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本屋発注百景vol.1 本屋lighthouse


本屋発注百景とは

本屋さんはどんなふうに仕入れを行い、お店を運営しているのか。本屋発注百景は、独立書店、まちの本屋、チェーン系書店まで、様々なお店の「発注」にクローズアップする連載企画です。取材は、独立書店ウォッチャーであり、ライター・書店主の顔をもつ、和氣正幸さんにお願いしました。「本を仕入れる」という単純なようで奥の深い営みを続ける6つの書店の風景をお伝えできますと幸いです。

連載にあたって

独立書店と呼ばれる小さいながらも確かな光を放つ本屋のことを追いかけてもう少しで13年。いろいろな店を様々な切り口で紹介してきたが「発注」という観点で取り上げるのは初めてである。

発注。たしかに独立書店の開業が近年著しい。だが、独立書店というものは一人で店を切り盛りしていることが多く、なかなかノウハウ的な部分を相談し合うような場というのは少ないように思う。実際、自分自身も「BOOKSHOP TRAVELLER」を経営していて、テクニカルな部分で分からないことはまだまだ多い。そんな折に、BookCellarさんからこの話をいただいた。渡りに船とはまさにこのことだ。

ということで本連載が始まることになったわけである。第一回目に話を聞いたのは本屋lighthouse店主の関口竜平さん。2023年の4月に『ユートピアとしての本屋:暗闇のなかの確かな場所』(大月書店)を上梓した方で、反差別の立場を明確にしていることでも有名だ。店でもその立場に恥じない棚づくりをしている。実際伺ってみるとフェミニズムやアナキズムの関連書がよく売れているとのこと。志に共感するお客さんが多くついているのだろう。詳しいことは同書に載っているのでぜひ読んでみて欲しい。

ウインドウにはお知らせのほか、「今週幕張店で売れた本」のスリップが掲示されている

店のオープンは2019年。当初は住宅街の中にDIYで小屋をつくり週2回営業でオープンしていた(小屋本店)。街中でゼロから物理的に本屋をつくるというその試みがとても新鮮だったことを覚えている。そうして続けていくうちに現店舗の2軒隣りにある「HAMANO COFFEE STAND」のオーナーから声がかかり、幕張支店として営業日も広さもぐっとパワーアップして2021年にオープンしたのが今回訪れた店である(小屋本店は休業中)。いちおう断っておくが通常の店舗物件だ。

ちなみに、なぜ本屋lighthouseが一店目に挙がったかというと、関口さんがときわ書房志津ステーションビル店でアルバイトをしている書店員でもあるからだ。独立書店と書店チェーン、両方のことを知っているからこそ、「発注」というテーマで聞けることがあるだろうと思ったのだ。

書店名 本屋lighthouse幕張支店
創業 2021年
店舗面積 約40㎡(本屋:20㎡ / 奥の部屋:20㎡)
住所 〒262-0032 千葉県千葉市花見川区幕張町5-465-1-106
最寄り駅 JR/京成幕張駅より徒歩6分
定休日 月・火・第3水曜日
営業時間 12時~19時
HP https://books-lighthouse.com/

反差別の本屋に聞く「発注、どうしてる?」

JR総武線から徒歩6分。マンションの1階部分にある幕張本店は小屋本店と比べてとても広い。手前が本屋スペースで奥はイベントスペース。奥では発送作業もしているそうだ。在庫数は2千~3千程度だろうか。品揃えも豊富で、フェミニズムや差別に関する本はもちろんのこと、エッセイや詩歌、絵本、国内外の文学もしっかりとある。コミックと文庫の数が多いことには驚いた。

入口近くの棚に文庫・コミックを配置。コミックは各巻1冊ずつ揃っている

―――この規模の店としてはコミックや文庫が多いと思いますが……。

関口 自分の知っている本があるとお客さんは安心できますよね。文庫とコミックはその役割にぴったりなんですよ。

―――書店チェーンでも働かれているからでしょうか。独立書店にもグラデーションがありますが、その中でも街に開かれた本屋としての意識を感じます。さて、仕入れの判断はどのようにしていますか?

