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本屋発注百景

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本屋さんはどんなふうに仕入れを行い、お店を運営しているのか。本屋発注百景は、本屋ライター・和氣正幸さんが様々なお店の「発注」にクローズアップする連載企画です。
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#BookCellar

本屋発注百景vol.16 未来屋書店上尾店

大型書店のイメージが変わる!書店員が推し本を売り、ブックフェスを開催する店 8月のあるとき、BookCellarの発注数を見ていると妙に数が多い店があった。それが今回取り上げる未来屋書店上尾店だ。主に独立書店を訪ねてきた本連載だが、チェーン型書店でどのように使われているかには以前から興味があった。書店員としての一日もどのようなものか気になることであるし、これはぜひ話を聞いてみたい。 さて、そうやって訪ねた未来屋書店上尾店であるが、JR高崎線・上尾駅から徒歩15分ほどの場所

本屋発注百景vol.15 透明書店

本屋の内情を数字ベースですべて公開する店 独立書店が増えているとは言うがその実態はどうなのか? その内情は? なかなか明かされることのない本屋の内情を数字ベースですべて明らかにしてくれる。そんな本好き・本屋好きにとってはある種、これ以上ないくらいエキサイティングな試みをしてくれていたのが今回訪れた透明書店だ。 公式noteで毎月投稿される『お金まわり公開記』では、オープンから一年経った2024年4月にははじめての単月での黒字化を達成していたその旨も公開されている。2023

本屋発注百景vol.14 Readin’ Writin’ BOOKSTORE

本屋も生活も、続けていくことを目標に。ライフスタイルとしての本屋 今回取り上げる本屋は浅草からほど近い、田原町にあるReadin’ Writin’ BOOKSTOREだ。 早速だが店内を見てみよう。元材木倉庫だったという店内は天井が高く、入口の大きなガラスからは光が差し込み、とても気持ちが良い。壁沿いはすべて本棚で真ん中に平台が1つ、本棚の島が3つといったレイアウトだ。入ってすぐ右手には階段があり、登ると中二階に畳のコーナー。お座敷一箱古本市などを開催しているという。

本屋発注百景vol.13 本屋B&B(後編)

前回は本屋B&Bのスタッフ中西日波さんに話を聞いた。有名独立書店の一日が分かるようなインタビューだった。近刊情報の取得にはブクログを利用していることには驚いたし(これまでの連載でブクログを利用している方ははじめて)、トーハンに30タイトル注文しても実際の入荷は2,3タイトルで不足分は他のシステムを利用したり発売後に連絡することで確保するという話は、書店実務の現状を見たようでハッとさせられた。 前編はこちらから。 さて、後編のテーマはイベントである。本屋B&Bを取り上げるな

本屋発注百景vol.12 本屋B&B(前編)

オープンから12年を迎えた「あたらしい街の本屋」の現在地 この連載もついに一年を迎えた。このタイミングでこそ取り上げたい店がある。独立書店について語るならここは外せないだろうという店だ。満を持して取り上げよう。本屋B&Bである。 本連載の読者はご存知かもしれないがあらためて店の紹介をしておくと…まだ独立書店の数が今ほどではなかった2012年。下北沢に「あたらしい街の本屋」と掲げてはじまったのが同店だ。ブックコーディネーターの内沼晋太郎氏が博報堂ケトル代表取締役社長の嶋浩一

本屋発注百景vol.1 本屋lighthouse

本屋発注百景とは 本屋さんはどんなふうに仕入れを行い、お店を運営しているのか。本屋発注百景は、独立書店、まちの本屋、チェーン系書店まで、様々なお店の「発注」にクローズアップする連載企画です。取材は、独立書店ウォッチャーであり、ライター・書店主の顔をもつ、和氣正幸さんにお願いしました。「本を仕入れる」という単純なようで奥の深い営みを続ける6つの書店の風景をお伝えできますと幸いです。 連載にあたって 独立書店と呼ばれる小さいながらも確かな光を放つ本屋のことを追いかけてもう

本屋発注百景vol.2 今野書店

街の本屋のひとつの究極のかたち 今野書店はいわゆる独立書店、といった言葉から想像される店とは違うかもしれない。どちらかというと「街の本屋」という表現がぴったり来る店だろう。店頭からレジ前まで続く雑誌棚、奥にある絵本やコミック(※)のコーナー、そして「こんな本があったのか!」と思わず手に取りたくなる文芸・人文の棚など、オールジャンル万遍なく揃える。 老若男女、ちょっとした困りごと解決の人から本を純粋に愛する人まで。街のすべての人々に向けた店づくりは「自分の街にもこんな店があ

