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『生きる(1952)』感想と『生きる-LIVING(2022)』を見るポイントを考える

※トップ画像はAmazon Videoから

◆個人的な前置き

 今年3/31から日本国内で黒澤明監督の『生きる』を基にしたオリヴァー・ハーマナス監督の『生きる-LIVING』が公開される。

 『生きる-LIVING』についてはアカデミー賞やゴールデングローブ賞といった場で高い評価を受けているため興味を持った。原作の『生きる』については黒澤映画はまだ時代劇ものしか見ていないため、これを機に見てみようと考えた。

 今回『生きる(1952)』を視聴したので印象に残った点、それを踏まえた上で『生きる-LIVING(2022)』を見る際に意識する点を整理する。

※注意
 以下『生きる(1952)』のネタバレが含まれております。未視聴の方に向けた補足はないのであらすじなどを見てから読むことをおすすめします。

◆『生きる(1952)』感想

 印象に残った要素を整理する。

・ストーリー

 「人生をどう過ごすか」という題材は現代でも(もしかしたら今の人のほうがより強く)通じる内容であり、登場人物も現代の社会人のため共感できる人が多いのではないかと思う。公開されてから長い間高い評価を受けて、リメイクされたのも納得できる。

 この記事では話の節目であると感じた場面を基に、ストーリーを”前編”と”後編”に分けて感想を書く。

  • 前編:00:00~92:00:主人公である勘治がまだ死んでいない場面

  • 後編:92:00~143:00:勘治が死んで関係者が生前について語る場面

 前編については人生に対する後悔から、煮え切らない態度を取り続ける主人公勘治の言動など冗長に感じるシーンが続くため退屈に感じた。しかし無駄な長さに感じる時間と話の展開については、作中のアナウンスで「死人同然」と揶揄される勘治の人生を的確に表現したものでもあるとも感じた。

 というのも後半は前半と比べて40分程度短いにも関わらず、勘治最期の5ヶ月間の働きについて怒涛の勢いで流れるため充実感が伝わってくる。もし前半のテンポを良くしたら、観やすいかもしれないが勘治の変化は伝わりにくいものになっていたかもしれない。

・演技とカメラワーク/構図

 前編の勘治はか細く途切れ途切れな喋り方をしてるのに加えて、震えるような弱々しい動きをしている。その表情や言動をアップで見せるカメラワークは勘治の恐怖心、勘治をワイドアングルで小さく見せたり1人で映す構図は孤独や空虚といった負の印象がより強調されていた。

 後半の回想内における勘治は声は弱々しさはあるものの言葉と言葉がしっかり繋がっており、ところどころ胃がんによる体調不良を感じさせつつも常に公園のために動いている。また、様々な角度や距離を利用した前半とは対照的に人間の身長や姿勢に合わせたカメラワークや構図が多いため、作り話ではなく実際に見たかのような現実味のある回想に感じた。

・音楽

 作中で印象に残った2つの音楽についても書いておく。

 1つ目は誕生日祝いの歌である "Happy Birthday to You" だが以下の場面で流れる。

  1. 89:10~89:45(前半): 小田切(元部下)と喫茶店にいる場面:店内にいる生徒の歌声

  2. 91:20~91:50(前半): 職場で部下に対して語り掛ける場面:BGM

 1. は小田切のアドバイスから何かを決心して店を出る場面、2. は市民公園成立の決意を示す場面で流れている。どちらも「死人同然」や「ミイラ(小田切からのあだ名)」だった人生から「生きる」状態への脱却、すなわち新たな人生の「誕生」を予感させるものだった。

 2つ目は "ゴンドラの唄" だが以下の場面で流れる。

  1. 48:45~51:30(前半): たまたま知り合った小説家とジャズバーにいる場面:勘治の歌声

  2. 136:40~138:10(後編): 勘治が冬の夜に完成した市民公園のブランコを漕いでいる場面:勘治の歌声

 1. の場面にて勘治は精神的に不安定な状態であるため、目に涙を浮かべて終盤は音程も安定しない不気味な歌い方になっている(笑顔で踊っていた周囲の人々が無表情になりその場を離れる様子からも不気味さは伝わる)。しかし 2. では落ち着いた音程かつ笑顔で勘治は歌っており、目撃した警察官も「楽しそう」「しみじみとした」と証言しているため勘治の精神状況は大きく異なることがわかる。

 "Happy Birthday to You" は話の転換、"ゴンドラの唄" は勘治の変化を感じさせる効果がある曲として強く印象に残った。

◆『生きる-LIVING(2022)』を見るポイント

 『生きる(1952)』の感想からリメイク版である『生きる-LIVING(2022)』を観る際に個人的に意識したい部分を整理する。

・ストーリー

 リメイク元の上映時間が143分に対して103分と40分も短くなっている。順当に考えれば恐らく前編が短縮されると思う。その場合どの場面がカットされるか、あるいはテンポをどう早くするかに注目したい。

 脚本がノーベル文学賞受賞者かつ小説の映画化経験があるカズオ・イシグロであること、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞でのノミネートという実績から期待したい。

・演技とカメラワーク/構図

 予告編を見る限り主人公であるウィリアムズ演じるビル・ナイは表情や言動を強調していないように感じる。カメラワークや構図に関してもこれだけでは場面ごとにどのような変化をつけているのかわかりにくい。

 どちらもリメイク元と異なる個性が出そうなのでその部分を意識したい。特に演技についてはウィリアムズの言動が実際予告編の印象通りか、勘治とは異なる演技ならばそれにより印象がどれだけ変わるか注目したい。

・音楽

 とにかく ◆『生きる(1952)』感想 でも書いた二曲が使われるか、もし使われない場合は代わりにどのような曲や表現が使われるかに注目。

 特に "ゴンドラの唄" はリメイク元ではラストの重要な部分で歌われているが、海外での知名度が高い曲とは思えないのでどうするかかなり気になる。予告編を見てもリメイク元で歌われていたと思われる場面では口ずさんでいるようには見えないので表現方法はかなり変わるかもしれない。

◆映画関連URL

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