関口 再入荷の判断にはスリップを活用しています。久禮亮太さんの『スリップの技法』(苦楽堂)のやり方ですね。最近はスリップを挟まない出版社も多いのでvslipという自分でスリップを作れるサービスを活用して印刷、自分で挟み込んでいます。

―――やはりスリップは大事なんですね。では、システム面は何を使っていますか?

関口 Airレジです。入力が面倒ですが単品管理ができて、在庫の増減推移も見られるので再入荷の判断の参考にしています。

スリップに入荷日を記載し、再入荷の判断材料にしている

本屋lighthouse 関口さんの1日 
10:00 お店にくる
10:00-11:00  ウェブストア分の発送手配・郵便局に持ち込み
11:00-12:00  入荷が届くので、入荷処理
12:00 開店 
   接客
   原稿執筆・原稿確認等
19:00 閉店

新刊情報は3週間前にチェック

―――新刊情報はどうやって入手していますか? 僕はTwitterが結構な情報ソースなのですがまだまだ足りない部分が多いと感じていまして……。

関口 毎週水曜日に1週間分まとめて、3週間後の近刊を、カレンダー表示がわかりやすい「BooksPRO」でチェックしています。そこで気になった書名をコピーして版元ドットコムのサイトに入力。出てきた書誌情報をコピーして、さらにNotionで管理する、という方法をとっています。

―――仕入先はどのように考えていますか? 子どもの文化普及協会さんや八木書店さんなどの小取次にお願いすることが多いのでしょうか?

関口 出版社と直取引のこともありますが小取次さんにお願いすることが多いです。それぞれ同じ出版社でも掛け率が違うことがありますし、取引先出版社も違うので、使い分けています。
その上で、先程のNotionで「この本はBookCellarを通してトランスビュー取引代行や八木書店さんに」、「こちらは子どもの文化普及協会さんに」、「コミックや文庫は弘正堂(弘正堂図書販売)さんに」、……と項目分けしてまとめておくんです。「一冊!取引所」さんはクレジット決済ができる一冊!決済が良いですよね。

BookPROの近刊紹介画面。発売日別に新刊を確認できる。共有書店IDがあれば利用可能。

本屋lighthouseの新刊チェックと発注ツール

新刊チェック
(利用サービス:用途)
BooksPRO:発売日・ジャンルで書目を確認
版元ドットコム:書誌情報をコピー(ニュースレターで配信している新刊チェック記事にも活用)
Notion:発注書目の管理
vslip:再入荷の判断材料
Airレジ:販売動向チェック
発注
(利用サービス:用途)
BookCellar:八木書店・トランスビューへの発注
子どもの文化普及協会:上記以外の出版社への発注
弘正堂(弘正堂図書販売):コミック・文庫
一冊!取引所:取引条件により利用

感覚的に身に付いたチェーンの仕入れ方、小さな店の仕入れ方

基本的に仕入は1冊ずつ

―――なるほど。でも、そうやってチェックしていると仕入れたくなる本がどんどんと溜まっていってしまいますよね。毎月の仕入れの予算はどう考えていますか?

関口 予算は考えていません。いまくらいの大きさの店だったら、棚のすべてを見つつ入荷数や売れ数を把握しつつ判断することができるので。アルバイト先の書店チェーンの感覚と、いまよりも狭く仕入れ数についてシビアな判断をせざるを得なかった小屋時代の経験から、どの本をどのくらい仕入れればいいか感覚的に分かるんです。だいたいまんなかくらい、みたいな(笑)

