溝口敦 「闇経済の怪物たち グレービジネスでボロ儲けする人々」
著書の溝口氏は暴力団関係を始め、アングラ社会に切り込むノンフィクション作家である。本書は暴力団未満の人間たちの犯罪すれすれの金儲けを紹介するものである。
犯罪スレスレというか、正確にいえば「犯罪なんだけど罪が軽い or 検挙されづらいような穴場の商売」が多く、この内容を儲けの種にとらえて実践するのは基本的には推奨されない。しかし悪質出会い系サイト→パパ活のように、類型で成立しているビジネスも多く、人間の欲望をがっつり掴むことについてはアングラビジネスに学ぶところは多少あるかもしれない。
本書で紹介されているアングラビジネスの実践者たち
1. 裏情報サイトの先駆者
2. 出会い系サイトの帝王
3. デリヘル王
4. 危険ドラッグの帝王
5. イカサマカジノディーラー
6. FXの帝王
7. 六本木の帝王
8. 詐欺の帝王
9. ヤクザ界の高倉健(熊谷正敏氏)
裏情報サイトで月商1,000万円
まず最初に紹介されるのが、アングラ版のnoteとでもいうべき情報商材ビジネス。会員になると毎週怪しげな情報が届き、爆弾の作り方から危ない金儲けの方法まで、犯罪スレスレの情報が届くという。
具体例として面白かったのが丸井のキャッシングの話。
丸井のカードでキャッシングができる→当日中に返すと金利はゼロ→マルイの商品券で返済ができる→商品券が金券ショップで2割引で売っている
この情報を使って1日30万円借りると毎日6万円儲かる。そんな具合の情報である。会員が増えすぎると成立しないし、まともな会社だと取り扱うのに躊躇する内容だが、犯罪かというと微妙な線だ。(立件されるかはともかく、本気を出されると金銭貸借契約の動機が問題なので詐欺になるかも)
しかしまぁこのビジネスについては正業ではないにせよ、会員集め・情報集めとそれなりの手間をかけており、参入障壁が高いサロンビジネスくらいの位置づけだろう。
出会えない出会い系サイト
次に紹介されているのが、サクラだけで成立している出会い系サイト。要点は単純で、もう少しで出会えそうなところで引っ張ってシステム手数料を払わせるビジネスだ。これも詐欺に問われる可能性が高い。
しかしここで紹介されている例、面白いのはサクラも人力ではなく自動化、つまりbotなのだという。それによって従来の人力のサクラよりも大幅なコストダウンと見込み顧客の拡大に成功(?)した。この自動化ツールもパッケージで月60万円で売っているらしい。何にでもパッケージは存在するんだなと妙な感動を覚えた。
この出会い系サイト運営者は警察・税務署対策として何重にも考えを巡らせたことで、当局からの摘発は今までされていないという。
僕がやったのは徹底的にダミーを立てることです。出会い系サイト規制法は03年に公布された。
あれこれ考え、まずそれ用の会社を設立した。最初に、出会い系の世界に詳しい人の紹介を受け、名義人といいますか、番頭さんを立てて会社の代表者になってもらい、法人登記しました。その後、会社の所在地とは別のところに部屋を借り、そこで別の名義人を立てて、出会い系サイトを実際にやり始めた。例のシステムがありますから、1サイトにつき従業員3,4人ですむ。それで月1000万~20000万円入ってきます。ぼくにとってはカネが入用のときには気軽に引き出せるプライベートバンクのような会社に育ちました。
ぼくは勉強する気のない、できの悪い法学部の学生でしたけど、そんなぼくでも講義の中でチラッと覚えていることがある。詐欺というのは騙す目的があって騙す行為だと。つまり騙した側が内心騙そうという意識があったことを立証しなければ、詐欺罪は成立しない。だから、出会い系サイトの経営を詐欺だと決めつけるのは法的にかなり難しい。
実用にならない我が国の高等教育だが、詐欺師の役に立派に立っているといえるだろう。
1人から最大引き出した額はなんと・・・
この出会い系サイト、1人で最大いくら課金するのだろうか。
