかると思います。
派手さもないし、それぞれの人物の細かな背景も描かれていない、人生の一部だけを切り取ったどちらかといえば地味な映画。
でもじわじわと、そしてしっとりと心に染み入ってくる映画でした。
普段見ないふりをして蓋をしてしまっている心の中の部分に響いてくる映画です。


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