新刊確保に対する焦りはない

―――では、再入荷や入荷冊数についてはどうですか? 売れた本をまた入荷するかどうかも結構な悩みで……。

関口 再入荷については新刊のように決まったときに発注するのではなく売れたときに判断しちゃいます。その判断をすばやくするためにスリップやAirレジデータが活きてくるんです。初回の仕入れ冊数については、うちは棚差しが基本ですが「これは売れそうだな」と思う本は2冊仕入れて新入荷コーナーと本来の棚に1冊ずつ入れたり、店の色に合っている本は4冊仕入れて残りの2冊を平台で積んだりしますね。でも、もし一時的に品切れになったとしてもそこはもう仕方ないと割り切っています。一週間あれば再入荷できますし。下手に追いかけすぎて在庫過多になるほうがやりくりが難しくなるので。

奥にあるイベントスペース兼作業スペースで話を聞いた

―――ちなみに、BookCellarでよく利用している機能はありますか?

関口 「履歴」ですね。いままで仕入れた本が一覧できるので仕入れの参考にしています。八木書店さんへのリクエスト注文もいいですね。『現代思想』(青土社)のバックナンバーでフェミニズム特集の本がよく動くので重宝しています。実は全体の仕入れのうち30%~40%くらいBookCellarさんを通して仕入れているんですよ(笑)

―――ありがとうございます(笑)

八木書店へのリクエスト注文機能を使えば、BookCellarに書誌データのない本も発注可能

おまけ BookCellarでこの本発注しました

―――最後に、BookCellarで発注した本の中で印象的だった本を挙げていただけませんでしょうか?

関口 『布団の中から蜂起せよ: アナーカ・フェミニズムのための断章』(高島鈴 / 人文書院)はウェブショップも含めてトータルで200冊くらい売りましたね。それに、『まとまらない言葉を生きる』(荒井裕樹 /柏書房)と先程も触れた青土社の『現代思想』『ユリイカ』のフェミニズムや差別関連特集のバックナンバー、『シモーヌ』(現代書館)もよく発注します。
それに店名の由来にもなっている『灯台守の話』(ジャネット ウィンターソン 著 岸本佐知子 訳 / 白水社)は必ず店に3~4冊はあるようにしています。

―――どの本も本屋lighthouseさんだから買いたいと思えるような本ばかりですね。自分の店でもそういう本を見つけていきたいです。ありがとうございました。

事業の柱として本の出版も手がける。本屋lighthouse刊行『まばゆい』(僕のマリ著)(写真右)

『布団の中から蜂起せよ: アナーカ・フェミニズムのための断章』(高島鈴 / 人文書院)
『まとまらない言葉を生きる』(荒井裕樹 /柏書房)
『現代思想2020年3月臨時増刊号 総特集=フェミニズムの現在』(青土社)
※八木書店へのリクエスト注文にてご注文ください
『ユリイカ 2023年5月号 特集=〈フィメールラップ〉の現在』(青土社)
『シモーヌ』(現代書館)※2023年7月時点でVol.8まで刊行
『スリップの技法』(苦楽堂)
『ユートピアとしての本屋』(大月書店)

BookCellarをご利用いただくと、本屋lighthouseが仕入れた本発注した本を仕入れることができます。
注文書はこちら。
https://www.bookcellar.jp/orderlist/980512/

また、『灯台より』『まばゆい』他、本屋lighthouseが発行する書籍もBookCellarで発注可能です。

本屋lighthouse店主・関口竜平さん

取材日:2023年6月9日
取材・文 和氣正幸
写真 BookCellar事務局

プロフィール
和氣正幸(わき まさゆき):本屋ライター。祖師ヶ谷大蔵にある本屋のアンテナショップBOOKSHOP TRAVELLERの店主でもある。『本の雑誌』での連載「本屋の旅人」(2021年12月~)など各種媒体への寄稿、電子図書館メルマガの編集人ほか、ブックイベントのディレクションなど本屋と本に関する活動を多岐にわたり行う。著書に『東京 わざわざ行きたい街の本屋さん』(G.B.)、『日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)、『続 日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)。共著で『全国 旅してでも行きたい街の本屋さん』『全国 大人になっても行きたいわたしの絵本めぐり』(G.B.)『本屋、ひらく』(本の雑誌社)がある。