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「裸になった兄」 ―中嶋條治さん―

【感想を送って下さった方】中嶋條治さん

写真家として活動しておられる。



「家族を撮る」と言うのは、簡単そうに思えてなかなか難しい。私的なホームビデオや、我が子の運動会やお遊戯会ならばまだしも、セルフドキュメンタリー映画と言う形になると、
「これは映画なのか、ホームビデオなのか、どっちなんだ」
と、プロデューサーからお叱りを受ける場合もある。
映画制作専攻だった私の卒業制作が正にそれだった。私自身、撮る物事が定まらず作ったものだから、結果ペラペラな作品になってしまった。


この映画『僕とオトウト』も、(私のような意思薄弱さは無いにしても)そうした危険性を孕んでいたのではないかと思う。
本作は監督を務める髙木佑透氏が、重度の知的障がいを抱える弟の壮真氏にカメラを向けたセルフドキュメンタリー作品である。
壮真氏は18歳になり、養護学校を卒業しようとしている。体が大きくなり、力もついてきた。今までは御母堂が押さえつける事ができたとしても、これからは厳しくなる。今後両親が他界したら、監督の佑透氏が壮真氏の面倒を見ていかなければならない。そうなる前に、もう少し弟について知っておきたい、理解しておきたいという目的で、髙木監督は「オトウト」にキャメラを向けたのである。


前半のあたりは、悪い意味で映像が「緩い」。
また、機材のせいなのか音声に難がある。キャメラから少し遠い距離で撮影されたシーンは、音声が耳障りになり、ストレスすら感じるほどだった。
だが、そんな中でも、監督がiPhoneで鏡に写る自分達を撮影する画が出た時は「新しいなぁ」と感心した。SNSであれば、筋トレ女子が鏡に写る自分の肢体をスマホで自撮りした投稿をよく見るが、「映画」のスクリーンでは今まであまり目にしてこなかった画である。
しかも何の映像を撮っているのかと言えば、兄弟仲良く歯を磨いてる風景だ。2人の関係性がよく分かり、見ていて微笑ましくなる。

「親は最高の映画監督であり、カメラマンである」
これは私の恩師・成田裕介監督に言われた言葉だ。お父さん・お母さんは我が子を愛してやまないので、運動会やお遊戯会のビデオなどを見ても親の愛情がヒシヒシと伝わって来る。プロには撮れない映像なのだと言う。また撮られる子供の方だって、大抵は親が好きだろうから、撮られている時の表情が素晴らしい。


この歯磨きの場面も正にそうだ。「兄弟」と言う関係で撮影されているからこその温かみに溢れた映像になっている。
しかし、成田監督はそのあとにこう続けている。
「その代わり、そうした映像は、他人には興味が持たれない場合が多い。よその家のホームビデオほど退屈なものはないからだ。我々プロは、他人を楽しませる映像を撮れるようにならなければならない」
そう、まだここまでは、『僕とオトウト』は劇場公開映画として弱い気がしていた。


そんな中、とある場面で非常にデリケートな画が出てきた。家族が、特に母親が仮に気付いていても決して口にしてはいけない行為を、画に映してしまっているのだ。しかもそれについて母親と会話している!
「劇場公開映画として弱い」だの、私の抱いていた生意気な感想は見事に粉砕させられた。
髙木監督の覚悟が伝わり、「ちょっとこの映画はタダもんじゃねえぞ」と襟を正さずにいられなかった。
それでも全体としてはまだ緩い雰囲気が進む中、映画の流れが中盤でガラリと変わる。

髙木家では、壮真氏の行動が昔から余りに危なっかしいので、全ての部屋に鍵が付いている。
何しろ商業施設の防火用のボタンがあれば押してしまうくらいだ。
だが、監督はそのようにして弟の壮真氏を押さえつけていたら分かり合えないと思い、
「壮真の好きにさせてやろう。そうすれば、壮真が何をしたいのかもう少しわかるかもしれない」
と思い立ち、鍵も全て開け、好きにさせてあげてみた。


結果、弟が何をしたいのかがわかったので、「よし、これはいけそうだ」と本作プロデューサーの池谷氏の元へ報告に行く。
すると、そこで池谷氏からダメ出しを喰らう
観客は「この後どうなるんだろう…」と思わずにいられない。

ここで遂に、映画が転がり始めたなと思った。
その後に出てきた監督の独白ショットには息を呑んだ。部屋は真っ暗であり、ライトのせいか、顔に幾つもの影が浮かび上がり、今までとは全く違う雰囲気が出てくる。
しかも、間を置かずに弟がとある事件を起こしてしまう。


緩み切っていた糸がピンと張り詰められたような感覚。「ドキュメンタリー映画」に化けた瞬間だった。
監督の動揺、苦しみ、寂しさが、これ以降どんどん画面から溢れ出てきた。


本作のコピーには
「カメラを持った。見えてきたのは自分だった」
という文言がある。まさにそうだ。本編で様々な映像が出てくるが、積み重なっていくのは弟・壮真氏への理解というより、それ以上に監督自身の悩み、やり場のない悲しみや怒りである。

そんな監督を優しく抱きしめてくれたのは、母でもなく、父でもなく、監督が今まで散々「理解しよう」「何でも好きにさせてあげよう」と思い、何度も抱きしめてきた他ならぬ「オトウト」壮真氏だった。
兄が弟の事を考えているように、弟も兄の事を考え、心配しているのである。


兄弟とはいえ、全ての気持ちが通じ合っているわけではない。
だからこそ監督は、映画のクライマックスで「オトウト」と腹を割って対話する。そして壮真氏の事を「わかってしまわない」ように向き合っていこうと思い立つ。


親というもの、兄や姉というものは、自分の子供や弟・妹についてわかったような気になってしまうものである。だが、それは単なる思い上がりであり、実際は見てないところでしっかり成長をしている。監督の弟に対する向き合い方の決意は素晴らしい。


この映画で描かれた兄弟の対話、「お互いを分かってしまわないようにしつつも、しっかりと向き合う行為」は非常に普遍的なもので、多くの家庭ではこうした対話や向き合いが中々できていないのではないかと思っている。
もしこの映画を見たお客様に、自分の家族への向き合い方を考えるきっかけを与えることができたら、とても素晴らしい事だ。その可能性は非常に高い。それだけの力が本作にはあると確信している。

他人には逆立ちしても撮れない、髙木佑透監督だからこそ作ることができた唯一無二の映画。それが『僕とオトウト』だと思います。

ぜひ、劇場でご覧ください。


(編集担当:Linda)
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【上映委員 タレコミ】
荒木君は近々メガネを卒業するみたい

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【劇場公開情報】2021年10月18日現在
各回上映後、監督&日替わりゲストによる舞台挨拶を予定しております。お楽しみに!(ゲスト情報は公式twitter公式facebookで発信しております!)

京都 @京都みなみ会館
10/22(金) 19:00~
10/23(土) 15:30~
10/24(日) 15:10~
10/25(月)-10/28(木) 19:00~
※10/29以降も上映予定です(終了日は未定)!
https://kyoto-minamikaikan.jp/movie/12338/

神戸 @元町映画館
10/30(土)-11/5(金) 12:30~
https://www.motoei.com/post_schedule/ ※随時更新

大阪 @シネ・ヌーヴォ
11/6(土)-11/12(金) 13:45~
http://www.cinenouveau.com/sakuhin/bokutootouto.html


「僕とオトウト」公式サイト https://boku-to-otouto.com
お問い合わせ bokutootouto@gmail.com

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