本屋発注百景vol.3 書泉グランデ

本の街・神保町にある大型書店 独立書店や街の本屋以外にもBookCellarは利用されている。それは例えばナショナルチェーンだったり、ローカルチェーンだったりするのだが、今回訪れたのは神保町の書泉グランデ。本稿をお読みの方はご存知かもしれないが5階(2023年9月改装)にある鉄道関連コーナーは鉄道ファンに広く知られている。 そしてそのほかにも占いやミリタリー、数学・理工、ライトノベルに特撮・映画・音楽などのカルチャー、コミック、アイドルや格闘技・スポーツなど、趣味人のため

本屋発注百景vol.4 パン屋の本屋

「本屋×ベーカリー」組み合わせの妙 ここ2回は今野書店、書泉グランデと歴史のある本屋を取材してきたが、今回訪れた本屋は比較的あたらしい店だ。日暮里にある「パン屋の本屋」である。 日暮里駅の東口を出て住宅街の方へしばらく歩くと見えてくる三角屋根の建物がパン屋の本屋のある商業施設「ひぐらしガーデン」だ。コの字型の建物は、手前がパン屋部分のひぐらしベーカリーで、奥がパン屋の本屋となっている。 ガラスの引き戸が入り口で段差がほとんどなく、外に自然に開かれているのが印象的だ。パン

本屋発注百景vol.5 ROUTE BOOKS

コミュニケーションの道具としての本 BookCellarの取引先には本屋が専業の店もあれば中には兼業している店もある。兼業の内容はというと、デザイナーやライターなど表からは分からないこともあればカフェやギャラリーなど見てそれと分かるものもあり様々だ。東上野にあるROUTE BOOKSはその中でも特に変わり種の本屋である。 運営するのは住まいや店舗のリノベーション、リフォームを手掛ける工務店のYUKUIDO。事務所移転の際に現在の場所に移り、出会いのための場、学ぶための場を

本屋発注百景vol.6 誠品生活日本橋

店舗プロデュース、選書のプロフェッショナルが登場 独立書店、街の本屋、趣味の本屋、パン屋の本屋そしてブックカフェと本連載では様々な業態の本屋を取り上げてきたが、今回取り上げるのは台湾発の本屋「誠品生活日本橋」だ。 書店として創業し、レストランやカフェ、雑貨など読書と文化を交差させてきた台湾発の複合書店グループ・誠品の日本一号店である。 場所は2019年にオープンした日本橋の「COREDO室町テラス」の2階ワンフロアだ。くらしと読書のカルチャー・ワンダーランドを謳い、「交

本屋発注百景vol.7 フラヌール書店

フリーランス書店員が満を持して構えた店 前回は誠品生活日本橋にて業界を俯瞰的に捉えた話を伺ったが、今回はまた街場に戻り、目黒にあるフラヌール書店を訪れた。 東急目黒線・不動前駅から歩いて3分。攻玉社中学校・高等学校の斜向かいにあり子どもたちの声が聞こえてくる通りにある新刊書店だ。 品揃えはというと、文学、人文、絵本、漫画、雑誌、料理書などほぼオールジャンルを揃えており、外には自由価格本※コーナーもある。棚の一部では「工作舎の90年代」や「中公新書の隠れた名著集めました」

本屋発注百景vol.8 往来堂書店

文脈棚発祥の店 本連載の2回目で今野書店を取り上げた。「筆者にとっての街の本屋のひとつの究極のかたち」と表現した西荻窪の名店であるが、今回訪ねたのは往来堂書店。筆者にとっての独立書店の原点である。 本連載をご覧になっている業界諸氏にとっては常識かもしれないが、往来堂書店は文脈棚※という言葉をつくった店なのである。筆者が本屋という仕事のことをおもしろいとはじめて思い、本屋ライターとしての活動をはじめたきっかけとなった店でもある。 千代田線千駄木駅より団子坂口を出て不忍通り

本屋発注百景vol.9 冒険研究所書店

北極冒険家、書店経営に乗り出す 独立書店にもいろいろな形態がある。その中でも特に変わり種なのが今回紹介する「冒険研究所書店」だ。何を隠そう、北極冒険家が経営する本屋なのだ。 店主の荻田泰永さんは、カナダ北極圏やグリーンランド、北極海を中心に主に単独徒歩による冒険行を実施し、2018年には南極点無補給単独徒歩到達に日本人としてはじめて成功した方で、著書もいくつもある。 そんな人がなぜ本屋を始めることにしたのか。筆者も何度か取材したがそのバイタリティにはいつも驚かされる。端