1年ちょっとの間に1人から2億円ですね。これは純愛路線で、メール上、うちのサクラと結婚することになっていたのですから、重症です。相手は北陸の大手食品会社の社長の娘さんで、年は40ちょっと前。うちのサクラは当然男役で、世界を飛び回ってる青年実業家という触れ込みでした。
この手のサイトは会えないのが基本だが、あまりの大口顧客ぶりに例外的に会うことを認めたのだという。
男は財布に10万円あれば5万円しか使わない。しかし女は財布に10万円あれば20万円を使う。夢見てる間はカネを工面して、いくらでも突っ込む。しかし夢が破れた暁には強烈なクレーマーに変じるという。男は「いい勉強になった。授業料だから仕方ない」と諦めるが、女は決して諦めない。
「業界では女性に課金することをジョカキといい、ジョカキは難しいという定評があります。メールのやり取りもユーザーが女性の場合は終わり方が難しい。最後は相手を恨むのではなく、自分が悪いと思わせなければならない。メールの話法が難しいわけですが、北陸の女性のケースでも、最後は世界を飛び回っている青年実業家を殺しました。相手が死ぬしか終わりようがなかったんです。」
本章のビジネスは肯定できないが、ユダヤの商法の裏面のような話だった。
脱法ドラッグのD2C リアル"ブレイキング・バッド"
本書で紹介されていた脱法ドラッグ界の帝王の話も非常に面白い。K氏は高卒後SEとして働いていたが、独学でクラッキングなどに興味を持ちその方面(要するにセキュリティ犯罪まがいのこと)にも手を出していた。
2010年頃、好奇心からタバコと脱法ドラッグの効き目について学術論文などで調べるようになる。やがてJWH-018という化学物質が大麻に近い働きをすることを発見。中国の化学メーカーに発注して、これを植物片にまぶしてハーブ状にすれば市販品よりも圧倒的に安価で製造できるようになった。
こうしてK氏は脱法ドラッグのECサイトを作り、製造から販売までを行う今風にいえば脱法ドラッグのD2Cビジネスに参入するのである。
K氏は実作業の中でドラッグのなんたるかを学んでいった。化学式レベルで研究していたから、しまいには化学式を見ただけで、これはドラッグとして人体にどう働くか、おおよそ見当がつくまでになった。中国の化学メーカーに対しても、K氏が主導権を握る形でドラッグのデザインを決め、注文をつけることができた。
K氏が参入するまでの脱法ドラッグ業界は闇金出身者などが多く、儲け重視で粗悪品を売りつける業者が多かったという。
業者たちはドラッグの未経験者が多く、ドラッグに対しては興味も愛情も持たなかった。当然、研究熱心であるはずがないから、欧米の販売業者から脱法ドラッグを輸入しては繁華街で売るだけの商売だった。
その点、K氏は薬物のことを分かった上でデザインし、発注することができた。細かく薬物の水準をコントロールすることもできたから、K氏の扱う薬物は問題を起こすことがほとんどなく、使用者側の評判もよかった。そのためドラッグ販売業者ばかりか、製造業者、卸売業者などから「うちで扱わせてくれ」という注文が相次いだ。
やがてK氏は合成カンナビノイドの一種である物質の商品化に成功、これを独占販売するようになった。
ところが月商1億円を超え業界最大手になったあたりで池袋の暴走死亡事故が発生。そこで一気に規制が強化されたという。K氏はカタギだしもともと法を破るつもりもなかった。そこで規制されていない化学物質を使った商品への転換を試みたが、厚労省の締め付けが予想以上に厳しく片っ端から商品が扱えなくなり、販売ビジネスからは撤退した。
本書の教訓
本書では様々なアングラビジネスが登場するが、多くの成功は一時的であり規制や摘発によって長続きしない。いくらカネが儲かってもアングラビジネスの周辺人物に一度なると後戻りはできない。一過性の金に目がくらんで、一生をふいにするのは得策とは言えない。
正業の場合もそうで、一時的な売上のために会社のレピュテーションを毀損したり不正を容認するカルチャーを作ってしまうのは長期的には損である。
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