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THE CAPITAL

「孤独な人ほど一人で楽しむクセをつけている。孤独を楽しめるようになれたことは、一生の財産♡」っていうのはどうだろう?バズるかな?

Twitterのホーム画面を見ながら彼女は列車の窓に目を移した。いつも通りの雑居ビル、いつも通りの信号機。スーツを着た人たちがアスファルトの道をカツカツ歩いている。

ここには人がたくさん住んでいる。人口密度も世界トップレベル。薄い壁一枚隔ててすぐ隣に自分の全く知らない人が住んでいるこの街では、孤独な人がたくさんいる。

どこへ行ってもビックリするくらい綺麗だ。駅のトイレは全部水洗式だし、ひとたびビルの中に入れば、清潔な香り、強烈なホワイトの蛍光灯。どこへ行っても一緒。清潔で、輝いていて、いい匂いがしていて。そして、深い影がある。

ここには常に誰かに目をつけられているような、自分が食い物にされているような、隙あらば何かを奪い去られてしまうような、そんな雰囲気を感じる。ビルが建っては明るい灯がともり、終電前であればどこに放り出されても電車とメトロを乗り継いで家に帰ってこれる街。スマホを見る人。壁にはいちきゅっぱ、と書かれた広告。トイレの前の行列。消された落書き。自動改札機。おサイフケータイ。マスクをつけたハチ公。ノンステップバス。明日の天気は晴れ。わくわくする。

雑踏の中で行き交う人々。一人一人にそれぞれの世界があって、それぞれの悩みの中を生きていて、自分と他人との共通点を見つけて喜んだり相違点を見つけて寂しくなったりチクショーと叫んで隣人に壁をドンと叩かれたりしているのだろうか。何かの刺激を求めて、この街にやってくる人はたくさんいる。新幹線の窓から見えた丸の内の高層ビル。おしゃれな駅舎。目ん玉が飛び出るほど高いモーニング・セット。すべてが、まだ見ぬ人々、これから出会う出来事への期待をツンツンと刺激してくる。そして翌朝の満員電車、誰も彼もが少しでも他人に触れるまいと懸命に両手を伸ばしてつり革につかまり、川の流れに逆らうように苦労して目的のホームに降り立つ。いったい何回「スイマセン」と言っただろうか。まだ朝なのに、もうファンデーションが落ちかかっている。

競争という言葉がふさわしいのだろうか。でもここには、そういう競争が苦手な人や、ちょっと疲れてしまった人のためにいろんな文化が息づいているし、ネットで仲良くなった人に気軽に会いに行くことが出来る。とても便利で素敵な街なのだ。友達といえばアブラゼミとマムシだけで、5月になれば堆肥の匂いでうだるような空気の中自転車を漕いで学校に行った、あの頃の私とはだいぶ違う。もっと、洗練されて、おしゃれになって、人を見る目が肥えて、見たいものだけ見るようになって、心の内から外見まで、綺麗に、清潔に、真っ白になってゆく。


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