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U2の歴史⑥


U2の歴史⑤

晩秋

2006年 UK2位 US86位
メアリー・J・ブライジと共演し、二度シングルカットされた「One」は、UKでシルバーディスクに輝くなど、世界中で大ヒット。

The Saints Are Coming
2006年 UK2位 US51位
ハリケーン・カトリーヌの被害に遭ったミュージシャンの救済を目的とした、Green Dayとの共演による、The SKidsのこのカバーも大ヒット。

2005年7月2日、この年の8月にスコットランドで開催されたG8に合わせ、発展途上国の貧困に対する意識を高めることを目的としたLive 8がボブ・ゲルドフ主導により世界各地で開催され、U2も出演した。U2はポール・マッカートニーとのデュエットで、この壮大なチャリティライヴのオープニングを飾った。ちなみにこの「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」は、演奏後すぐさまダウンロード販売され、セールス最速シングルとしてギネス・ブックに登録された。

12月18日、ボノはビル・ゲイツ夫妻とともにタイム誌のパーソンズ・オブ・イヤーに選ばれる。ボノがタイム誌の表紙を飾るのは4度目、今世紀に入って3度目というハイペースである。

そして207年3月29日、ボノにイギリス政府からナイトの称号が与えられ、アイルランド人として、ミュージシャンとしての栄達はここに極った。またボノは2003年、2006年、2013年の3回、ノーベル平和賞の候補に挙がっている。

Windows in the Skies
UK4位
2006年11月に発売された『U218 Singles』収録。プロデューサーはリック・ルービン。曲は堂々U2節だが、なんといっても、このPVが話題になった。ロックンロールに対する愛情に満ち、その歴史を振り返る素晴らしい内容。もう一本のPVはU2の歴史を振り返るものだった。今にして思えばこれは、バンドが次の段階へ行く区切りの曲だったのである

The Ballad of Ronnie Drew
当時癌で闘病中だったThe Dublinersのルーニー・ドリューの治療費捻出のためのチャリティソング。シネイド・オコナー、アンドレア・コアー、シェイン・マガウヴァン、リアム・オ・メンリィなどなどそうそうたるメンバーが揃ったアイルランドオールスター集団。その中でもU2は「顔」である。

U2の作品は芸術的にも商業的にも大成功を収め、バンドは大金と名声を手にし今や世界のセレブ。が、その成功も彼らを変えてしまうこともなく、4人とも相変わらずのダブリナーで、高校時代に恋人だったアリはボノの妻で4児の母親、バンド仲間だったエッジ、アダム、ラリーはいまだバンド仲間で、友人だったギャヴィンやグッギはいまだに友人である。

大変素晴らしいことだ。

が、かつてのようにU2が新境地を目指さなくなったことに一抹の寂しさを感じていた私のような捻くれ者も少なからずいたのではないかだろうか? このままストーンズのようにグレイテスト・ヒッツ・バンドになってしまうのだろうか? と。

と、そんなところにきて、降って湧いたのが、この問題だった。
2006年8月1日、アイリッシュ・インディペンデント紙が、「U2はアイルランドの新たな法律下での多額の納税を避けるため、6月1日に著作権使用料の管理をアイルランドからオランダへ移した」と報じた。アイルランド政府にアフリカ支援を求めていながら、自分は税金逃れをするなど、矛盾しているではないかと激しい非難を浴び、今なおU2のメンバーが釈明を求められるなど議論を呼んでいる。

2009年11月18日、オバマの米大統領就任式で、「Pride」と「City Of Bliding Lights」を演奏。初の黒人系大統領の前で「Pride」を歌うU2の胸中やいかに→「ミスター・プレジデント、バラックへ

が、ボノの慈善活動が活発になるのとは裏腹に、U2の活動は段々低調になっていった。レコーディングは期限を決めずに断続的に行っていたが、当初プロデューサーだったリック・ルービンとそりが合わず、ルービンは降板。結局、リリーホワイト、イーノ、ラノワのいつもの3人と一緒にモロッコのフェズその他の場所で行われることになった。

No Line on the Horizon

2009年2月27日発売
UK1位 US1位
いつものメンバー+いつものプロデューサーで自然発酵を狙ったのだろうが、結果、焦点の定まらないどっちらけの作品になってしまった感がある。「Get On Your Boots」もリードシングルとしては地味だった。ゆえにセールスが落ち込んでしまったのだろうが、失敗作ゆえにメンバーの本質が露になり、初期作品に通じる輝きを放っているのもまた事実だ。個人的には21世紀に入ってからのU2の作品で一番楽しめた。U2版ソウルミュージック。
ちなみにジャケットの写真は杉本博司氏の作品。杉本氏はアルバムを音楽を自由に使える権利と引き換えに、写真の使用を許可した。

