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アングレーム国際漫画祭2023グランプリ&優秀作品が発表されました!

こんにちは!海外コミックスのブックカフェ書肆喫茶moriの店主です!

 2023年1月26日から29日にかけて、ヨーロッパ最大規模のマンガの祭典、アングレーム国際漫画祭が開催されました。
昨年までは新型コロナウイルスの影響によって開催日が変更されたりもしましたが、今年はいつも通りの1月終わりの開催となりました!

そして今年は50周年という記念すべき年!
新しい漫画賞が新設されたり、50周年記念の特別賞が授与されたり、今年ならではの出来事もありました!

さてアングレーム国際漫画祭では、優れたアーティスト一人を選ぶグランプリが発表されるとともに、事前に選ばれた公式セレクションと各カテゴリのノミネート作品の中から最優秀賞が表彰されます!

今回の記事では、2023年アングレーム国際漫画祭のグランプリと受賞作品、そして50周年記念の各賞を紹介します。

受賞作品についてはYoutubeライブでもご紹介していますので、こちらもどうぞ!

環境賞(PRIX ÉCO-FAUVE)

『SOUS LE SOLEIL』(太陽の下で)
作:ANA PENYAS(アナ・ペニャス)、翻訳:BENOÎT MITAINE、発行:ACTES SUD / L'AN 2

スペイン南東部のリゾート地としても有名なコスタ・ブランカ(バレンシア州)。フランコ体制下の1969年から民主化後の2019年まで、スペインの観光政策がこの地にどのような影響を与えたかのかを、3世代にわたる家族の物語。漁業や農業などの伝統的な活動の消失、海岸の開発、不動産投機、大衆的な観光業の発展がもたらす環境破壊の結果が描かれる。

アナ・ペニャスさんはスペインの漫画家。ちなみに以前、翻訳者の宇野和美さんがゲストのYoutubeライブで、アナ・ペニャスさんのEstamos Tomdas Bien(あたしたちはみんな元気)という作品をご紹介いただきました!
ぜひこちらもご覧ください。

遺産賞(PRIX DU PATRIMOINE)

『FLEURS DE PIERRE』(石の花)
作:坂口尚、翻訳:ILAN NGUYEN、発行:REVIVAL

2022年に日本でも大判サイズ全5巻として復刊された坂口尚さんの『石の花』が遺産賞です!フランスでは2022年に1巻が発売され、2025年にかけて全5巻が刊行される予定です。

第二次世界大戦、ナチスに侵攻されるユーゴスラビアが舞台。遠足の途中でナチス軍に襲われ、命からがら逃げ伸びた少年はレジスタンスに身を寄せる。ユーゴスラビアの民族の複雑さも垣間見れ、戦争の悲惨さをさまざまな側面から描く。

SNCFミステリー賞(FAUVE POLAR SNCF)

『HOUND DOG』(ハウンド・ドッグ)
作:NICOLAS PEGON(ニコラス・ぺゴン)、発行:DENOËL GRAPHIC

ある日、セザールが目覚めると足もとに一匹の見慣れない雑種犬がいた。セザールは飲み仲間のアレクサンドルとともに飼い主を探すが、なんとその飼い主は死んでいた。自殺と思われたが二人は調査していくうちに思わぬ事件の真相が明らかになっていく…。
エルビス・プレスリーの指導のもと、妖艶な配色で提供される雰囲気のある探偵小説。

子ども向け最優秀賞(PRIX JEUNESSE)

『LA LONGUE MARCHE DES DINDES』(七面鳥の長い歩み)
作・画:LÉONIE BISCHOFF(レオニー・ビショフ)、作:KATHLEEN KARR(キャスリーン・カール)、発行:RUE DE SÈVRES

キャスリーン・カールの小説のコミカライズ。1860年夏、ミズーリ州。15歳で小学2年生を4回やったサイモンは退学させられた。時間ができた彼は、七面鳥がデンバーでは20倍の価格で売れることを知り、1000頭買って1000キロの道のりを旅することにする。その道中、アメリカ先住民に出会い…。

ACBD批評グランプリの子ども向け部門最優秀賞(Prix Jeunesse ACBD de la critique 2022)も受賞した作品。

例年、子ども向け部門(PRIX JEUNESSE)は、8‐12歳の子ども向けと13‐16歳のYA向け部門に分かれていましたが、今年から一つに統合されたようです。

子ども向け審査員特別賞
(PRIX SPÉCIAL JURY JEUNESSE)

『TOUTES LES PRINCESSES MEURENT APRÈS MINUIT』(すべての王女は真夜中を過ぎると死ぬ)
作:QUENTIN ZUTTION(クエンティン・ズッティオン)、発行:LE LOMBARD

