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生田緑地

多摩区に住んでいる人で、生田緑地を知らない人はいないと思います。
プラネタリウムがあったり、岡本太郎美術館があったり、民家園があったり、多摩区民の憩いの公園ですよね。
実はここ、怖い話が結構ある怪奇スポットなんですよ。
例えば民家園の古民家。
これは実際の建物を解体して移築しています。
長い年月、人々の生活を見守っていた古い家には、色んな人々の想い入れも強い。
なので一緒についてきちゃうんですよ……何かが。
古民家園の近くで着物姿の人が見えるなんて言うのも、それなのかも知れません。
他にも軍人さんがいるなんて話もありますが、それは登戸研究所の影響かなあと思います。
登戸研究所は戦時中、なにかを研究していた施設。
なにかというのは最近まで何を研究していたか分からなかったんですよ。
なぜなら敗戦が決定すると陸軍省は全ての研究資料の破棄を命令したから。
だから、長らくその研究内容は不明だった。
実態が不明だと、人間はどうしても想像してしまうものです。
痕跡を消さないといけないような、あやしい研究をしていた研究所…
そんな妄想が膨らみ、登戸近辺の怪談噺の定番になったのだと思います。
しかしこの登戸研究所、実際は生物兵器や風船爆弾など、どちらかといえば謀略や特攻兵器のような、地味であまりイメージの良くない研究が主だったそうです。
ただ、怪力光線などのようにいささか空想じみた研究もしていたそうですけどね。
今跡地には明治大学があって、枯葉剤の研究が行われたと言われる「36号棟」が平和教育登戸研究所資料館になっているそうです。
他にも生田緑地には痛ましい事故がありました。
川崎ローム斜面崩壊実験事故(かわさきロームしゃめんほうかいじっけんじこ)です。
1971年(昭和46年)11月11日、生田緑地公園内で行われていた斜面崩壊の実験中に発生した事故ですね。
この事故により関係者15名が生き埋めとなり死亡しました。
岡本太郎美術館入口脇にはこの慰霊碑が建っています。
こういう「いろんな事件があった」「様々な人の想いが残った」場所には
不思議な話があったりするものなんですよね
その中にはどう考えても何の因縁も無い、話も……。

これはある女性から聞いた話なので、もしかしたら作り話かも知れません。
女性は多摩区に最近家族で引っ越してきました。仮にAさんとしておきましょう。
家族は旦那さんと、かわいい盛りの小学校に上がる前の娘さんの三人家族。
娘ちゃんはA子ちゃん、としておきますね。
家は生田緑地から近くて、休日になると家族でよく遊びに行っているそうです。
でも、行くとしたら午前中。日が明るいうちに。
17時のチャイムが鳴る前には絶対に生田緑地から出るそうです。
Aさんは、その理由を教えてくれました。
その日、Aさん一家はいつものように生田緑地で休日を過ごしていました。
A子ちゃんとかけっこをしたり、レジャーシートを広げておやつを食べたり。
そうしているうちに、17時におなじみのチャイムがなりました。
さて、帰ろうかとレジャーシートを畳み始めたのですが、A子ちゃんの姿が見えません
子供なんて広い場所で走ってるだけで楽しいものです。小学校に上がる前の子供なんて特に。
でもその日は違ってました。
いつもの様に広場のどこかにいるA子ちゃんが、今日はなかなか見当たりません。
Aさんは旦那さんと手分けしてA子ちゃんを探す事にしました。
(ここまで探してもいないのならば、山の方かも)
Aさんは古民家園の脇にある山道に向かいました。
この上の展望台のある公園はA子ちゃんのお気に入りだった事を思い出したからです。
草の生い茂る山道を小走りで通ると、前方に小さな子がとことこ、と歩いているのが見えました。
青いTシャツに赤いスカート。
大きな麦わら帽子の後ろ姿は明らかにA子ちゃんです。
ほっとすると同時に、心配かけて…とちょっとイラっとしてしまうAさん。
「ちょっと! そんなところでなにやってるの!」
と思わず声を荒げてしまいました。
けれどもA子ちゃんは振り返る事無く楽しそうに
「ここだよ」
と言って、山道をタタッと駆け上がります。
追いかけっこと勘違いしているA子ちゃんにAさんはますます腹が立ってしまいます。
「待ちなさい!もう帰るわよ!」
「ここだよ」
「もう遊びはおしまい!お父さんも待ってるんだよ」
「ここだよ」
「だから、止まりなさいってば」
Aさんが怒鳴りながら走っても、A子ちゃんはくすくす笑って
「ここだよ」
と言って、足を止めません。
その時、Aさんのスマホが鳴りました。
「もしもし?」
旦那さんからのビデオ通話でした。
「もしもし、A子を見つけたんだけど、ふざけて帰ろうとしないの、まったくもう!」
通話に出た途端、まくし立てるAさんでしたが
「え?」
液晶画面に旦那さんの驚いた表情が映し出されます。
「え?じゃないの、A子がふざけて追いかけっこをしてるのよ」
「いやいやいや!脅かすのは止めてくれよ」
「A子は俺と一緒にいるんだけど?」
「え?」
Aさんは思わず足を止めて、スマホの画面を見ます。
「ほら、一緒にいるだろ?」
「ままー」
スマホに映し出される、夫とA子ちゃんの姿。
その時、Aさんは背後に気配を感じました。
「ママ、どこにいるの~」
スマホからはA子ちゃんの声がします。
前を見るとさっきまでいた子供がいません。
Aさんが息をのんだ瞬間。
「ここだよ」
Aさんとそっくりな声が背後から答えました。

※ゆうえん怪談にてお話させて頂いた怪談を書き下ろしました。

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