宗教が元でこの世界には多くの問題が生まれた。例えば僕らの母国アイルランドも宗教によって二つに分立した。少なくともしばらくの間は。宗教が悪用されているせいで、人々は宗教から距離を置きがちだ。だが宗教、信仰というのは美しいものだと思うんだよ。信じるということはパワフルな力を持っているし、自分を信じること、愛する人たちを信じることは必要だ。また経済的な危機の時期などにも、何かを信じることでそこから抜け出せると思うんだ。だから信仰はパワフルな言葉だと思うんだ。経済危機の場合、物質的なこと、例えば数字、GDP、経済復興政策だけについて語りがちだ。ところが信仰や神や、価値観などについて語る人がいないのは、不思議だと思うんだよ。まあ僕らのようなロック・バンドがそれについて語るのも不思議かもしれないが。(笑)でもそういったことについて考える機会をもたらすのが、アーチストの仕事かもしれないね。
(ボノ)

が、アルバムのセールスは500万枚と前作、前々作とかなり落ち込んだ。この頃になるとCDが売れない時代が到来しており、マドンナやBon Joviでさえ、アルバムを発表するたびにセールスが半減していく有様なので、U2はかなり健闘しているといえるのだが、それでもボノはこの結果に落胆を隠せなかったようだ。

我々はそういった(ポップな)思考にはなかったんでね。“アルバム”っていうのは、もはや絶滅種に近いんじゃないかと感じたんだ。そこで俺たちは、ムードやフィーリングを作り出そうとした。起承転結をさ。思うに、我々の作った作品は、お決まりのポップ・スターたちで育った人間には、ちょっとばかりハードルが高かったかもな。確かに、我々はポップ・ソングは提供しなかったからね。
(ボノ)

そしてアルバムに伴うツアーは360度ツアーと銘打たれ、ステージ総重量390トン、トラック1800台分の容量、設営4日間、装置搬入2日間というPopmartを上回る大規模なものになったが、経済危機を反映して最安の席は30ドルに設定された。ちなみにDVDに収録されているローズボウルでのライブは、アメリカ国内で行われた1日の公演としては最多となる9万7千人を動員し、ようつべでも放映されて1000万人が視聴したということである。
規模もさることながら、このツアーでは「Electrical Storm」「Zooropa」「Your Blue Room」など 過去ライヴで演奏されなかった曲、久しくライヴで演奏されなかった曲、未発表曲などが沢山演奏された。結果、ツアーはストーンズの記録を抜いて史上最高の収益を上げた。アルバムのセールスは前作に比べて半減したが、それでもU2に「落ち目」イメージがつかなかったのは、このツアーの成功によるものだろう。ちなみにこの収益から500万ユーロ(約5億9,000万円)をアイルランドの音楽教育を支援するチャリティ団体に寄付している。

2011年6月24日、1年前はボノの喉の調子が悪化したことを理由にキャンセルした、イングランドの由緒ある野外フェス、グラストンベリー・フェスティバルにヘッドライナーとして初出演。「Sunday Bloody Sunday」~「Bad」~「Pride」というライヴエイドで予定されていた流れを再現し、オールドファンの熱い涙を誘ったーーが、ライブ中にはU2の節税対策を糾弾する団体アート・アンカットがデモ行為を始め、警備側のと間で衝突が起きるというトラブルがあった。

2013年11月、長年U2のマネージャーを務めてきたポール・マクギネスが引退。そしてU2はマドンナが在籍していることでも知られる大手プロモーター・ライヴ・ネイションと12年にも及ぶマネジメント契約を結んだ。動画はステージ上でU2のメンバーと観客から誕生日を祝われるマクギネス。

Ordinary Love
2013年11月29日
UK82位 US84位
久しぶりの新曲が2万枚限定のLPとiTunesでリリース。プロデューサーはニューアルバムのプロデューサーも兼ねるデンジャー・マウス。ネルソン・マンデラの生涯を描いた「マンデラ 自由への長い道」の主題歌で、ゴールデングローブ映画主題歌賞を授賞し、アカデミー主題歌賞にもノミネートされた。売り方からしても、U2がもはやCDセールスを重視していなことが窺い知れる。そしてこの曲がリリースされた直後、12月5日、マンデラはその生涯を終えた。

Invisible
UK65位
2月2日に開催されたスーパーボウルのTV中継中のCMで流され、iTunesで24時間限定でフリーDLという試みがなされた。DL一回されるごとにBank Of AmericaがRedに1ドル寄付され、集まった寄付金がRedに提供されるという仕組みである。

が、4月発売とされていたニューアルバムは結局延期。どうやら新機軸の「Invisible」よりも従来路線の「Ordinary Love」のようが評判がよかったので、再考に迫られたようだ。それ以外にもバンドの頭であるエッジと心であるボノの間に微妙に温度差があるようなのも気になる。

もう将来が干上がってないとはあんまり言いきれないところがあるからね。だから、バンドとしては『意義があるのかどうかなんてことはもう言うな』って感じなんだよ。『ノー・ライン・オン・ザ・ホライゾン』を最後に終わっても俺たちは満足だけど、そうなるかどうかは疑わしいね。
(ボノ)

U2のボノ、『ノー・ライン・オン・ザ・ホライゾン』を最後にバンドが ...

