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1 被曝避け得ず土に雨土は春

句集「むずかしい平凡」自句自解。第2章「春の牛」から。

ここからは、2011年以降の福島を舞台にした俳句がしばらく続きます。

2011年3月、原発が事故を起こした。もう、人間にはコントロール不可能な状態になり、爆発するしかなかった。

爆発し、放射性物質を大量に含んだ空気は、福島県をはじめ各地に飛散した。その被害がもっとも大きかった地域は、雨に降られたところだった。雨雲が被曝した空気を運び、雨とともに地上に降り注いだ。こうなると、被害は大きくならざるを得ない。

なんともなければしっとりとした春の雨なのに、私には、真黒な、不吉な雨に思えた。

私自身も、雨に濡れて避難者を避難所に迎える仕事をしなくてならず、被曝した。しかし、それでもカッパを着たり、傘をさしたりして、少しはしのぐことができる。

土はそういうわけにはいかない。ただそれを受け止め、しみ込ませるほかはない。そして、それがあとあと人間の生活に大きく影響を与えていく。

この時の思いは、なかなか俳句にできず、最初はこんな短歌ができた。

 被曝検査受けねば避難受け付けぬと雨を濡れ来し親子帰さる

この親子を帰す仕事をしたのは私自身である。管理職から、被曝検査を受けていない人は、避難所に入れてはならないと言われていたのだった。

そのくせ、雨に濡れてこの仕事をしていた私自身、けっこうな被曝量だった。笑い話にもならない。


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