翻訳海外マンガを表彰する「ソフィー・カスティーユ賞」が創設されました
毎日、暑い日が続きますね~!!
絶賛夏バテ中です…!!!!
が、面白そうなマンガ賞が創設されましたので今回はそれをご紹介します!
先日の「海外マンガRADIO」でも取り上げられています!
それこそが
ソフィー・カスティーユ賞(Sophie Castille Awards)!!
どんな賞かというと、英語に翻訳された世界のマンガを表彰する賞です。
マンガの出版社の版権を取り扱うエージェンシーであるフランスの会社VIP Brands Ltd.と、イギリスで開催されるレイク国際コミック・アート・フェスティバル(Lakes International Comic Art Festival)によって主催されています。
賞の名前にもなっているソフィー・カスティーユさんは、メディアトゥーンの国際著作権ディレクター兼ライセンス担当副社長、ヨーロッパ・コミックスの共同創設者兼ディレクターでしたが、2022年に急逝されたとのこと。
1990年代後半からフランス語圏のバンド・デシネをはじめ世界中の作家との架け橋となっていました。
ヨーロッパ・コミックス(Europe Comics)は、電子書籍ですが、本当に本当にたくさんのバンド・デシネを英訳している出版社さんです。
アイズナー賞でもここ1、2年とみに英訳バンド・デシネのノミネートが増えた印象がありましたが、ヨーロッパ・コミックスさんのおかげと言ってもいいのではないでしょうか…??
バンド・デシネを読みたいけどフランス語はちょっと…という方にも英語ならまだ手を出しやすい。そんな日本の海外マンガ好きにとっても注目の出版社です。しかもリーズナブルな電子書籍です。
ヨーロッパ・コミックスさんのウェブサイトは残念ながら2023年1月以降、更新されなくなってしまったのですが、これまでに出版された英訳マンガのデータが残されていますので、ぜひご覧ください!
フランス語圏だけでなく、イタリア、スペイン、ドイツ、ギリシャ、ポーランド、セルビア、トルコ…とたくさんの国のマンガがラインナップされています。
さてそんなソフィー・カスティーユ賞の第1回ノミネート作品が発表されました。
バンド・デシネはもちろん日本のマンガも含む15作品が選ばれています。
9月29日から10月1日に開催されるレイク国際コミック・アート・フェスティバルで最優秀賞が発表予定です。
今回の記事ではノミネート15作品を見ていきます。
Youtubeライブでも詳しく紹介しているのでこちらもご覧ください。
All Princesses Die Before Dawn
(プリンセスはみな夜明け前に死ぬ)
by Quentin Zuttion(カンタン・ズゥティオン), translation by M. B. Valente (Europe Comics)
原書は『Toutes les princesses meurent après minuit』(ベルギー・Lombard)。
アングレーム国際漫画祭2023子ども向け審査員特別賞受賞。
アイズナー賞2023Best Digital Comicsノミネート。
1997年の夏。8歳の少年は口紅を塗り隣家の少年に恋をしている、10代の姉ははるか年上の恋人がいて、両親の仲は冷めきっている。三人の家族の三者三様のラブストーリー。
Always Never
(それでもやっぱり)
by Jordi Lafebre(ジョルディ・ラフェーブル); translated by Montana Kane (Dark Horse Comics)
原書は『Malgré tout』(フランス・Dargaud)。
2022年第15回日本国際漫画賞優秀賞。
アイズナー賞2023Best U.S. Edition of International Materialノミネート。
『最高の夏休み』のジョルディ・ラフェーブルさんが描き出す大人のラブロマンス!
雨が降りしきるなかデートをする老カップルの第20章から始まる。
長年市長を務めるキャリアウーマンのアナと、船乗りで本屋で物理学者のゼノ。
過去へ戻りながらふたりの馴れ初めを遡るという凝った構成。
ちなみにジョルディ・ラフェーブルさんは2023年10月にDargaudから新作『Je suis leur Silence』が刊行されます。こちらも楽しみ…!
