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夢二

鈴木清順監督、浪漫3部作の3作目、『夢二』。

1917年、金沢。駆け落ちを約束した恋人、彦乃(宮崎萬純)を待つ竹久夢二(沢田研二)は、隣村で妻と妻の愛人を殺した殺人鬼(長谷川和彦)が山へ逃げたという噂を耳にします。約束の恋人は現れず、モデルにしてほしいとやってきたお葉(広田玲央名)となんとなく彦乃を待ち日々を過ごす夢二。芸術家としての苦悩にも悩まされていた夢二は、湖上で夫(原田芳雄)の遺骸を探す人妻、巴代(毬谷友子)に出会い、逢瀬を重ねますが…。
極彩色に彩られた幻影の世界はそのままに、沢田研二の飄々とした独特の色気が軽やかさを加えています。
山の屠殺場から血を湖に注ぎ込む禍々しいホース、山に響く銃声、死神の鎌のような凶器を持ち山に潜む男。死んだのか生きているのか、現れてはまた姿を消しゆっくりとゆっくりと得体の知れぬ不気味さで夢二を搦め捕る男。
純粋に夢二に恋し、それ故に幻想の暗い世界に引き込まれていく彦乃、時に嘲笑するように、時に全てを見通すかのように嬌声を上げて夢二を見つめるお葉、暗い暗い夢を生み出しその夢に自らが捕らえられているかのような巴代。3人の女に翻弄されながら暗い夢の中に堕ちていく夢二。
エロティックでグロテスクで、好奇心と少しの嫌悪を感じながらも覗き見始めればもう清順の世界に搦め捕られてしまう。そんな不思議な映画です。
前2作(『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』)が平衡を失わせ眩暈を起こさせるような眩惑の世界だとすれば、『夢二』は万華鏡のような次から次へと極彩色の世界が現れて取り巻かれていくような感じだと私は思ったのですが、どうでしょう?
多層的な構造から多角的な横への広がりを持つ世界。清順美学に彩られた世界に底無し沼のようにずぶずぶと引きずり込まれていくような感覚とはまた違って、その世界が広がり気が付くと四方八方を取り囲まれて閉じ込められてしまうような…そんな感覚になります。
エロスとタナトス、美と醜、狂気と正気、そして夢と現。
極彩色に溢れた画面とは裏腹に暗い暗い夢の世界。男も女もどこか壊れていて、そしてどこか孤独で。ぽっかりと開いた暗いたうろを恐れながらも覗き込まずにいられない。ほの暗い中から見え隠れする妖しく美しい、匂い立つような頽廃的な世界。
とっても抽象的な感想になってしまいましたが、この不思議な夢の世界をどう表したらいいのか、すごく難しいです…。
明快なテーマやストーリー性を求める人にはオススメできない映画ですが…。
でもたまにはこんな混沌とした世界に眩惑されてみるのも面白いんじゃないでしょうか?
何より匂いを感じる映画ってのはそうは無いと思います。
比べると怒られそうですが、『パフューム』なんかよりよほど生々しく甘い甘い酔うような匂いの立ち上る清順の世界。
一度ハマると中々抜け出せないかも…。

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