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本屋発注百景vol.14 Readin’ Writin’ BOOKSTORE

本屋も生活も、続けていくことを目標に。ライフスタイルとしての本屋

今回取り上げる本屋は浅草からほど近い、田原町にあるReadin’ Writin’ BOOKSTOREだ。

Readin’ Writin’ BOOKSTORE 店内

早速だが店内を見てみよう。元材木倉庫だったという店内は天井が高く、入口の大きなガラスからは光が差し込み、とても気持ちが良い。壁沿いはすべて本棚で真ん中に平台が1つ、本棚の島が3つといったレイアウトだ。入ってすぐ右手には階段があり、登ると中二階に畳のコーナー。お座敷一箱古本市などを開催しているという。

イベントの開催に利用している中二階の畳スペース

品揃えはというと、ベストセラーや◯◯賞受賞本といったものは少なく、何年も読み継がれるようなロングセラーや古典が多い。もちろん最新刊もあるが棚に挟み込まれた既刊に自然と目が行く。

具体的にはフェミニズムやジェンダーに関する本がまず目立つ。加えて、江戸や遊郭についての本、絵本、食・酒・珈琲、人文、本屋の本などである。量は全部で5000冊ほど。委託ではなくすべて買切りの本である。

並んでいるすべての本が買い切りという。買い切りは売り切るという本屋の覚悟でもある。

書店名 Readin’ Writin’ BOOKSTORE
創業 2017年
店舗面積 1階:13.5坪、中二階:7畳
在庫冊数 5千冊 
住所  〒111-0042 東京都台東区寿2-4-7
最寄り駅 東京メトロ「田原町駅」徒歩2分
定休日 月曜・火曜
営業時間 12時~18時
公式サイト http://readinwritin.net/

さて、店内を紹介してきたが、筆者がReadin’ Writin’ BOOKSTOREという店から感じるのは「生活と本屋」という言葉である。2017年の開店当初から取材を何度もしてきているが、この2つの言葉の組み合わせがもっともしっくり来る店だと筆者には思えるのだ。

というのも、通常、本屋は商店であるからして、当然商売のことを第一に考える。売上を上げるために営業時間を伸ばし営業日を増やし、イベントやフェア、展示などの各種施策を行う。

しかし、Readin’ Writin’ BOOKSTOREは違う。商売のことはもちろん大事なのだが、生活も同じように大切であるというか、生活があるからこそ商売があり、商売があるからこそ生活が成り立つという、ある意味で当たり前のことを思い出させるような、ライフスタイルとしての本屋とでもいうようなやり方をしているのだ。

例えば、家族と夕飯をともにするために営業時間は18時までにしたり、土日はさすがに営業するが、家族との時間を大切にするために月曜日が祝日でも店は休むようにしたり。そういった姿勢のことである。

そんな我が道をゆく本屋の店主で、元新聞記者の落合博さんに店のこと、生活のこと、そして発注のことを聞いてみた。

店舗外観。大きなガラスから店内の様子が伺える。まるで扉に後光がさしているかのようだ。

他ではやっていないことをやりたい、から7年

――こうやって話すのも何度目でしょうか?

落合 和氣さんには何度も取材していただいていますからね。

開店から7年目。開店当初から話題になっていたが、今ではすっかり田原町の顔というべき存在。

――2017年の開店からコロナ禍を超えて続けてきましたが開店当初からは結構変わりましたね。開店してしばらくはイベントをたくさんされていたように思います。

落合 イベントを開催するようになったのは2017年夏からですね。他ではやっていないことをやりたいという思いから12月には店内での演劇イベントを行うなどいろいろしてきました。

――「聡子の部屋」※や「お座敷一箱古本市」※など連続イベントは開催されていますが最近は以前と比べると落ち着いていますね。

※「聡子の部屋」。社会学者の永山聡子さんがいま会いたい人たちをゲストに招き、現在の取り組みや今後について迫る連続イベント。2019年12月からスタート。
※「お座敷一箱古本市」。中二階の畳敷きスペースが会場の一箱古本市。毎月第一土曜日に開催。

落合 今では他の店でも色々なイベントをしていますし、先行販売やサイン会などをする気もありません。あまり競争したくないので最近はあまり積極的にはお声がけしていないんですよ。ですが、以前イベントを開催してくれた出版社から声がかかることもあって、そういうときは開催しています。

3ヶ月間にわたる雷鳥社のフェア「それいけ!雷鳥社の本まつり」。出版社に直接声かけするうちに自然とつながりが生まれていったという。

――フェアについてはいかがでしょうか? 出版社一社ずつを取り上げるフェアは良いアイデアだと以前から思っております。

落合 フェアは2017年12月からはじめました。最初はおもしろい本を出している出版社に直接声がけしていました。特に繋がりがあるわけではないですがそうやって声がけしていくうちに人文書院、晃洋書房、世界思想社といった京都の出版社が多くなっていきましたね。多くはないですがそうしたできた繋がりの中でイベントを開催するといった形が最近は多いように思います。


