本屋発注百景vol.12 本屋B&B(前編)
オープンから12年を迎えた「あたらしい街の本屋」の現在地
この連載もついに一年を迎えた。このタイミングでこそ取り上げたい店がある。独立書店について語るならここは外せないだろうという店だ。満を持して取り上げよう。本屋B&Bである。
本連載の読者はご存知かもしれないがあらためて店の紹介をしておくと…まだ独立書店の数が今ほどではなかった2012年。下北沢に「あたらしい街の本屋」と掲げてはじまったのが同店だ。ブックコーディネーターの内沼晋太郎氏が博報堂ケトル代表取締役社長の嶋浩一郎氏と共同で経営している。
ビールを飲みながら本を買えるというのが当時としては珍しく、毎日イベントを開催するというのも新鮮だった。筆者も何度かイベントに登壇させていただいたことがあるし客として本を買いに行ったこともある。ほろ酔い気分で本を選べるのは思いの外楽しい体験だった。
オープンから12年経ち、同じ下北沢の中ではあるが2度の移転を経た本屋B&Bの現在と発注やイベントの現場について、スタッフの中西日波さんと舟喜さとみさんに聞いた(全2回)。
本屋B&Bは毎日のイベントだけじゃない
――B&Bというと毎日のイベントが目立ちますが、実際、店に来てみると実は店内各所に気の利いたフェアが多く開催されていることに気が付きます。これはいつ頃から展開されているのでしょうか?
中西 コロナ禍に入った頃から力を入れるようになりました。現在の場所(BONUS TRACK)に移転したのがちょうどその頃でしたが、本屋なので人を呼ばないと始まりません。そこで売上目標を決めて毎月何かしらの企画を考えるようになりました。テーマは「本を楽しく買える」企画ですね。新刊の発売やイベントに合わせつつ、他の書店でまだやっていない企画を意識しています。
時にはB&Bの入居するBONUS TRACKの運営会社・散歩社(内沼晋太郎氏が取締役)から企画が持ち込まれることもありますし、同じく散歩社がBONUS TRACKの施設内で開催しているBOOK LOVER’S HOLIDAY※というブックイベントで仲良くなった方とフェアを開催することもありました。
――イベント会議のようなものはあるのでしょうか?
中西 特にはないですね。毎日開催のイベントではしていますが、フェアについては私を含めた選書担当がそれぞれ考えています。
――印象的だったフェアを教えて下さい。
中西 この前、開催したのもとしゅうへいさんの個展※ですね。新刊の仕入れをしていく中で、執筆からブックデザインまでを一人で手がけてらっしゃるのですが完成度が高く、さらに絵も描かれているということから展開できる商材も多く、フェア向きではないかと考えました。
さらに、まだ他の書店ではフェアや展示も行われていなかったこともあり、「これからの人」という感じがしました。3年間フェアを手がけてきましたが、その中でも一緒に企画を作っているという感覚が特に強いフェアでした。お客さんもたくさん来てくださっていい企画でした。
――いろいろな企画案を考えたり、持込企画が来る中で、実際に開催するかどうかはどうやって判断していますか?
中西 まず他のお店でフェアをやっていなさそうな本かどうかというのは気にしますね。それと、グッズや作品など商品展開に広がりが持てるかどうか。
いま(取材時2024年5月23日)開催している「DOOKS」フェアはデザインから販売までを一環して行うアートブックレーベルです。作家のジャンルも、ブックデザインも1冊ずつ印象が大きく違っていて、レーベルの本が一堂に会するような機会を作って本づくりの姿勢が見えてきたら面白そうだなと思ったので開催しました。
――わざわざ本屋で開催する意味があるかどうかというのが大事なんですね。
中西 そうですね。「なにか面白いものがいつもある店」と思ってもらえるように企画を練っています。
この3年間は目の前のことをこなすので精一杯でしたが、今年から売上も含めて軌道に乗ってきましたので、今度は棚づくりにもっと手をかけていければと思っています。
本屋B&B書店員の一日
――営業時間が平日で12時から、土日で11時から夜は21時までと長いですが、早番や遅番があるんですか?
