趣味で回顧録風小説とその表紙絵ばかり書いてきたプログラマー、ジャンププラス原作大賞のために結局A4用紙にネームを切る受難へ
ボンクラヲタク略してクラヲ、倉部改作です。コンピュータのお守りをするためのコードを書いて、結局そのコードもお守りすることになるプログラマーです。
今回私はジャンププラス原作大賞 連載部門に投稿したのですが、本当に大変だったということをシェアしたい、というだけの気持ちで書いています。
私のように投稿し終わって疲れ果てている方、今後実際に漫画原作を文字だけでも書いてみたらどんな目に遭うか手軽に知りたいという方の、笑いの種にしていただければと思います。
なお私は今回、いつも行動が裏目にでがちなハッカーが主人公、おまけにスパイもするわラスボスだわとかいう、学校にテロリストな作品を書きました。いろいろあった幼馴染とイチャイチャし、同級生にオタク君とイジられ、クールなインテリに雇われる。オタクの夢パフェ作品です。
今回のジャンププラス原作大賞に私が投稿できたのは文章で投稿しても問題ない、というのが大きな理由でした。ネームひとつ描きたくない私へのビッグニュースです。
絵を描いている人には特に伝わるかもしれませんが、イラストまでは気力が持ちます。けれど漫画ほどたくさん絵を描くとなると、途方に暮れてしまうのです。だからいつも始める前に諦めてしまいます。諦めたら試合終了とかそれ以前の問題なのです。
それで、漫画ではなく小説、そして最も難易度が低い(と個人的に思ってる)回顧録形式で物語を書いてきました。絵の出番は表紙絵が限界でした。
実際に私が書いてきた作品は以下みっつ。書いた時系列で、ふたつはギルクラ改変二次創作(LOP -> bond)、ひとつは今回のscriptの原作版です。すべて回顧録形式で世界を救う話、すなわちセカイ系に位置する作品なので、つまり私は三度世界を救ったことに……?
そうして自分が三度世界を救ったと思い込んでいる限界オタクと化していたとしても、今回の漫画原作をつくるという作業では現実に浮上させられ、苦しい思いをしました。
結局すべての話において、いちからネームを切ったからです。
実に73ページを6日間でネームとして切ることとなりました。
ネームひとつ描きたくない私へのビッグニュース。それは幻想であり、大人がメガブラシを上手に使いこなして描いた虹でしかなく、かつてケネディ大統領が就任演説で語ったように、この地球上での神の仕事は、我々自身で成し遂げなければならなかったというわけです。
その結論に至ったのは、
厳しい訓練の果てに黒閃を決めたときにたどり着くことができるとか。
死に近づいたときの呪力への核心とか。
そういう世界ではなく、少年ジャンプ+」編集部 の代表:編集長 細野修平さんが募集記事で書いてくださっていました。
そこから私が捉えたのは、以下の要件でした。
1話、2話、と毎週読んだ時の各話が面白いこと。
各話においても多くの読者が最初の3~5ページで読むかどうかを判断している、という傾向があるため、漫画になったときの3ページ以内、可能なら1ページで人間が好む文脈の対比を完成させること。
次回への気になる終わり(引き)、ミステリ小説の最後で要求される衝撃が常に各話に最後にあること。
この要件それぞれの当時の原作版scriptでの対応方法は映画のノリでつくっていたもののこんな感じでした。
冒頭15分さえ面白ければミッドポイントまでは盛り上がらなくてもセーフ!!!
開幕は気の利いたエピグラフやモノローグを用意すればセーーフ!!!
冒頭、ミッドポイント、終盤、エピローグでパンチライン的衝撃を走らせればセーーーフ!!!