戦争に関する本を集めたコーナー。版型、ジャンル、年代を超えて届けたい本が並ぶ。


「低く、長く、遠く」ということを意識

――一日の流れを教えて下さい。

落合 まず起きるのは朝の5時半から5時45分頃ですね。朝風呂に入って洗濯機を回します。6時頃には朝食です。ヨーグルトとパン、コーヒーを飲んでいると、妻も起きてきます。子供を起こして、洗濯物を干します。

7時過ぎには妻が仕事に行き、7時50分には子供が登校する時間なので一緒に家を出て付き添いしつつ10kmほど走ります。火木金は店のゴミ出しの日なのでランニングの途中で店に寄ってゴミ出しもします。

9時半ごろに帰宅して、早朝に干した洗濯物を取り込み、今度はパジャマやランニングシャツを洗濯、干したら家を出ます。10時半から11時くらいですね。

12時ちょっと前に店に到着してオープンです。それからはSNSのチェックをしたり、イベントのための本を読んだりしています。接客と発注や品出しをして、気がついた場所を掃除なんかもしていたら18時の閉店時間です。

帰宅したら家族と夕食を食べて21時過ぎには横になっています。

仕入れる本は基本1冊ずつ。棚差しされた本の豊かさに時間を忘れる。

――なんだかとても健康的な生活ですね。

落合 以前の取材でも話しましたが、「低く、長く、遠く」ということを意識しています。続けるために目標は低く、一日でも長く、そして新しい景色を見るために遠くを目指すといった意味合いです。


店内から入口を振り返ると、違った景色が見える。

――だから無理はしないんですね。そういえば以前は月曜日も営業していたこともありました。

落合 月曜日が祝日のときに家族と過ごせなくなるのが嫌でやめました。

――同じ本屋店主として気になるのですが売上はどうするんですか?

落合 店を開けていたとしても1日でたかだか数万円。たかが知れています。それよりも家族との時間のほうが大事です。かけがえのない時間だと思います。お金にはかえられないですね。

Readin’ Writin’ BOOKSTORE 落合さんの一日
5:30-5:45 
起床
6:00 
朝食
7:50 ランニング(子どもの登校と同時・ゴミの日は店によってゴミ出し)
9:30 帰宅後、洗濯
11:30 開店準備
12:00 開店
接客、発注、品出し、SNS投稿、イベント用の本を読む、掃除
18:00 閉店
21:00 就寝

生活の本屋に聞く「発注、どうしてる?」

――新刊の情報はどうやって手に入れていますか?

落合 他の本屋や版元のSNSアカウントと毎週日曜日の新聞書評ですね。あとはそうやって気になった本をAmazonで調べてテーマや著者、版元で関連書をチェックします。知り合いが勧めてくれる本もありますよ。

――版元ドットコムなどの近刊情報は見ないんですか?

落合 一次情報を調べだすときりがないので、誰かのフィルターを通したものから選んでいます。事前に版元からDMやメールが届きますけど、届いたときには注文できないことが多い※ので、いざ注文できるようになったときにはわすれちゃっているんですよね。

※近刊の情報は届いてもまだまだ書店が予約注文できないことは多い

浅草に近いロケーションのため、日本文化を紹介した本や洋書も取り扱う。
日本の昔話が格好いいアートブック仕様になっているとは。

――注文はどのルートですか?

落合 委託ではないので、子どもの文化普及協会か八木書店かトランスビュー取引代行ですね。雷鳥社と左右社は取引数が多いので直接連絡しています。
ちなみにBookCellarができる前は仕入れたい本はノートにとっていたんですよ。タイトルと版元、それに子どもの文化普及協会で注文できない本はISBNコードもメモして、そこから注文していました。BookCellar以前は、八木書店で注文する場合はエクセルにISBNとタイトルと版元を記入したものを送る必要があったんですよね。

――わかります。僕も以前はそうでした。

落合 トランスビュー取引代行と八木書店への注文がBookCellarからできるようになってからはノートは取らなくなりましたが。

落合さんが仕入れに使っていたノート。

Readin’ Writin’ BOOKSTOREの新刊チェック・発注利用ツール
売上チェック
・エクセル
新刊チェック
・SNS(他の本屋、出版社のアカウントをチェック)
・新聞書評
発注(利用サービス:用途)
・子どもの文化普及協会
・BookCellar:八木書店・トランスビュー取引代行を参加出版社への発注
・雷鳥社、左右社など取引数が多い版元には直接発注

――BookCellarがお役に立てているようで何よりです。BookCellarに対する要望はありますか?

