【本を出したい人に向けて 第3回】タイトルは初回MTGが命
前回、企画会議の時に付されているタイトル=仮タイトルが超重要である旨書きました。
※書籍のタイトルは出版社により多少の違いはあるものの、発売約2カ月前に、マーケティング会議が開かれ、仮タイトルは変更されることは多い
とくに
・企画会議を通過するためには、営業部、宣伝部、役員にコンセプトが伝わることが大事。それが仮タイトルの役割
・仮タイトルにそって、それぞれの章の提言や主張がかわる。そのため、自身の執筆やライターの書きぶりが仮タイトルによって左右される
・自分が持っているコンテンツと仮タイトルに整合性があることで、約6万字のコンテンツをしっかりと書くことができる
という部分で仮タイトルは大きな力を発揮します。
▼前回の記事はこちら!
さて、今回はその仮タイトルはいつ決まるのか?
ということを私なりの視点で書いていきたいと思います。
★仮タイトルは初回MTGで決まる可能性大!?
なんとも刺激的な項目タイトルになりましたが、それを実感していただきたいので、今回は一緒に本をつくった著者の先生との打ち合わせを基に解説したいと思います。
前の会社で『儲かる会社はホームページが9割』という本を一緒につくった著者の芝田弘美さんとの打ち合わせを振り返りながら、解説してまいりますので、よんでいただけたら嬉しいです。
【打ち合わせ前】
三田「…芝田さんの経歴は、『中央省庁・中小企業のWebサイト構築、1000件以上のプロジェクトに携わる。』そして、ホームページ制作会社プリズムゲートの代表取締役だったな。どういった切り口で、どんな本をつくりたいのかな…」
この段階で三田が芝田さんに聞きたいことは下記の通りでした。
・ホームページを持っていることは会社としていまや当たり前。それなのになぜ、今ホームページ集客の本なのか?
・SNS全盛の時代に、ホームページを世に問う真意は?
・読者層は誰なのか?
・誰でもできるものなのか?
こういった質問は企画の骨格を作るために絶対にする質問ですが、この質問をするとタイトルもおぼろげながら浮かんできます。
打ち合わせ前に聞くべきことをまとめて、芝田さんのもとに伺いました。
【打ち合わせ時】
三田「芝田さん、こんにちは! 早速ですが、ホームページの企画ということで、どういったコンテンツをお考えですか?」
芝田さん「集客力があがるのはどっち?(集客できるホームページとそうではないホームページを比べるやり方)というテーマで書きたいです」
三田「それはなぜですか?」
芝田さん「私のクライアントは中小企業の方がおおいのです。中小企業の担当者はいろんな部署の仕事を行いながら、ホームページの運営を進めることが多く、時間がありません。その方々に向けて、手っ取り早くこれをやればホームページから集客できますよ! と伝えたいのです」
三田「なるほど。しかし、なぜ今ホームページなんでしょう?」
芝田さん「今新型コロナウイルスの影響で対面の営業がシビアになっています。ホームページは自社のサービスをクライアントに向けて掲載することができますが、それは24時間自社の営業をすることと同じです」
三田「他にはありますか?」
芝田さん「このコロナでYouTubeやSNSの発信にさらに注目が集まっています。しかし、いくらそれらをやったとて、ホームページがしっかりしていなければ、サービスを頼んだり商品を購入したりする決断をすることはできないでしょう」
三田「どういうことでしょうか?」
芝田「たとえば、X(旧Twitter)やYouTubeで商品の紹介情報を発信したとしましょう。しかしお客様がホームページにいき、その商品を探しても値段が書いていなかったり、どんなサービスなのか説明がなかったりすることが往々にしてあるのです」
三田「え? そんなことって本当にあるんですか?」
芝田「結構ありますよ。とくに中小企業さんは、人材不足でホームページ対策ができず、もったいないつくりをしているのをよく見かけます。いい商品を作っている会社はたくさんあるのに、お客さんとの接点づくりがうまくなくて世にいきわたっていないところに虚しさを感じますね」
三田「そうなんですね! わかりました! しかし、ホームページから集客できるのかなぁと私なんか思ってしまいます。これだけホームページがあるのに、今更それを強化しても、、、」
芝田さん「と思いますよね! そこが盲点なんですよ。ホームページのQ&Aや、社長紹介ページなどを充実させたり、購入導線を少し変えるだけで集客は数倍の差がつくんですよ。SNSは毎日発信しないと見てもらえないけれど、ホームページはひと手間加えれば、1ヶ月に1回くらいの更新頻度で集客を大きくしてくれるんです」
三田「えっ!?」
芝田さん「ふふふ。しかも成功するホームページと失敗するホームページの差は紙一重。だからこそ、世に問いたいんです」
三田「ありがとうございます! 早速会議にかけますね」
打ち合わせ終了。
とすこし端折ってますが、このような流れでした。
さて、この打ち合わせで皆さんはタイトルをどう考えますか?
少し整理しましょう。
著者の芝田さんが望んでいるもの
■忙しいホームページ担当でも読みやすいコンテンツ
■わかりやすいのは成功、失敗事例の比較
■ホームページを改善すれば集客力が上がるのに、あまりそこにフォーカスされていない
■SNSを充実させても、最後に販売ページになりうるホームページのできが悪いと、離脱される可能性あり
■ホームページの改善は難しくない
事前に質問することを決めていたため、芝田さんから上述の考えを引き出せました。
これは企画の骨子になるのですが、そのままタイトルの要素にもなり得ます。
質問で重視したのは下記の観点。
・なぜ今? ・誰が読むのか? ・そもそもこのテーマを選ぶのはなぜか?