子ども向け部門の2つの賞が統合されたためなのかどうなのかはわかりませんが、今年は子ども向け審査員特別賞が新設されました。

この作品は15歳以上対象と注意書きがあります。

ダイアナ妃がパリで亡くなった1997年の夏。8歳の少年ルルは口紅を塗り、隣人の少年への恋心を募らせる。10代の姉は隠れて彼氏とあいびきをし、両親は別居中だ。欲望の目覚めから倦怠期の恋愛まで、三者三様のままならぬ愛を描いた家族の物語。

オルタナティブBD賞
(FAUVE BD ALTERNATIVE)

『FORN DE CALÇ』
発行:Extinció Edicions(スペイン)

アングレーム国際漫画祭のオルタナティブBD賞は今年で40回目を迎えた。世界各地の作品を紹介する場であるとともに、受賞者には助成金と来年の漫画祭への出展が約束され、未来のプロの出版社へと羽ばたいた受賞者も出てきている。

今年、受賞したのはスペインのExtinció Edicionsが刊行するアンソロジー雑誌。タイトルはオーストリアの小説家・劇作家であるトーマス・ベルンハルトの小説に基づくそうです。

フランステレビ読者賞(PRIX DU PUBLIC FRANCE TÉLÉVISIONS)

『NAPHTALINE』(ナフタリン)
作:SOLE OTERO(ソル・オテロ)、翻訳:ÉLOÏSE DE LA MAISON、発行:ÇÀ ET LÀ

アルゼンチンの漫画。2001年、深刻な経済・政治危機にあるアルゼンチン。亡くなった祖母ヴィルマの家に引っ越してきた19歳の少女ロシオは、1920年代のイタリアから始まる祖母の人生を回想する。ムッソリーニが政権を握ったイタリアからアルゼンチンに渡ったヴィルマの両親。学校にも行けず、家父長制の残る社会で孤独に生きたヴィルマの人生からロシオは何を学ぶのか。作者の家族の歴史にインスパイアされた作品。

ACBD批評グランプリ2023ノミネート作品。

高校生の賞(FAUVE DES LYCÉENS)

『KHAT : JOURNAL D'UN RÉFUGIÉ』(カート:難民の日記)
作:XIMO ABADÍA(シモ・アバディア)、翻訳:ANNE CALMELS、DAVID SCHALVELZON、発行:LA JOIE DE LIRE

https://www.lajoiedelire.ch/livre/khat/

2018年、スペインのバレンシア港に停泊した3隻の船には何百人もの移民が乗船していた。そのうちのひとり、作者のシモ・アバディアが出会った若いエリトリア人のナタンに焦点を当て、彼の人生を描く。幼いナタンは家族とともに独裁政権から逃れるために隣国のエチオピアに向かった。しかしエチオピアの状況は良くなく、牢獄に入れられることになる。そんなナタンは持ち前の楽観主義で、ヨーロッパへたどり着くためにあらゆることにトライする。

テキストは抑制され、とても力強いスペインの作品。

新人賞(PRIX RÉVÉLATION)

『UNE RAINETTE EN AUTOMNE』(秋のカエル)
作:LINNEA STERTE(リネア・スターテ)、翻訳:ASTRID BOITEL、発行:LES ÉDITIONS DE LA CERISE

小さなカエルは、花の幽霊を捕まえた2匹のさすらいのヒキガエルに出会い、一緒に南下することにした。その途中、さまざまな生き物に出会う。

リネア・スターテさんはスウェーデン出身の若手イラストレーター。
2023年にトゥーヴァージンズ社から日本語版が刊行された、日本と世界のマンガ家が日本を舞台にしたマンガ作品を描くアンソロジー『日月十譚』にも参加されています!

シリーズ賞(PRIX DE LA SÉRIE)

『LES LIENS DU SANG T.11』(血の轍 11巻)
作:押見修造、翻訳:SÉBASTIEN LUDMANN、発行:KI-OON

平凡そうに見える少年・静一は、しかし母親からの過剰な愛情にとらわれ、蜘蛛の巣にかかった虫のように閉じ込められている。ときに有害なまでの愛で…。

なんと遺産賞での坂口尚『石の花』に続き、日本の作品が受賞しました!

審査員特別賞(PRIX SPÉCIAL DU JURY)

『ANIMAN』(アニマン)
作:ANOUK RICARD(アヌーク・リカード)、発行:EXEMPLAIRE

作者が10代のころにみた、80年代のテレビシリーズ「Manimal」へのオマージュを込めた作品。フランシスは生き物に変身して事件を解決するスーパーヒーロー。フランシスの日常や宿敵オブジェクトとの出会いと戦いをユーモア、スリラー、日常系など多彩なジャンルを横断したユニークな作品。

最優秀作品賞
(FAUVE D’OR PRIX DU MEILLEUR ALBUM)

『LA COULEUR DES CHOSES』(ものの色)
作:MARTIN PANCHAUD(マルタン・パンショー)、発行:ÇÀ ET LÀ

14歳のイギリス人サイモンは近所の若者からからかわれている。ある日、占いをして競馬にぼろ勝ちするが家に帰ると母親は昏睡状態、父親は行方不明になっていた。サイモンは父親を探そうとするが…。
この作品の特筆すべきところは、画面はすべて俯瞰図で、キャラクターはすべて色のついた丸で描かれているところ。ピクトグラムを多用したグラフィカルな誌面で、ユーモアでスリリングなストーリー。

ACBD批評グランプリ2023とのW受賞です!

