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『マイスモールランド』感想

《映画の内容》

公開 2022年
配給 バンダイナムコアーツ
監督 川和田恵真
制作国 日本
主な俳優 嵐莉菜、奥平大兼、アラシ・カーフィザデー、
     リリ・カーフィザデー、リオン・カーフィザデー

 日本の難民管理を中心に様々な社会問題を落とし込んだ一方で、同時に生きづらい世界を懸命に生き抜く高校生の視点で描いた青春ストーリー。
正式招待:第72回ベルリン国際映画祭 ジェネレーション部門
※タイトル上の画像と《映画の内容》は公式HPから引用 2022.7.4.月 21:20

《あらすじ》

 クルド人の高校生サーリャは埼玉県川口市に難民として家族で生活している。彼女は教師になることを夢見ながら、同級生の女子やバイト先の男子高校生 聡太と一緒に日本人のコミュニティで日常を過ごす。その一方で父・アズマルのクルド人的価値観に対する違和感や周りのクルド人の世話に対する鬱陶しさを持っていた。そんなある日家族の難民申請が不認可となり、生活において様々な面で大きな障害を生むことになる。生きるために法を破りつつなんとか生活するサーリャ達だったが、追い打ちをかける形で父・マズルムが入管の施設に収容されることになる……。

《全体の感想》

 思春期という複雑な時期を取り扱った話だからこそ、実生活に複雑な社会事情が結びついて切実な問題として伝わってくる。作品のテーマとストーリーがお互いにちゃんと理由あってそれが生かされている欠点が見当たらない作品。多数ある現代の社会事情や現象を繋げ合わせることで、「欠点がないが新鮮さに欠ける」ということもない内容になっていた。感覚的には2時間近くの映画と思えないほどあっという間だった。

《ストーリーに対する感想》

 要所の台詞でも何度か使われているが「しょうがない」と流される社会の不条理な常識がこの映画では何度も出てくる。個人的にその不条理に対する感情移入や共感が非常にしやすく、映画の世界に引き込まれるものとなっていた。その理由を以下のように考える。

 1つ目として不条理が特定の民族や思想の人間に向くものではないこと。例えばこの映画で取り扱われる不条理は行政の難民管理や社会の外国人の扱いに留まらない。貧困に対する悪意のない無理解から、クルド人側が自分の子供に伝統的価値観まであらゆる人間や文化に対して向いている。日本人とクルド人の2つ気持ちを持ち、高校生でありながら家庭を支えるサーリャという人物を活かした不条理の表し方だと感じた。

 2つ目に悪意を表面化した存在を基本的に出さなかったこと。この映画に出てくる不条理を押し付ける人のほとんどは悪人ではなく、むしろ親切心で励ましの声をかける人や直接的な援助をする人なども非常に多い。しかしながら諦めや無理解による軽率な発言によって、結果的にサーリャの心に負担を与える結果となっている。加害性を持っていないこそ普段の自分たちにも思い当たるものとなっており、物語の中の不条理を他人事で片付けさせないようにしていると感じた。 

 題材から話の流れまで全体的に重苦しい内容と雰囲気になっているが、勇気と勇気を持つことに対する希望を与える内容となっている。最後も本人にとっては良い終わり方とはなってないが、爽やかさを感じさせる終わり方となっている。

《もう一人の主人公、崎山聡太について》

 聡太はサーニャが難民申請処分を理由に解雇されるまで、同じコンビニでアルバイトをしていた男子高校生である。彼はサーリャと並んで主人公として登場しているが非常に適した人物だったと感じる。

 彼は美大志望という世間的に珍しい進路を希望して、スプレーアートという美術としても目新しいものを愛している。その一方でサーリャは家の外では日本社会に流されつつ、家ではクルド人としてのアイデンティティを求められている。

 この2人を比較すると、サーリャが前述した「不条理な常識に捕らわれた人物」であるのに対して聡太は「不条理な常識を打ち破る存在」となっている。これにより、社会問題を創作に上手に落とし込んで話を円滑に進める事ができていたと考える。

《その他新しい発見》

 クルド人という民族はたまに聞くが実際のところよく知らなかったので、ルーツや文化から日本社会でどのようなコミュニティを形成しているか知ることができたのは良かった。難民管理についてもウィシュマさんの件などで問題になっていることは知っていたが、そもそも難民がどのような過程で入管に入るのかとその問題点が大まかな部分ながら理解できたのは良かった。

 その他パパ活についても社会側の問題として取り扱われるのに疑問を感じていたが、筋道を立ててなぜ問題があるのかわかりやすいストーリーが含まれていたのは男性の自分にとって新しい発見だった。

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