【書評】心を調律する音叉のような声『掃除婦のための手引き書』ルシア・ベルリン著|岸本佐知子訳
本が好きで物語が好きで言葉が好きで、だから曲がりなりにも文章にかかわる仕事をしているのだけれど、たとえば好きな人に長い間ウソをつかれていたことを知ってしまったとか、一緒にくらす猫の病気に気がつけなかったとか、だれかが怒鳴られているのをずっと聞いていなくてはならなかったとか、突然の暴力にさらされたとか、何気ない一言で人を傷つけてしまったとか、だれにも言えない秘密ができてしまったとか、そういうことが積み重なって心が摩耗してしまうと、たとえずっと読みたかった本を手にとりページをめく