落合 検索の精度を上げて欲しいですね。ときどきですがタイトルをすべて入れても全然関係のない本が出てくるということがあったので。そういうときは版元ドットコムのサイトにタイトルを入れて、ISBNをコピー、またBookCellarに戻ってISBNを貼り付けることでどうにかしていました。


集客ありきではなく、本屋の営みの一部としてイベントも根付いている。

BookCellarでこの本発注しました

――BookCellarで発注した本の中で印象的だった本をお願いします。

落合 うちは基本的に1冊ずつ仕入れるのでなにか1冊の本が多く売れる、というのはあまりないのですが、自著の『新聞記者、本屋になる』(光文社新書)は一番売れましたね。それと、『世界の「住所」の物語:通りに刻まれた起源・政治・人種・階層の歴史』(原書房)はよく動きます。特にPOPをつけたり推しだしているわけでもないので不思議ですがなぜか買っていかれる方が多いです。

売上好調書のひとつ『世界の「住所」の物語:通りに刻まれた起源・政治・人種・階層の歴史』(原書房)

あとは『パリのすてきなおじさん』(柏書房)でしょうか。途中から直取引になりましたが、イベントもしたのでよく動きました。それに『鬱の本』(点滅社)も10冊以上は売れています。

そうそう、和氣さんの本(『さあ、本屋をはじめよう 町の書店の新しい可能性』(Pヴァイン))も3冊仕入れて2冊売れましたよ(笑)

――ありがとうございます!


イベント情報

――何かお知らせしたいイベントがあれば教えて下さい。

落合 まず、「聡子の部屋」ですね。今月は8月8日と27日に開催します。

イベント名:聡子の部屋 第66回(8/27)「観察の効用ー映画づくりと夫婦別姓の話」 ゲスト:想田和弘さん
日時:2024年8月27日(火)19:00~
場所:Readin'Writin' BOOK STORE
内容:僕は「観察」をキーワードに映画作りをしています。
あらかじめ決めたテーマや結論に合わせて現実を切り取るのではなく、なるべく先入観を排し、目の前の世界をよく観てよく聴いて、その結果発見したことを映画にすることを目指しています。
その方法と姿勢は映画を作るときだけでなく、政治や社会や人生の課題に取り組む際にも、極めて重要だと信じています。
今回は観察映画の方法論を紹介しながら、観察の効用についてお話したいと思います。また、みなさんが気になる!夫婦別姓の話もしたいと思います。

「聡子の部屋」とは?
ジェンダー、外国人差別、排外主義、セクシャル・マイノリティ、原発、基地、オリンピックなど、いま日本社会はさまざまな問題を抱えています。
この状況を私たちはどう受け止め、変えていくために、どんな行動をとればいいのでしょうか?
この連続イベントでは、幅広い交友関係を持つ社会学者の梁・永山聡子さんが、いま会いたい人たちをゲストに招き、現在の取り組みや今後について迫ります。

参加方法:ご予約は以下URLより。



――出版社フェアについてはいかがでしょうか?

落合 8月・9月・10月は雷鳥社フェアです。

イベント名:それいけ! 雷鳥社の本まつり three months
日時:2024年8/1(木)~10/31(木)
場所:Readin'Writin' BOOK STORE
内容:おもしろいことは生活の中にある !
今後の新刊『数の辞典』、『日々のぽかん体操』の刊行記念イベントも予定しています。ぜひ!


オーナーの落合博さん

Readin’ Writin’ BOOKSTOREで仕入れた本・売れた本 


落合さんの著書『新聞記者、本屋になる』(光文社)

・『新聞記者、本屋になる』(光文社新書)★
・『世界の「住所」の物語:通りに刻まれた起源・政治・人種・階層の歴史』(原書房)9784562057917
・『パリのすてきなおじさん』(柏書房)★
・『鬱の本』(点滅社)
・『さあ、本屋をはじめよう 町の書店の新しい可能性』(Pヴァイン)★

BookCellarをご利用いただくと、Readin’ Writin’ BOOKSTORE・落合さんが記事内にて紹介した本を仕入れることができます。
★は八木書店新刊取扱部と取引申請をすることで発注可能な本
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「本屋発注百景」とは

本屋さんはどんなふうに仕入れを行い、お店を運営しているのか。様々なお店の「発注」にクローズアップして取材する月イチ連載企画です。
過去の連載もどうぞチェックしてみてください。

https://note.com/bookcellar/m/m8ef6b6ddeb0b

取材日:2024年7月18日
取材・文・写真 和氣正幸