年末年始の6日間、私はこれらのツケを払うために苦しむことになったというわけです。
結果として、編集部の細野さんの要件から、私は以下の要求へ変換し、自らに求めました。
1話目も含めて4000字前後で起承転結にすること。1話目は起承転結のセットが2つあること。
徹底的に短く対比と気の効いたモノローグで開始すること。
原作の時系列やセリフなどの要素を重ね合わせ、最後に衝撃を発動させること。各話必ず。
これらの要求を果たす仕様、つまり今回の原作を文として完成させる方法を私は必死に考えました。
小中学生のときから歌詞やポエムが書けた人たちが羨ましいとか、綾小路きみまろさんのよくやりそうな、中高生と中高年の対比のようなものが必要(綾小路きみまろ構文と勝手に命名)だとか。かめはめ波を風呂でひとり打つ小中学生の頃の魂に戻れ、と念じたりとか。
脚色されたこれらの思案の果てに辿り着いたのは、自分自身で漫画ネームを切ってみるしかない、という手法です。
ネームと言ってもすごく単純で、A4用紙を折りたたんでA5用紙サイズを1ページとカウントし、シャープペンと消しゴムで思った通りに漫画のネームを描くだけです。漫画家に俺はなる、と思い立った新時代の小学生もしているはずのネームの書き方です。
A4用紙を折り畳んだものを採用したのは、A4サイズであれば漫画よりやや大きなサイズ程度になり、そこに書き込んですぐ読める文字の大きさに強制的に制限がかけられるからです。
信じられないくらいセリフや地の文の文字が書けなかったので、突然C言語じゃなくてアセンブリ言語でコードを書かされているかのような気分になります。プログラマーではない方へ。考えるな。感じろ。
短いコードははじめは苦しいですが、慣れると短いなりにテンポのよさにもつなげやすくなります。ギャグをここで挟めそうとか、ここで場面をジャンプできそうとか。小説より超高効率なコードにつながります。
おまけに、ネームを描くことで以下のような仕様になりました。
漫画のページにして20ページほど書くと、ほぼ自動で4000字になる。
他のすごく好きな漫画達の1~3ページの絵と文字の使い方を学べば、移植がしやすい。
他のすごく好きな漫画達の終盤を学べば、衝撃を移植がしやすい。
要するに漫画のことを考えるなら漫画で考えたほうが早かったというわけです。
おいおい当たり前だろうとここまで読んだ方は思うかもしれません。
しかし別にジャンプ編集部の細野さんはそこまでしろとは要求していませんし、そもそもnoteに原作大賞を公募する時点で漫画のフォーマットはほぼ確定でテキスト化されて潰れますから、応募者がここまでやる価値は他の大賞とくらべてかなり薄いのです。落選すれば私も経験を除けば徒労に終わります。あととても面白かったというこの記事で溢れているだろう感想でしょうか。
あとこのネームを切る方法は単純に画力というより、画力に裏付けられた根気が必要かもしれません。
実は私は開幕3ページで5回のリテイクまで粘るところから始まり、しばらくの間2ページ描くのに1.5時間をかけている、みたいな状態が続きました。それがあまりにもしんどかったのでこの記事を書いているくらいです。
絵に対するプライドみたいなのは完全にぽっきり折れ、お金出してすごく絵がうまい人に頼める現代ってなんて素敵なんだ、といまは思うくらいです。
そんな状態でも5日目や6日目(最終日)になると、どこまで手を抜いて漫画のコマを切っていいかわかってきて1時間で8ページのネームを切るようにはなったりはできるようになりましたが、もはや私以外解読不可能なネームとなっていました。
ただ、回顧録形式の小説を書いてきた私の場合は純粋にこうしないとうまく表現できる自信がなかったという部分が大きいです。もともとゲームの脚本とかを趣味や仕事で書いている人たちならこんな手続きを踏まなくてもすぐに書けるでしょうし。
とこういう調子でネームを切ったあと、すぐさま文章へとコンパイルしていく作業を繰り返し、最終的に今回の応募を果たすことができました。
一応コマの中の動きとセリフがわかるように
地の文
「セリフ」
地の文
「セリフ」
みたいなことにはしていますが、選考の基準にはたぶんならないでしょうし、面白ければフォーマットなんか気にしないというのがnoteでの大賞の目的でしょうからやりすぎたかもしれません。読みづらくなったという問題も抱えています。
ここまで来たのでいっそ、自分で漫画を描くのを始めてみようかと考え始めています。まずは漫画にできるようにペン入れやトーン入れを、一話だけでもするところまで。
どこかまた大賞に応募して、ダメだったら同人誌として刷って、自分の家の本棚にでも残そうかと思います。余ったぶんを、一度も出したことのない同人誌即売会でシェアするのなら、楽しそうです。
そういうわけで、今回のnoteでの大賞は、漫画を描くということにコンプレックスを抱えていた自分にとってはとてもいいきっかけになりました。
でもまずは年末年始もフル稼働だったぶんだらだらしようと思います。ちょうどチェーンソーマンの13巻もあります。あと全巻買うだけ買って、高専生の時そうはなれなかった未来、と感じるほどにコンプレックスを抱えて続きを読めていないバクマンもKindleで待っています。
でも大賞とって、
小畑さんにデスノートやAll You Need Is Killの調子で、
連載してもらいたいんだよなあ。
くらを
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