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私の日常の謎

淡々とした毎日の途中、落とし穴に落ちるように「なんだこれ?」と思う出来事に遭遇することがあります。
どうでもいいといえばどうでもいいことで重要性は一切ないのですが、ふとした瞬間思い出して、「あれなんだったんだろうな?」と一人考え込んでしまうのです。
そんな話がいくつかあるので、お話しさせてください。

◎駄菓子屋で買った謎のお菓子

これは子どもの頃ではなく、結構な大人になってからの話ですが、通りすがりにふらっと入った駄菓子屋でとある菓子を買おうとしたら、そこのおばちゃんに「こんなんあったかな?」と言われてしまったことがありました。

おばちゃんからしたら仕入れた記憶のないものだったらしく、こんなお菓子初めて見るわみたいな顔をされてしまったのですが、真ん中にしっかりと値札が貼られていたため、結局は、その値段で売ってもらえることになりました。

売る方も売る方で買う方も買う方ですが、店の雰囲気もおばちゃんも(&私も)緩めだったので、ま、いいかという感じでその場では深く考えませんでした。

しかし、家に帰ってから、これは果たして食べていいもんなのかと少々不安な気分に…。
ただ、包装がしっかりしていてどこにも傷や穴がなかったし、何より今まで出合ったことのない珍しいお菓子ということで好奇心がだいぶ勝ってしまい、えい、バリバリとビニールをはがして口に入れてしまいました。
(美味。お腹も大丈夫でした)

ちなみに、そのお菓子とは、これ↓↓↓

西八製菓株式会社さんの<ニッキ貝>
ビニールの下は硬い貝殻で密閉されていたので安心感はありました。

島根県の菓子メーカーということで、私の住む地域とは随分離れており、その後も生活圏で見かけたことはありません。
後日それを買った駄菓子屋にもう一度行ってみましたが、やはりそのお菓子は置いてありませんでした。
(ここで、その駄菓子屋はありませんでした、とか、そのおばちゃんを知る人はいませんでした、とかなら面白かったですが)

真実はなにかなんて探ってみても、それは意外と単純なことで、ドラマチックでもなんでもないつまらない偶然の結果だったりします。
このお菓子にしても、単にうっかり屋の子どもが、どこか別の店で買ったものを忘れていっただけなのかもしれません。

でもなあ…、そこになにか謎なり物語性があったら面白いだろうなあ。
そう思ったのがきっかけで書いたのが、『黄色い菓子の謎』です。

タイトルは、そう、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』のオマージュです。
(内容は全然違います)

<ニッキ貝>が昔懐かしい駄菓子ということだったので、同様に昭和レトロを思わせるお菓子である<レモンケーキ>を主役にして物語を書いてみました。
(ジュースで例えれば、1%くらいの果汁(事実)が入った小説です)

◎同時に鳴った電話

今から三十年近く前、まだ携帯電話が一般に普及する前の話です。

雨の日、部屋でだらだらしていたら、滅多に鳴らない電話がプルルルルと鳴りました。
なんか用かい?と受話器を取って「もしもし」と問うと、先方も「もしもし」と言ったきり「・・・」と無言の間が。

当時、私は一人暮らしを始めたばかりの学生ということもあって、苗字を名乗るのもためらわれ、ただ「どちら様ですか?」と「もしもし」を繰り返し、向こうの出方を探るのみ。

すると、相手も同じように「どちら様ですか?」と「もしもし」を繰り返す訳です。
意味不明な上に馬鹿馬鹿しくて、「切りますよ」と受話器を置こうとした時、相手は「ちょっと待ってください、何の用ですか?」と詰め寄る感じで尋ねてきました。
ちょっとムッとした私は、「電話が鳴ったので出ただけです」と強めに返したのですが、相手もそうだと言うのです。

つまりは、お互いが鳴った電話に出たら、知らん者同士繋がってしまったという状況。
雨だし、雷も鳴っているしで、電話の線が混線してしまったんですかね、ということで、ごめんくださいと電話を切りました。

