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5歳 銭湯でばったりお母さんと会った

ミキちゃんは私より二歳年下で、その頃、私は四歳か五歳だった。

戸越公園の砂場でいつものように私が一人で遊んでいたところ、お母さんのそばを離れてミキちゃんが私の近くに来て砂をいじり始めた。そして、いつのまにかミキちゃんと私は一緒に遊んだ。

しばらく遊んだ後、家に帰ろうと歩きだしたら、ミキちゃんもずっとついてきた。ミキちゃんのお母さんもこっちに向かっていて、どっちの家も同じ方向だった。

すると、ミキちゃんのお母さんが立ち止まって、
「マリちゃん、うちで遊んでいかない?」と言ったので、そのままミキちゃんの家で遊んだ。
家がすぐ近いこともわかり、それから何度もミキちゃんの家へ遊びに行った。

ある時、ミキちゃんのお母さんがトイレに入って、しばらくして、
「キャー!」という大きな悲鳴がトイレから聞こえた。

バタンと勢いよくミキちゃんのお母さんはトイレから飛び出して、玄関の外に出て汲み取りの所へ行った。汲み取りの所とは、バキュームカーが来て糞尿を吸い上げるための直径二、三十センチの大きな穴だが、普段はその上に重たいコンクリートの蓋が乗っかっている。

私も後を追って外に出た。
汲み取りの蓋が大きくずれていて、誰かがいじったような感じだった。

「トイレの中に誰かの手が見えたのよ」とミキちゃんのお母さんは言った。

「えー? なんで? きもちわるい!」

「あー怖かった。あー気味悪い・・」とミキちゃんのお母さんと言いながら家の中に入った。

そんなイヤな気持ちを洗い流すためか、ミキちゃんのお母さんは一緒に銭湯に行こうと言った。家も近いし、ミキちゃんの家に行くことはお母さんに言ってきたので怒られることもない。何だか楽しくなってウキウキしながら銭湯に向かった。

私の家の前も通り過ぎた。

ミキちゃんのお母さんが番台のおじさんにお金を払っている間に、ミキちゃんと私は服を脱ぎ始めた。ミキちゃんのお母さんも脱ぎ終わった頃、

後ろから

「あら、マーちゃんじゃない」と母の声。

「あ!お母さん!」

「マリちゃんのお母さんですか?・・ミキがいつもお世話になっています」とミキちゃんのお母さんは言った。

「まあ、こちらこそ、銭湯まで連れてきていただいて・・・」と母。

「こんなところでお会いするとは、まあびっくりですね・・」と二人は胸をあらわに素っ裸でワッハッハと笑った。

そのことでお母さん同士の公認となり、私はミキちゃんの家にさらに頻繁に遊びに行った。

しばらくしてミキちゃん一家はお父さんの仕事の都合で神奈川県逗子市に引っ越した。
引っ越してからも母は連絡を取り合っていたようで、家族ぐるみの付き合いに変わっていった。
お酒の好きな父とミキちゃんのお父さんは気が合って、私たちは何度も泊りがけで逗子の家を訪れたのだった。

これこそが本当の裸のつき合いというものだ。

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