中西 今日(取材日は木曜日)私は12時半から入っていますが、例えば「本屋で学ぶ!朝の英会話レッスン」がある水曜日はイベントのスタートが6:50からなので朝6時に店に来るスタッフもいます。
色々な勤務形態のスタッフが色々なタイミングで店に入っています。
――では、今日を例に取るとどうでしょうか?
中西 まず、12時半に店に来て、前日のスリップを見ながら売上を確認、補充発注をします(開店前に来るときはまず1時間くらいかけて掃除をします)。
朝7時くらいに店の中に届いている段ボール箱を開梱、品出ししていきます。トーハンと契約しているので、配達の方に鍵を渡しておいて、勝手に店内に段ボール箱を入れておいてくれます。
最近は毎日平均130冊くらい届くので、それらにvslipを使用して紙のスリップを差し込んでから※棚に入れていきます。この作業が1時間~1時間半くらいですね。
昼過ぎから夕方にかけて注文していたZINEやリトルプレスも届くのでこちらも開梱、品出し。そうしながら、返品する本を抜いたり面陳の本を変えたり棚のメンテも同時に行います。
もちろんお客さんの対応をしながらです。
――通常の新刊とZINEやリトルプレスの割合はどれくらいですか?
中西 売上ベースだと新刊が4分の3、ZINE・リトルプレスが4分の1ですが、在庫で考えるとZINE・リトルプレスのほうが少し少ないくらいでしょうか。
――品出しを終えたら何をしていますか?
中西 もうその頃には夕方なのでイベントの準備をします。17時半ころからですね。配信の準備などしつつ、18時半頃には通常業務が終了するのでイベント担当にバトンタッチします。そのあとはイベントの受付をして、イベントの最中は返品の選定作業やSNS投稿をして、イベントの片付けという流れです。
片付け後はお客さんのいる時間にはできない、棚の変更作業をすることもあります。そういうときは気がつけば終電間際ということもありますね。
――それは大変ですね。ちなみにお昼ご飯はどうされていますか?
中西 家から冷凍ご飯を持ってきたりスーパーでカレーパンを買ってきたりしてレンジでチンして食べます。
――レンジがあるのは良いですね。
中西 温かいものが食べたいですから(笑)
本屋B&B書店員に聞く 「発注、どうしてる?」
――近刊情報についてはどのように収集していますか?
中西 実はブクログの新刊ニュースを使っています。発売1週間前の本をざっと見て、「読みたい」ボタンを押せば自分の(ウェブ)本棚に登録できるのが嬉しいですね。
数日分の新刊ニュースを見たら、(読みたいボタンを押した本が並ぶウェブ)本棚を精査して、注文するものだけエクセルにまとめて※トーハンの担当者さんに送っています。
――配本じゃないんですね。
中西 半年くらい前からトーハンの担当者から「直接注文でいいですよ」と言われましたので活用しています。ただ、注文してもそんなに入ってこないのが実情で……。30タイトル注文したとしても実際入荷があるのは2,3タイトルくらいのことが多いですね。
そのため、発売前にBookインタラクティブやBookCellar、トーハンのen CONTACTから予約できるものはしています。
やはりできるだけ事前に予約できた方が良いのでBookCellarには助けられています。できれば登録出版社がもっと増えてくれると嬉しいですね。
――ありがとうございます。
中西 事前予約ができず、かつトーハンに依頼しても入荷しなかった本は発売後に出版社のウェブ発注システムやtonets-vで発注したりしていますが、発売後に発注しても入荷まで2週間前後のタイムラグがあるのでその間、売り逃してしまっているのは悲しいですね。
大手版元でなければ発売日以前にも、あらかじめ直接版元に連絡すれば予約を受け付けていただけることが多いですが、忙しくて発注したい全ての新刊にそこまで時間を避けていないのが現状です。
――FAXは使用していますか?
中西 全体の4割くらいですね。場合によってはFAXで注文するほうが確実に入荷されることもあるので、出版社さんに「FAXを送ってください」とお願いすることもありました。
――ZINEやリトルプレスなど直取引のものはどうされていますか?
