王妃マルゴ
歴史大作『王妃マルゴ』。アレクサンドル・デュマ・ペールの小説をパトリス・シェローが映画化したものです。
シャルル9世(ジャン=ユーグ・アングラード)の妹、フランス王女であるマルグリット・ド・ヴァロワ(イザベル・アジャーニ)はユグノー(新教徒)のアンリ・ド・ナヴァール(ダニエル・オートゥイユ)とカトリックとユグノーの争いを鎮める為に政略結婚を結ぶことになります。パリはアンリとマルゴの婚礼に列席するためにやってきたカトリックとユグノーであふれかえっています。そんな中母后カトリーヌ・ド・メディシス(ヴィルナ・リージ)はユグノーの首領格コリニー提督(ジャン=クロード・ブリアリ)を父とあおぐ国王シャルルの敬愛ぶりに危機感を抱き、コリニーの暗殺を企てるも失敗。ユグノーからの仕返しを恐れたカトリーヌはギーズ公(ミゲル・ボセ)と結託しついに凄惨なサン・バルテルミの虐殺を起こします。襲撃され傷ついたユグノーの青年ラ・モール(ヴァンサン・ペレーズ)はマルゴの庇護を求め、恋に落ちた二人は逢瀬を重ねていくのですが…。
これも最初に見たのは10代のころです。ドロドロした愛憎渦巻く歴史大作、という印象でしたがやっぱり歳くってから見るとまた違う印象になるもんですね。
寝室を共にしないとはっきりアンリに言うマルゴがなんでアンリの為に一生懸命になるのかとか、まるでわかってなかったなぁ。自分の意志とは関係ないところで人生が決まっていく、生殺与奪を誰かに握られた頼りない孤独な存在であるお互いに、ある種共感があったんでしょうね。愛ではないけれど、お互いに自分を投影しあうような関係だったんでしょうか。
奔放なマルゴの哀しさっていうのも今になってようやく少しわかったような気がします。男達に好きなように弄ばれてきた彼女。でも自分を必要とし愛してくれた男はいない。欲望の対象となることでしか孤独が埋められなかったマルゴ。だから「男無しで夜は過ごせないわ。」とうそぶいて誰かに身を任せ続けてきたんじゃないでしょうか。淫蕩さと聡明さを持ち合わせ、女としての虚しさと孤独を漂わせ、それでも愛する男に見せるあどけない顔と思いの切なさがすごくいいですよね。イザベル・アジャーニ、大熱演だと思います。ただイザベル・アジャーニが熱演な分ちょっとヴァンサン・ペレーズの影が薄いかなぁ。とっても魅力的な男前ですが、周りが濃すぎたかな?ジャン=ユーグ・アングラードとか怪演ですしね。シャルル9世気持ち悪かったなぁ。なんかマザコンっぽくて幼稚な所が。強大な母后カトリーヌに押さえつけられて鬱屈したまま大人になった感じです。そのカトリーヌが中途半端だとまずいところですが、そこはさすが大女優ヴィルナ・リージ。画面を支配するかのような圧倒的な存在感。メディチ家の女らしい冷酷な策略家の顔を存分に見せてくれます。が、彼女もまた不遇な結婚を余儀なくされた孤独な女王であったことを思うと…複雑ですね。もちろん映画ではそこまで描かれてはいませんが、ヴィルナ・リージはそれを想像させるような孤高の母后カトリーヌを演じきっています。
倦怠と諦観に満ちたようなヴァロワ家の兄弟と対象的にもがき生きようとするアンリ役ダニエル・オートゥイユも印象的です。運命に翻弄され明日をも知れない身ですが、彼はもがくことをやめません。それは力強く、マルゴへの恋に燃えるラ・モールとはまた違った生命力を感じさせるような気がします。
一癖も二癖もある人物達。暗い画面、惨たらしい虐殺のシーン、夥しい死体、陰謀と愛憎。単純な悲恋の物語でもなく、人の悲しみや苦しみ、そして残虐さを感じられる重厚なとっても見応えのある映画です。
こうなると気になるのはまだ見ていないジャンヌ・モロー主演の『バルテルミの大虐殺』。ちょっとイザベル・アジャーニと見比べてみたい気がします。とっても美しく熱演のアジャーニですが、やっぱり彼女は『アデルの恋の物語』や『ポゼッション』、『カミーユ・クローデル』などなど、壊れゆく女の役が真骨頂だと思うので、マルゴはちょっと物足りない感じなので…。ジャンヌ・モローのファム・ファタールらしさがどんな風に出てるのかとかとっても気になります。運命に弄ばれた悲劇の王妃というには、彼女ちょっと強そうですしね。気になります。
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