ものづくりに大切なのはビジョン、創業者が語るハードウェア開発の物語
グッドデザイン・ベスト 100
グッドデザイン賞の名前を聞いたことのある人は多いと思うが、その中でも選りすぐりのものだけを集めた「グッドデザイン・ベスト 100」というものがある。
世の中に無数にある新製品の中で年間100製品だけにしか贈られないこの賞は、デザイン業界の中で羨望の的となっている。
2016年9月、BONX Gripはその「グッドデザイン・ベスト 100」を受賞した。BONX Gripのハードウェアとしてのデザインは確かに素晴らしいものだ。機能性とデザイン性が見事に融合された他に類のないものになっている。
しかし、BONX Gripの真の価値は、Gripだけを見ていてもわからない。BONX Gripは常にソフトウェア(アプリやクラウド)と一体となって提供する「体験 / UX」の一部として考えられてきたものであり、それは世界にイヤフォンメーカーが数多あるのにも関わらず誰もやったことのないことだった。
ものづくり素人の創業者に率いられた小さなベンチャー企業にどうしてそんなことができたのだろうか。
No team. No innovation.
創業者の宮坂には、確かに何のものづくりの経験もなかった。高校の技術や図画工作を除いて。
しかし明確なビジョンを持っていた。
「雪山を滑りながら仲間と話したい。
それをイヤフォンとスマホアプリを組み合わせて実現したい。
それはきっと雪山にとどまらず、様々なフィールドでも使われるものになる」
シンプルで素朴な発想だが、このアイデアを起業というリスクを取って追い求めたいという宮坂の元に続々とプロフェッショナルが集まった。
プロダクトデザイナー百崎がこの唯一無二のフォルムは生み出していなければ、今頃はデバイスをこめかみにボンドで貼り付けていたかもしれない。
ソフトウェアエンジニア粟飯原が発話検知アルゴリズムを開発していなければ、BONX体験の鍵となるハンズフリー機能は実現できていなかった。
これだけのプロフェッショナル が集めてもなお開発は困難を極めた。
そもそも各パーツの開発の難易度が高かった。
VoIP(インターネット経由で音声をやり取りするテクノロジー)を電波環境の不安定な野外を移動しながら使うという発想自体が新しく、スクラッチから構築しなければならなかった。エンジニアがPC持参で山に行き、その場でデバッグをするという漫画のような光景が当たり前のように繰り広げられた。
「イヤフォンは世の中にたくさんあるし」と思っていたのが間違いで、独自形状であることが開発難易度を格段に押し上げた。
そして初めて挑む中国でのものづくり…。何度も現地に足を運び、白酒とタバコの煙にまみれながら中国人エンジニアと深夜までやり合った。
BONX Gripの躍進
そんな数々の苦労を、BONXはチームの力で乗り越えた。
2016年12月、ついにBONX Gripの一般販売が開始された。
初めてBONXをつけて山に行った人は、それまでのスノーボードはとんかつにソースをかけないで食べていたようなものだったということに気づいた。
間もなくGripは雪山を飛び出し、表参道の高級ブティックから高度3万フィードの機内まであらゆるフィールドでチームを支えるものとなった。
「グッドデザイン・ベスト 100」に留まらず、「JIDAデザインミュージアムセレクション」「Red Dot Award」「Design Intelligence Award」など世界のデザイン賞を次々と受賞した。
今ではBONX Gripの出荷台数は5万台に上っている。
次なるイノベーションへ、BONX miniのリリース
そしてこの冬、BONX Grip以来となる新しいハードウェア製品が満を持してリリースされる。
BONX miniだ。
BONX Gripよりもさりげなく、価格が安いminiは、より多くの人にこの体験を届けたいという思いで開発された。
クラウドファンディングでは約8,000万円を集め、この冬には一般販売も開始される予定だ。
ここまで読んで頂いたなら分かる通り、BONXはチームワークが生んだイノベーションである。BONX miniでより多くのチームが成長し、BONXのようなイノベーションがたくさん起こる世の中になることを祈っている。