か弱き人々の集合体
この人が描く世界には、キラキラした人は一切登場しない。
地味に生活し、地味な嫌がらせや不運にうんざりしつつ、自分の世界を保って生活している人々。
大好きな作家、津村記久子さん。
「つまらない住宅地のすべての家」
もうね、最高傑作じゃないでしょうか。
私は既刊だと、「ポースケ」に個人的な思い入れがあって大好きなんです。
働けなくなった女の子が、眠れぬ深夜に外国語講座を見たり、エスペラント語をマスターしたり、身に染みるエピソードがあって。
あとは、「真夜中をさまようゲームブック」も最高。全部のシチュエーションを読みきったよね。
で、こちらの本。
今まで読んできた津村さんの本は、シリアスと軽さがほどよいバランスというか、シリアスはシリアスなんだけど、まあ働いていればそんなこともあるし、まあ、ね。みたいなあっさりめの諦念が覆っている雰囲気で。
それが、この本はなかなかに重厚だったなあ。
他人の家が集まっている住宅地の底しれなさにヒヤッとしたり。
今までの作品と比べると、全体的なトーンは変わらないし、少年たちがなかなかに嘆かわしい状況にありながらも賢明に判断するところとかも変わらないんだけど。
結構人の内面のじくじくした感じ、家族内の距離感なんかをずばずばと突き刺してきた。
ほんと、隣の家の人がなに考えてるかなんてわかんないよね。
でも、そんな情けなくて自分勝手で弱気な人たちが、刑務所からとある逃亡者があったことをきっかけに、住宅地を見守るという(なかなかにめんどくさそうな)任務のもと、少しずつ交流を持っていくと…
それぞれに希望が見える展開になっていくんですね。
この、弱々しい人々を見捨てない津村さんの優しさ。
どの世代もそれぞれに悩みはあって、でも他者との交流がとても魅力的に描かれていて。
どうしようもない状況の子どもたちが何人か出てくるのですが、この子たちが変な大人の邪魔を受けずに、この賢明さをもって健やかに育ってほしいと願わずにいられなかった。
子どもは弱い存在であることを改めて思い知らされた。
それぞれのキャリアを積み上げ、歳を取ってスーパーで働く人たちのささやかな交流。
現役の頃には話をしなかったであろう人との、歳を重ねたからこその出会い直し。
そして、少年たち。
このよくわからない世の中で、責務を全うしつつ、それぞれのやりたいように生きている姿は、清涼感ある。
ラストの展開に、心から拍手を送りたい。
読んでいて一番怖かったのがとある青年。この人が交流の影響をいい方向に受けて、本当によかった。現実世界でもこうあってほしい…と願うばかり。
魅力を描ききれないのですが、本当に最高傑作だと感じた1冊でした。
津村さんの作品は素敵な話がたくさんあるので、また感想を綴っていきたいです。
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