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芥川龍之介「六の宮の姫君」で読む、受け身の生活の不甲斐なさ

ーーー今日も彼女は待ち続ける。幸せの青い鳥が、自分の肩の上に飛んでくるのを。自分では何もしない。また、何かをするだけの力もない。

喜びも悲しみも知ることなく、ただただ退屈な日々を過ごしてきた姫君。親に家から出してもらえず、男にも捨てられ、やがて、そんな不幸な状態にも慣れてゆく。そして、自分が幸せになるチャンスが到来したとしても、不幸慣れしてしまった彼女は、はたして「幸せ」の中に飛び込めるだけの勇気を持ち合わせているだろうか。

芥川龍之介の短編、「六の宮の姫君」をお届けします。ーーー


世間知らずの姫君

大昔、平安時代のお話です。六の宮の姫君という方がいました。父は古くから宮仕えをされている方でした。それが理由なのかは定かではないですが、彼は時勢にも遅れがちな、昔気質の人でした。

姫君は父母とともに暮らしていました。父君は、姫君を誰かに目合わせるということをせず、やはり昔風に誰か言い寄る人があればと待ち続けていました。(平安時代の宮中の恋愛は、まず男が見初めた女に恋歌を送り、手紙で駆け引きをして恋愛をするのが一般的でした。)姫君も父の言いつけ通り、つつましい朝夕を送っていました。それは悲しみも知らないと同時に、喜びも知らない生涯でした。

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