Amazona
(アマゾナ)
by Canizales(カニザレス); translated by Sofía Huitrón Martínez (Graphic Universe)
カニザレスは、コロンビア出身でスペイン・マヨルカ島在住。絵本を多く手掛けられています。
『Amazona』は原書はフランスのÉditions de L'Œufから出版。
コロンビア先住民のアンドレアは住んでいたアマゾンの奥地から追放された。彼女は再び奪われた故郷の土地に戻り、不正を暴く。
Animal Castle
(動物の城)
by Xavier Dorison(グザビエ・ドリソン) & Felix Delep(フェリックス・デレップ); translated by Ivanka Hahnenberger (Ablaze)
原書は『Le Château des Animaux』(ベルギー・Casterman)。
アイズナー賞2023Best Limited Seriesノミネート。
人間から忘れ去られた農場にあるアニマル・キャッスルは動物たちの国。雄牛の大統領と犬の兵士に統治されているが、そこに謎の旅ネズミがやってきて反乱を企てる。
Artist
(アーティスト)
by Yeong-shin Ma(マ・ヨンシン); translated by Janet Hong (Drawn & Quarterly)
原書は마영신『아티스트』(송송책방)。
44歳独身の小説家、46歳離婚歴アリの画家、42歳独身のミュージシャン。うだつの上がらない中年アーティストのうち成功するのは誰か…?そしてそのとき3人の友情はどうなる…?不条理さとユーモアあふれるグラフィックノベル。
マ・ヨンシンは中年女性たちの恋愛を描いた『Moms』で2021年ハーベイ賞Best International Bookを受賞しています。
Golden Boy
(ゴールデン・ボーイ:若き日のベートーヴェン)
by Mikael Ross(ミカエル・ロス); translated by Nika Knight (Fantagraphics)
原書は『Goldjunge: Beethovens Jugendjahre』(ドイツ・avant-Verlag)。
作者のミカエル・ロスはベルリン在住の漫画家兼テイラー。
1778年に8歳で初めてウィーンの公の場に登場してから1795年までのベートーヴェンの物語。父親ヨハンはアルコール依存症で多額の借金を抱えており、困難な生活を送っている家族はベートーヴェンの才能に期待していた。伝記でありながら、ベートーヴェンの成長物語をユーモアまじえて描く。
He Who Fights with Monsters
(怪物と戦う男)
by Francesco Artibani(フランチェスコ・アルティバーニ) & Werther Dell’edera(ウェルテル・デッレデラ); translated by Micol Beltramini (Ablaze)
原書は不明ですが、作者二人はイタリアの作家です。
第二次世界大戦下、ナチスに占領されたプラハ。ナチスに抵抗する組織は、古代の伝説として伝えられる怪物をよみがえらせようとしていた。
Werther Dell’edera(ウェルテル・デッレデラ)は、Netflixドラマ化も進行している『Something is Killing the Children』(脚本:ジェームス・タイノン四世)の作画アーティストでもあります。
I Want To Be A Wall
(わたしは壁になりたい)
by Honami Shirono(白野ほなみ); translated by Emma Schumacker (Yen Press)
日本のマンガが来ましたね!
