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美しい人

彼女を見ればわかること』がすごくよかったので、同じ監督の『美しい人』も見てみました。原題は『9 Lives』。そのタイトルどおり、9人の女性の人生の中のある瞬間を10分だけ切り取って見せる作品です。
服役中で仮釈放を得るために模範囚になろうと懸命なサンドラ(エルピディア・カリーロ)。昔の恋人と再会するダイアナ(ロビン・ライト・ペン)。父親とのトラウマを抱えて家出し、そして父と対峙するために戻って来たホリー(リサ・ゲイ・ハミルトン)。夫との間に微妙な心のすれ違いを感じているソニア(ホリー・ハンター)。障害者の父と介護しながらも父と距離をおく母との間に立ち伝達者のような役割をしているサマンサ(アマンダ・セイフライド)。元夫の妻が自殺し、その葬儀に参列するローナ(エイミー・ブレネマン)。夫の介護に疲れて不倫に走ろうとするルース(シシー・スペイセク)。乳房切除手術の直前、ナーバスになっているカミール(キャシー・ベイカー)。娘(ダコタ・ファニング)と共に墓参りにやってきたマギー(グレン・クローズ)。
この9人の女性の物語というよりはエピソードを描いているんですが、たった10分に1人の女性の人生を凝縮させる監督の手腕もすごいですが、ワンシーン、ワンカットで見せる事を可能にした女優陣の熱演が本当に素晴らしいです。
たった10分、されど10分。彼女達の悩みや悲しみや愛が切々と伝わってきます。
お互いそれぞれ幸せな生活をおくっているのに、まだ愛してると言う男の狡さ、理屈ではなくその言葉に揺さぶられ、思い出だったはずの思いが蘇ってしまいどうしようもない感情の波に飲まれてしまうダイアナのエピソードが印象的。そうそう、男ってどういうつもりだかしらないけどこういうつまんないこと言い逃げするよなぁ、という男の狡さと、つまんないこととわかってながら揺さぶられてしまう女の愚かさに苦笑しながらもちょっと身につまされます。
ローナの元夫の妻の自殺の原因が自分にあると知りながらも自分を激しく求めてくる夫を受け入れてしまう罪深さ、そのことに深く傷つく姿はとても情感に溢れて叙情的で美しいです。
不倫しようとしながらも、モーテルでちょっとした出来事を見て家族を、そして彼らを愛していることを思い出し、逃げ出すことをやめ家族の元に帰っていくルースのエピソードはとてもハートウォーミングです。
ひとつひとつのエピソードがそれぞれに素晴らしくて印象的なので書き切れないので特に心に残ったものだけを挙げてみました。
原題の『9 Lives』もシンプルでストレートでいいですが、この『美しい人』という邦題はとても上手いと思います。
みんな成功して輝いているわけではなく、むしろ生活に疲れていたり、言いようのない激情の中にいたり、悩んでいたり苦しんでいたり。でもそんな人生から逃げ出さずちゃんと向き合おうとしている彼女達はとても美しい。その人生がその人の美しさを作っていくのだということをこれほど感じさせてくれる映画は無いと思います。
人はいつだって愚かで弱くて滑稽なほどあがいているけれど、そこから逃げ出さない強さと人生に向き合う美しさを手に入れることができるんだ、辛くても苦しくても、たとえそれが滑稽であろうとも精一杯生きていこう、そんな気持ちにさせてくれる映画。
つまらない、なんでもない日常の中にこそあるドラマに光を当てて描ききった監督と、それを演じ切った女優陣に脱帽!です。


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