俺たちは影響力を失いかかっているところにいるんだよ。やるからには自分にとって、あるいは自分の今いる場所を考えて意味あるものしなきゃならないし、自分が経験していることを正直に表現しなきゃならないんだ。それが他の人にも意味のあるものとして影響力を持てばよかったっていうことになるんだけど、結果はどうなるかいつもわからないものなんだよ。
(ボノ)

U2のボノ、U2は現在影響力を失いつつあると語る

一方、エッジ。

絶対に文化遺産的なバンドにはなり果てたくないんだよ。いつかそうなってしまうのかもしれないけど、たとえそうなったとしても、目一杯あがいていきたいよ。僕たちとしては自分たちの居場所というのは、コンテンポラリーなカルチャーや音楽、映画その他諸々と、そういうものについての会話の中にこそあるんだと思いたいんだ。で、僕たちがそうなれない理由は別にないと思うんだよ。いろんなアーティストが様々な形でそういうことをやってきてるんだからね。たとえば、フランク・ロイド・ライトは死ぬ直前まで、とんでもない建物の設計をずっとやってたわけだし。僕たちもそういう1人になりたいわけで、上品に歳を取るなんてことはしたくないんだ。

U2のジ・エッジ、文化遺産的なバンドにならないようにできるだけあがいてみせると語る

Songs of Innocence

2014年10月13日発売
UK6位 US9位
アップルのiPhone6の発表記者会見の場で5億人限定で無料配信すると発表された5年ぶりの新作は二度目の原点回帰だった。今度は「Boy」まで。もしかしたらU2のアルバムで一番聴きやすいかもしれないが、ややもすれば、プロダクション先行で、「U2らしさ」が欠如しているかも。いよいよこの世界一のバンドも末期を迎えつつあるのかもしれない。

ラリーの父親、B.B.キング、ツアーマネージャーのデニス・シーハンがツアーの開始の前後に相次いで亡くなり(ツアー終了後、エッジの父親も死去)、死の匂いから始まったツアーだったが、巨大スクリーンを駆使した斬新なセットリストで、またしてもリスナーの度肝を抜いた。そしてパリ公演直前にテロに見舞われ、日を改めて行われたパリ公演で、そのテロ被害に遭ったEagles of Death Metalをステージに上げたのがツアーのハイライトだった。

11月13日の事件を受けて、僕らの兄弟であるU2が僕らのためにやってくれたことに対し、心から感謝します。彼らは悪い奴らは一日たりとも休むことはない、だから僕らロックンローラーも休むべきではない、と思い出させてくれました。僕らは決して立ち止まりません。こんなに早くパリに戻り、ロックンロールが持つ癒やしの力をこれだけ多くの美しい人々・・・僕らの友人達・・・、この偉大な街の友人達と共有する機会を与えてくれたU2に心から感謝します。有り難う、ボノ、ジ・エッジ、ラリーそしてアダム。彼らの素晴らしいマネジメントにも有り難う。有り難う、フランス。そして、愛、喜び、音楽は決して恐怖と悪には屈しないと証明し続けてくれている世界中の人々も、有り難う。

2017年5月から『The Joshua Tree』発売30年を記念して、アルバム収録曲を全曲再現(しかも曲順も同じ)するThe Joshua Treeツアーが敢行された。新作のリリースが間に合わず、その埋め合わせという噂もあるが、それはともかくオールドファンはむせび泣き、停滞したバンドも真の意味で原点回帰ということで、非常に有意義なツアーだったのではなかろうか?

Songs of Experience

2017年12月1日発売
UK5位 US1位
これまでの集大成的な作品で、これまでになくボノのボーカルが目立つ歌モノ的作品だった(エッジのギターは控え目だが、コーラスで目立っている)。前作、前々作の不調をここにきて克服した感……が、が、客観的に見ると、”死ぬほど頑張って、やっとこさ現状維持”というのが、このアルバムの正当な評価だろうし、逆に言えば新機軸はあまりなかった。

以下、加筆予定。


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