中西 近刊情報は著者や他店のSNSアカウントやオンラインストア、または持込で知ることが多いですね。その後、直接連絡するか、一冊!取引所やBookCellarで注文できるところはそちらから注文します。
本屋B&Bの新刊チェックと発注ツール
BookCellarでこの本発注しました
――BookCellarで発注した本の中で印象的だった本を挙げていただけませんでしょうか?
中西 『読書と暴動 プッシー・ライオットのアクティビズム入門』(ソウ・スウィート・パブリッシング)ですね。この本は仕入れるとすぐに売れました。
――BOOKSHOP TRAVELLERでもそうでした。ほかには?
中西 最近、いぬのせなか座がトランスビュー取引代行で仕入れられるようになったので、既刊をまとめて注文しましたね。『速く、ぐりこ!もっと速く!』(百万年書房)も印象的ですね。百万年書房の暮らしレーベルはよく動きます。
それと点滅社の『鬱の本』も売れましたね。1年を通してもあんなに売れる本は少ないです。
――同じ点滅社の『死のやわらかい』も期待できますね。
中西 ブルーシープの『コジコジにきいてみた。 モヤモヤ問答集』は定番ですね。B&Bでは先日オープンしたハラカド※に本の自動販売機を置いているのですが、そこでも売れているみたいです。
――BookCellarへの要望があれば教えてください。
中西 BookCellarは基本的に取次経由の予約注文かトランスビュー取引代行の本の補充発注、あとは直取引できるリトルプレスの発注で使っていますが、ちょっと分かりにくい点があって……。
八木書店はOKですがトーハンからはNGの版元(講談社など)の本は予約注文できないんですね。それでも注文しようとして結果として八木書店から買切で注文してしまったことがありました。
――講談社はBookCellarを利用していないため八木書店を通しての取寄せとなるんですよね。そういうこともありトーハン発注時と条件が変わってしまうんです。BookCellarは取引出版社を増やすよう頑張らないといけませんね。最後に、お知らせしたいイベントなどありましたらお知らせください。
イベント情報
イベント名:本屋B&B 12th ANNIVERSARY「雑誌のような5時間」
日時:2024/07/20(土)16:00~
会場:本屋B&B ※配信あり
12周年を記念して、さまざまな分野で活躍される作家・編集者を12名をお呼びして、5時間に及ぶトークイベントを開催いたします!
また当日、書籍をご購入いただいた方には「12周年記念!選べる3つのプレゼント」企画も。BONUS TRACKにて気になる本と出会えるブックマーケット「BOOK LOVER’S HOLIDAY」も同時開催されます!
参加方法:
<会場参加>イベント当日、12周年記念!選べる3つのプレゼントキャンペーンにて、「12周年記念トークイベント来店参加券」をお選びいただいた際の先着順でご利用いただけます。(事前予約はありません)
<配信参加>無料チケットお申込み(先着500名限定)ご予約は以下URLより。
本屋B&Bで仕入れた本・売れた本
・『読書と暴動 プッシー・ライオットのアクティビズム入門』(ソウ・スウィート・パブリッシング)
・『速く、ぐりこ!もっと速く!』(百万年書房)
・『鬱の本』(点滅社)
・『死のやわらかい』(点滅社)
・『COJI COJI FAN BOOK コジコジのすべて』(ブルーシープ)
・『コジコジにきいてみた。 モヤモヤ問答集』(ブルーシープ)
・『セザンヌの犬』(いぬのせなか座)
・『灰と家』(いぬのせなか座)
・『地上で起きた出来事はぜんぶここからみている』(いぬのせなか座)
・『光と私語』(いぬのせなか座)
・『クバへ/クバから』 (いぬのせなか座)
・『TEXT BY NO TEXT』 (いぬのせなか座)
・『手のひらたちの蜂起/法規』 (いぬのせなか座)
BookCellarをご利用いただくと、本屋B&B・中西さんが記事内にて紹介した本を仕入れることができます。
注文書はこちら。
「本屋発注百景」とは
本屋さんはどんなふうに仕入れを行い、お店を運営しているのか。様々なお店の「発注」にクローズアップして取材する月イチ連載企画です。
過去の連載もどうぞチェックしてみてください。
取材日:2024年5月23日
取材・文・写真 和氣正幸