アセクシャルのゆりこが親から強制されてお見合いをした相手は、幼馴染に片思い中のゲイ・岳朗太だった。「壁になって人の恋愛を見守りたい」BL好きのゆりこと岳朗太の奇妙な結婚生活。
The Nightmare Brigade
(ナイトメア団)
by Franck Thilliez(フランク・ティリーズ), Yomgui Dumont(ヨムグイ・デュモン) & Drac(ドラック); translated by Joe Johnson (Papercutz)
原書は『La brigade des cauchemars』(フランス・Jungle)。
2019年アングレーム国際漫画祭コレージュ(中学校)賞受賞。
ナイトメア団は、アンガス教授とふたりの若い相棒、14歳のエステバンとトリスタンによる人々の悪夢を取り除くチーム。ユニークなスキルを駆使して、悪夢の中に侵入してその原因を探り、人々を悪夢から解放する。
Plaza
(プラザ PLAZA)
by Yokoyama Yuichi(横山裕一); translated by Ryan Holmberg (Living the Line)
今回は日本のマンガは3冊ノミネートされていますが、2冊目です。
ネオ漫画家、横山裕一の作品集。「ドドド」「パカパカ」などの擬音をすべてのコマに加え、ブラジルの祭りから発案された一大スペクタクル。
Tales of the Kingdom
(王国物語)
by Asumiko Nakamura(中村明日美子); translated by Lisa Coffman (Yen Press)
日本のマンガ3冊目です。
紫の瞳のアーダルテ。青い瞳のアードルテ。一人は優しき皇子として光に包まれ、もう一人は幽閉の身として暗闇に潜む。別々の道をたどる双子の宿命を描く「アードルテとアーダルテ」シリーズの他、英雄とうたわれる美しい王と、彼に仕える謎めいた男の因縁を描く「王と側近」シリーズを収録。はるか異国を舞台に綴られる、大人の寓話ファンタジー。
The Philosopher, The Dog and the Wedding
(哲学者と犬と結婚)
by Barbara Stok(バーバラ・ストック); translated by Michele Hutchison (SelfMadeHero)
原書は『De filosoof, de hond en de bruiloft』(オランダ・Nijgh & Van Ditmar)。
紀元前4世紀のギリシャ、キュニコス派の哲学者ヒッパルキアとその夫クラテスの物語。ヒッパルキアは知り合いの男性と結婚しようとしていたときにクラテスに出会い、この奇妙な哲学者の生き方に惹かれていく。当時蔓延していた偏見にもかかわらず、自分の理想に従って生きる勇気を持った強い女性ヒッパルキアの姿を描く。
バーバラ・ストックさんは『ゴッホ 最後の3年』が邦訳されています。
The Sisters Dietl
(ディートル姉妹)
by Vojtěch Mašek(ヴォイチェフ・マシェク); translated by Julia and Peter Sherwood (Centrala)
原書は『Sestry Dietlovy』(チェコ・Lipnik)。
チェコで最も評価の高い漫画家のひとりであるヴォイチェフ・マシェクのシュールリアルな作品。
夢や幼少期の未知なるものへの恐怖、歪んだ記憶などが織りなすディートル姉妹のホラー探偵物語。
チェコのコミックは先日ようやく初めての邦訳『ぺピーク・ストジェハの大冒険』が発売されましたが、こういう作品をみるともっと紹介されてほしいと思います。
Upside Dawn
(アップサイド・ダウン)
by Jason(ジェイソン); translated by Jason (Fantagraphics)
ノルウェーの作家ジェイソンの短編漫画集。ヒッチコック風のスリラーや文学、古典的なECコミックへのオマージュが豊富で、遊び心と実験的な試みが盛り込まれている。シュールで虚無なユーモア。
ジェイソンは青林工藝社の『アックスNo.36』でも紹介されていますね。
Walk Me To The Corner
(ウォーク・ミー・トゥ・ザ・コーナー)
by Anneli Furmark(アンネリ・ファーマルク); translated by Hanna Stromberg (Drawn & Quarterly)
スウェーデンのマンガ界で重要な作家のひとりであるアンネリ・ファーマルクの作品。
50代半ばのエリーゼは、愛情深い夫と大きくなった二人の息子とともに幸せな生活を過ごしていたが、ある日、妻帯者のダグマーに出会い運命が一転する。ダグマーへの愛情、夫の不倫、結婚生活の破綻…ダグマーへの恋愛におぼれていくが彼は自分の家庭を壊すつもりはない…。中年期の欲望と失恋を美しい水彩と鉛筆クレヨンで描く。
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正直これまで世界のマンガの英語翻訳ってそんなに多くないと思ってたんですね…。日本と同じでアメリカでは自国の英語圏のマンガが強い印象もあって…。そう言う意味で自国以外の世界のマンガを積極的に翻訳しているのはフランス語圏の出版社の方が強い印象があったわけです…。自分がフランス語を勉強しているのも、フランス語がわかれば世界のマンガを知るきっかけになるなぁという思いが強かったわけです。
もちろんそういう側面はいまも完全否定はしないのですが、今回英語に翻訳されている作品のラインナップを見ると、いや~めちゃいろんな作品が英語で読めるようになっている…!!!