グランプリ(GRAND PRIX) 2023

毎年3人の候補者が選出されて、その中から一人が選ばれるグランプリ!

2023年の候補は、以下の3人。

ファン・ホーム ~ある家族の悲喜劇』の邦訳があり、最新作『The Secret to Superhuman Strength』が公式セレクションにも選ばれていたアリソン・ベクダル

わたしが「軽さ」を取り戻すまで』の邦訳があり、漫画家として初めて美術アカデミーのメンバーにもなったカトリーヌ・ムリス

そして3巻まで邦訳が出ている『未来のアラブ人』の最新6巻が2022年に刊行され公式セレクションにも選ばれていたリアド・サトゥフ

グランプリは、リアド・サトゥフさんが選ばれました!
未来のアラブ人』の続きもぜひ日本語版が出てほしいものです。

50周年栄誉賞と特別賞

50周年を記念した特別な賞も授与されました。アングレーム国際漫画祭での展示もされた、日本のマンガ家3人です。

栄誉賞(Fauves d’Honneur)には、池上遼一さん伊藤潤二さん

そして50周年特別賞(Fauve Spécial de la 50e édition)として『進撃の巨人』の諌山創さんが選ばれました。

ルネ・ゴシニ賞(PRIX RENÉ GOSCINNY)

フランスの漫画雑誌「Pilote」の創設者であり、『アステリックス』『ラッキー・ルーク』などの脚本家であるルネ・ゴシニを称え、マンガ脚本家を表彰するルネ・ゴシニ賞です。

最優秀脚本賞(PRIX DU MEILLEUR SCÉNARISTE 2023)

Thierry Smolderen(ティエリー・スモルダレン)
(『Cauchemars Ex-Machina』(機械仕掛けの悪夢)Dargaud)

1940年、第二次世界大戦が忍び寄るなか、イギリス、ドイツ、フランスの3人のミステリー小説家による密かな遠距離バトルが勃発していた!戦争の行方は3人のゲームの結末にかかっている…!
なんとも奇想天外でスリリングなストーリーです。

若手脚本賞(PRIX DU JEUNE SCÉNARISTE 2023)

Mieke Versyp(ミーケ・ヴェルシップ)
(『Peau』(肌)çà et là (翻訳:Françoise Antoine))

若き画家で絵画教室で教えているエスター。シングルマザーで生計のためにヌードモデルをしているリタ。それぞれの日常生活で悩みを抱える二人の女性は、見るものと見られるものという関係で結びつく。身体と精神、美、母性、欲望、プライド…最初は希薄だった友情が次第に深まる。ベルギー・フラマン語からの翻訳。

小西財団漫画翻訳賞(PRIX KONISHI)

フランスでは日本のマンガが大人気ですが、小西財団漫画翻訳賞は、日本漫画のフランス語翻訳の中から優秀な作品を選考し、その翻訳者を顕彰する賞。

第6回となる2023年の最優秀賞は、林田球『大ダーク』の翻訳を手掛けたSylvain Chollet(シルヴァン・ショレ)さんが選ばれました。

フィリップ・ドリュイエ賞(PRIX PHILIPPE DRUILLET)

50周年を記念して新たな賞として「フィリップ・ドリュイエ=ギャラリー・バルビエ賞(le Prix Philippe Druillet – Galerie Barbier)」が創設された。発表作品数が3作品までの新人作家に与えられる賞で、その名の通り『ローン・スローン』のフィリップ・ドリュイエと、パリにあるマンガ専門ギャラリーのギャラリー・バルビエの創設者ジャン=パティスト・バルビエに加え、『未来のアラブ人』のリアド・サトゥフらが審査員に名を連ねている。

2023年のフィリップ・ドリュイエ賞に輝いたのはこちらの作品。

『La Falaise』(岸壁)
作:Manon Debaye(マノン・デバイ)、発行:Sarbacane

夢のような金髪で裕福な家庭に生まれなに不自由なく暮らしているアストリッドと、ダークヘアーで崩壊した家庭を持ち「本物の女の子でない」という理由で執拗ないじめや暴力を受けているシャルリ。対照的なふたりはどのように交わっていくのか…。友情と思春期とジェンダーの青春漫画。

★★★

さてアングレーム国際漫画祭2023の結果はいかがでしたでしょうか?
最優秀作品賞と、子ども向け部門最優秀賞はなんとACBD批評グランプリ2023と同じ作品というのは、なかなか珍しい結果なのではないでしょうか。
日本の作品が2作品、それ以外にもスペインやアルゼンチン、スウェーデンなど多彩な国の作品が受賞していたことがとても興味深いです。
みなさまの気になる作品がありましたら幸いです。

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