電話の仕組みは知らないけれど、こんなこともあるんだな、とその時はサラッと流しましたが、思い返すと妙な話だなと感じます。
後日、友人に話したら、新手のいたずら電話じゃないの?とロマンもなにもない言葉を返されました。

事実はどうであれ、なにか面白い物語の種になりそうな感じもします。

◎駅のコインロッカーの隙間

これも電話の話と同じ頃に経験したことです。

帰省で利用した駅で、とんでもないものを目撃してしまいました。「日常の謎」というよりも怪談に近いかもしれません。

というのも…、とある駅の待合コーナーにあるコインロッカーの隙間、つまりその背面と壁との隙間に女の人が潜んでいるのを見つけてしまったのです。

ちなみに、私には霊感などありません。
だからといって、視える人がいることを否定しませんし、お化けの存在についても、自分にはわからないがいる所にはいるんだろうな、くらいには思っています。
(UFOとか宇宙人は面白そうだから、是非存在していてほしい)

でも、しっかり見てしまった。
強烈だったので、細かい所まで覚えています。

・腰まで届くほど長い黒髪
・痩せ型
・年齢不詳
・健康ランドのムームーみたいなワンピース姿
・全身ずぶ濡れ
・怯えて震えている
・見ると目が合う

…まとめると、「おじゃる丸」の「うすいさちよ」の実写版のような外見でした。

見つけた瞬間、私は完全にそれを「人」だと認識したため、大変だ、具合が悪そうな人がうずくまっている、と思って慌てました。

すぐに駅員さんを呼びに行こうと思ったのですが、ちょっと待った、なんか変だぞと。
その隙間、1センチ弱。
どう考えてもそこに人間は入らないのです。

見え方としては、玄関ドアの覗き穴というか、少し開けた引き戸から向こうの部屋を覗いているような感じ。
だから、体格が薄い人が入り込んでいるというよりも、隙間の向こうに空間があるような感覚です。

それなら、コインロッカーの裏に凹みがあるのかもしれんと思った私は、ほぼ未使用のコインロッカーの扉を片っ端から開けてみました。
でも、凸っと膨らんでいる様子はなし。
もう一度、隙間を覗くと、相変わらず、うすいさんはこっちを見ている。

この時点でもまだ人が入り込んでいると思っている私は、そろそろ乗る電車が来る時間でもあったので、後は駅員さんに任せようと窓口の方へ向かった訳ですが。
ここにきて急に背筋に冷たいものがサーッと走って、そのまま改札を出て丁度来た電車に乗って逃げてしまいました。

そして、だいぶ後になってから、似たような怪談が存在していることを知ります。

小山ゆうえんち~でお馴染みの桜金造さんの怪談で有名になったという隙間女『1mmの女』とか『1mmの幽霊』とかのタイトルでも知られているようです。

私が見たのはこの類だったのかなんなのか。
でも、やっぱり人間だったんじゃないかなという思いも捨てきれていないのですが。
以来、その正体が気になっています。

◎憧れの「日常の謎」

こういった感じで、私の平凡な日常にも時々変な<謎>が出現してくるのですが、それを知った時、これほど見事な「日常の謎」があるのか!と感激した話があります。

それは…

若竹七海さんの<五十円玉二十枚の謎>

事実は小説よりも奇なりとは言いますが、現実世界でこんな奇妙なことがあるとは。
一度でいいから、こんな「日常の謎」に遭遇してみたいものだと、憧れております。


気づいていないだけで、実は<謎>というのは日常のあちらこちらに潜んでいるのかもしれません。
滅多に遭遇することができないからこそ、私は推理小説を手に取ってしまうんだろうな。

現実でも虚構でも、奇妙で不思議で愉快な<謎>があると、嫌なことを忘れて没頭できます。
そういった訳で、いい<謎>との出合いを楽しみに、私の日常は続くのです。

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