バンド・デシネや日本のマンガだけでなく、スペイン(コロンビア)、ドイツ、韓国、イタリア、オランダ、チェコ、ノルウェー、スウェーデン…!
なかなか言葉の壁もあってオリジナル版の情報を得ることが難しい世界のマンガを知ることができるし、だいたいが電子書籍にもなっていたりするので、手も出しやすい。
分かる範囲で原書情報のリンクも貼っていますので、もしご興味があれば見てみてください。
海外マンガの世界を旅しましょう~!
【230822追記】ファイナリスト3作品が発表されました!
原正人さんとのポッドキャスト「海外マンガRADIO」第35回でもお話していますが、ファイナリスト3作品が発表されました!
All Princesses Die Before Dawn(プリンセスはみな夜明け前に死ぬ)
by Quentin Zuttion(カンタン・ズゥティオン), translation by M. B. Valente (Europe Comics)
ポッドキャストで原さんに教えていただきましたが、作者のQuentin Zuttion(カンタン・ズゥティオン)は『ナタンと呼んで 少女の身体で生まれた少年』の方だそうです!! トランスジェンダー男性の心のうちを美しい水彩で描いた作品ですね。
Always Never(それでもやっぱり)
by Jordi Lafebre(ジョルディ・ラフェーブル); translated by Montana Kane (Dark Horse Comics)
凝った構成、魅力的なキャラクター、うっとりするようなラブロマンス。
ノミネート15作品のなかでは唯一わたしが読んだことのある作品なので、ちょっと嬉しいです。
The Philosopher, The Dog and the Wedding(哲学者と犬と結婚)
by Barbara Stok(バーバラ・ストック); translated by Michele Hutchison (SelfMadeHero)
バンド・デシネ2作品に続き、最後の作品はオランダのマンガ。ヨーロッパだとフランス語圏バンド・デシネが強い印象があるので、そういう意味でも興味深いですね。
さてこの3作品のなかからどれがグランプリに選ばれるのか、9月30日が楽しみですね!!
【240606追記】グランプリはバーバラ・ストック『The Philosopher, The Dog and the Wedding』を翻訳されたMichele Hutchisonさん
ファイナリスト3作品の追記をしておきながら、グランプリの追記をまったく失念しておりました…!!!
大変遅ればせながらですが、グランプリはオランダのバーバラ・ストックさんの『The Philosopher, The Dog and the Wedding(哲学者と犬と結婚)』を翻訳されたMichele Hutchison(ミシェル・ハッチソン)さんに決定されました!
ちなみに本作については翻訳者の川野夏実さんが紹介記事を書いておられます。オランダのマンガはまだあまり日本に紹介されていないので、こういう作品も邦訳されるようになるといいですよね。
ソフィー・カスティーユ賞、2024年は9月28日(土)から9月29日(日)にかけて開催されるレイク国際コミック・アート・フェスティバル(Lakes International Comic Art Festival)で発表されるそうです。楽しみですね。
また、本記事ではイギリスにおける英語への翻訳者への賞についてご紹介していますが、先日の海外マンガRADIOで知ったのですが、イタリアのナポリ・コミコンでも発表されたそう!
ソフィー・カスティーユ賞の公式サイトを見ると、多くの国でこの賞を開催することが目標とされています! そしてスペインのComic Barcelona、イタリアのNapoli Comiconでも開催され、ポーランドのLodz Comics Festivalでは2024年9月の初めに開催予定、スロベニアのTinta Festival Sloveniaでも予定中とのこと。
世界の海外マンガの翻訳者や翻訳状況についても知ることができるし、本当に興味深いです! 願わくば日本でもソフィー・カスティーユ賞が開催できるくらいに海外マンガが盛り上がればと思います!!