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赤ん坊は風呂場で産まれた vol.4

陣痛がきてから約30分後に助産所に到着。

キリキリと痛む陣痛に耐えながら、助産師の渡辺さんに支えられ、わたしはお産をする小さな和室に移動した。

いつも通り、清潔に整えられた布団がひと組、敷いてある。

ー ここで赤ん坊を生むんだな、よし・・・もう頑張るしかない ー

「ここは私たちに任せてちょうだい」そう夫に告げて、助産師の渡辺さんは献身的にわたしをサポートしてくれた。夫と長男はすぐ隣の部屋に移り、わたしの様子を見守ることになった。

長男は少し不安そうな顔をしていて、夫は長男のお世話で忙しそうだ。

周りの状況がどうあれ、陣痛は波のように間隔をあけてやってくる。その波は時間が経つとどんどん短くなり、痛みも増してくる。

深呼吸をしながら、その波に乗る。じわじわっと子宮から腹部にかけてぎゅーーーーーーんと力いっぱい、巨人にでも鷲掴みにされたような痛み。

お股も腰も全部が痛い。鼻の穴からスイカが出てくるような痛みだと、噂にはよく聞いていたけれど、やっぱり一人目も、二人目も痛いものは痛い。

金槌で思いきりガツンガツンと叩かれているような感覚だ。それが生まれるまでずっと続くのだから、正直しんどい。

命を産み落とすことは容易ではない。

わたしは仰向けで、拳に力を入れて痛みに耐えていた。あぁ、すっかり忘れていた、、陣痛とはこんなにも痛いものだった。。

長男を出産した時、陣痛から誕生まで20時間を要した。今回はどれくらいかかるのだろうか。もうあの長時間にかけて痛みに耐えることなんてできない。

しかしながら、今回心強いのは助産師さんと、ドューラさん、この2名がつきっきりでわたしをサポートしてくれる。

(*産後ドゥーラとは、家事も育児も、心配ごとも、まるごと相談できる心強いサポーターのこと。今回はお産のお手伝いをしていただきました。)

背中を懸命にさすりながら

「大丈夫、呼吸をしっかりね。」

「産みたい体制で産んでいいのよ」

陣痛がやってくるたびに、拳と腹部に力が入る。

「痛い痛い痛い痛い痛い・・・・・・・!!!!」顔をくしゃくしゃにして、痛みに耐えていると

赤ちゃんが出てくる子宮口の開きは1cmから3cm、5cmのところまで約3時間でじわじわやってきた。赤ちゃんが頭を出すには10cmまで開かないといけない。この開きは、自然に陣痛に耐えながら、待つしかなく、わたしは額にしっかり汗をかいていた。

痛いことには変わりないのだけれど、精神的には不安が少なかった。助産師さんの声がけは優しく、頼もしく、気配りが行き届いていた。総合病院での出産は、「痛い」「不安」そう言った言葉をきちんと受け取ってもらえなかった印象で、産まれるまでずっと心細かった。

機械的に出産の対処をされたように感じた。

その時とは大きく異なり、ここでは、自分がきちんと一人の人間として扱ってもらえたと思えた。

「わたしがいるから、大丈夫よ。生命をしっかり受け止めるから!」そんな言葉をかけてもらったような安心感。夫には申し訳ないが、助産師の渡辺さんがいれば、何も怖くないと思えた。

なかなか子宮口が開かず、進まないお産を見て彼女が「お風呂に入ってみる?」お風呂に入って、温まると血行が良くなって、陣痛が強まりお産が進むことがあるとのこと。

「痛みに耐える時間を短くしたいなら、早く産みたいなら、お風呂に入ることをオススメするよ」

ここまで、最初の陣痛から4時間が経過。

もうすでに陣痛は痛みをさらに増していて、風呂に移動するのも辛い。

けれど、彼女がそういうのなら、そうしてみよう。

早く産みたいことには変わりない。こんな痛みは早くなくなってくれ。

お風呂に入るのならば、全裸にならないといけない。

当たり前だが、ここにいる全員が服を着ている中、わたしは服を全部脱いですっぽんぽんになった。

わたしの両脇を彼女とドゥーラさんに支えてもらい、風呂場へ。まるで捕らえられた宇宙人のような姿。自分の滑稽な姿を鏡で確かめるが笑う余裕はもうすでにない。

どうにか力を振り絞り、大きなお腹を抱え、足を浴槽へとあげる。そおっと、腰あたりまで張ってあるお湯に浸かってみる。

腰の痛みが少々和らいできたような、、、あったかい・・少しばかりほっとしたのもつかの間。

「ドカン!!!!!!」

やってきた!これまでにない本格的な体の中心に稲妻が入ったようなガツンとくる痛み。

湯に浸かって5分後、陣痛がいよいよ本格化した。

「ギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」

あまりの痛みに堪え兼ね、わたしはキングギドラの如く、叫び狂った。

助産所は個人宅。お産の部屋は防音設備が整っているけれど、風呂場だけは防音されていないそうで、わたしの声は外にまでだだ漏れていた。きっとご近所さんは何があったのか慌てふためいたであろう。

渡辺さんが「どう?痛みが激しくなってる・・産むのはちょっと我慢して!お布団の部屋に戻るから!!!戻ってから産むからね!」

「いやー!!!もう無理です!!!産まれそう、産まれそう!!」

「え?もう産まれる??いやいや、ちょっ、ちょっとの我慢よ!」

「いや、いや、ぎええええ!産みます!産みます!もう産まれます」

わたしは湯に浸かったまま、自分の股間を押さえた。たった5分しか経っていないけれど、もう出てくる・・もう出てきてしまう!

自分の股間から何か、頭部らしきものが出てくる感触があった。

しかし、手で触れた感触は、ブヨブヨとしたゼリー状のものだった・・・なんだこれは??クラゲ?いや、う◯こ?それにしてはでかすぎる。赤ちゃんであってほしい。

頭ってこんなにも柔らかいものだったか???

わたしは白目になりながら、自分から何が産まれてくるのかよくわからない状態になっていた。赤ちゃんは無事なのか?これから出てくるものはなんなんだ?

痛みは絶頂、もう激痛が走って、風呂場で悶えたまま、まともに立ち上がることができない。

もうここで産むしかない!!!!!!!!!!!!!もうなんでもいい、出てこい、新しい命よ!!!!!!!!!!

心配する助産師の渡辺さんに配慮することもできず、わたしは大声をあげて思いっきり踏ん張った!!!!!!!!!!!!渡辺さんが一緒にわたしの股間から赤ちゃんの頭らしきものを支える。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!!!!!!」

「ぎえええええええええええええええええええええええええ」

ズルン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

出た!!!!!!!!!!

自分の中から大きな個体が出て行った。水中から一気に渡辺さんが両手で、すくい上げた!!!

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つづく

次回は「赤ん坊は風呂場で産まれた vol.5」をお届けします。

次回はほとんど出産直後の写真を言葉にのせず、ドキュメンタリー形式で掲載します。お楽しみに。

写真:神ノ川智早 


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