です。これはこのまま、カバーのタイトル案に活きます。
今回の場合『集客できるホームページはどっち?』というのが芝田さんからの提案タイトルでした。このタイトルは企画の内容をわかりやすく説明してくれていて、仮タイトルとしてはパンチがあったため、私はこのままのタイトルにして、会議にはかりました。
ただ、このことも初回のMTGでしっかりとお話しできたからこそ、そう考えられました。
★タイトル以外も重要な要素
ただ、他の要素も決めておくと、企画の精度はぐっとあがります。
本は形あるもの。タイトルだけが重要なわけではありません。
本の構成要素は、カバー、帯です。なので、帯文も考えて入れておくと、会議の参加メンバーはイメージがしやすくなります。
ここで私が良く考えるのがインパクトとフィジビリティ(実現可能性)です。
インパクトはあるけれど、実現可能性がないことを仕事ではやれませんよね?
また実現可能性はあるけれど、インパクトがちいさければ、その仕事に意欲がわきませんよね?
ビジネスパーソンは常にインパクトとフィジビリティを重要視して仕事をしているといっても過言ではありません。だとしたら、ビジネス書にその要素を盛り込まない訳にはいきません。
これが読み手を考えるということ。
本がなぜジャンル分けされるかというと、それぞれの読者が求めるものが違うからです。
この場合はビジネス書なので、求めるのは、インパクトとフィジビリティ。
タイトルはパンチがあると考えたので、帯文はフィジビリティ重視にしました。
私は芝田さんとの打ち合わせをし、重要な要素として、
■忙しいホームページ担当でも読みやすいコンテンツ
■SNSを充実させても、最後に販売ページになりうるホームページのできが悪いと、離脱される可能性あり
■ホームページの改善は難しくない
を帯文に掲載しようと考えました。
その結果は図版の通りです。
インパクトは黄色い丸囲み、フィジビリティは赤いフォントで記載しております。
また、何を変えればいいのかに関しては、青い四角囲みのところになります。
これらがあることで、中小企業のホームページ担当の方も取り組みやすいと思ったのです。
さて、流れを解説してきましたが、私は初回MTGで、仮タイトルはほぼ決まると思ってます。
企画の骨子はタイトルの重要な要素になりえます。
それを初回のMTGという一番温度感の高いときに聞き、タイトルに設定する。そうすることで、企画会議に持っていきやすくなるのです。
あついうちに企画を作らないと、僕の場合は企画会議にもっていけないタイプなので、なおさらでした。
これから本を作る、企画書を作るという方は、ぜひ編集者とのMTGや初回のMTGへの準備は入念に行ってください。
そのなかでも「なぜこのテーマで本をだすのか?」「なぜ今やるのか?」「なぜ私がやるのか?」が明確だと企画の骨子も立てやすいかと思います。
芝田さんの企画は通過。
無事ゲラも作成でき、カバー作成へと至ったのですが、ここで大問題が、、、
★やっぱりタイトルを変えたい
編集の三田が下記の電話をしたことにより、芝田さんは眠れなくなるほど思い悩むことになります。
三田「芝田さん、カバータイトルの件ですが、、、」
芝田さん「あーはいはい! マイナーチェンジでしたら、オッケーです。そちらの判断で進めていいですよ!」
三田「タイトルですが、『儲かる会社はホームページが9割!』にしたいと思います」
芝田さん「えっ!!! ちょちょちょっと待ってください。一日考えさせてください。それにしても何故ですか?」
三田「はい、色々考えたのですが、集客できるホームページはどっち? だとそもそも、ホームページ担当者しか見ないかなと思いました。今のキラーフレーズである、『儲かる』ということばと『9割!』という言葉を挟むことで、売上に悩む社長にも刺さるタイトルにしたいんです」
芝田さん「9割なんて、、、、根拠は?」
三田「SNSで集客しても、YouTubeで集客しても最後のホームページが見づらかったり、何を書いているのか分からなかったら買われないんですよね? グーグルで検索されてもすぐ離脱されるんですよね?」
芝田さん「はい! もちろんそうです! …なるほどだから9割なんですね?」
三田「そうです! ただ、アテンションをあつめにいっているのではなく、この原稿を読んでの判断です」
芝田さん「わかりましたが、やはり一日考えさせてください!」
このやり取りを経て、次の日に芝田さんから許可をいただき、
『儲かる会社はホームページが9割!』 が生まれました。
★正解はないからこそ勉強を惜しまない
もし、芝田さんが、「あの、やはり集客できるホームページはどっち?」と連絡したらどうしたのですか? と当時言われることが多かったのですが、私の回答は、
「土下座をしに行ってでも、『儲かる会社はホームページが9割』にしたと思います」です。
原稿を読み、読者の立場になり、どのタイトルだったらその著者と出会いたいと思うか?
私なりに決断を下したからです。
こののち、本書は重版となり、多くの人に読みつがれることとなりました。
では、芝田さんの提案のタイトルだったらどうだったか?
もっと売れたのかもしれません。
もっと反響があったのかもしれません。
そう、正解はないのです。
であるからこそ、著者の先生を熱い思いで説得するのです。
「日頃から本を読んでいる」、「本屋に出向いている」ことが我々編集には求められます。
そこに熱さが生まれるからです。
テクニカルなことも重要ですが、人間としての熱さこそがタイトルを生むと思ってます。
そして、冷めた人間にならないように、常に本屋に行き、売れている本をチェックし、新聞広告をみて、クリエイティブを観察したりします。
それが僕の本に対する責任です。