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一万本目の竹燈籠【最初で最後の小説】

⚠️注意⚠️4500字あります!!!長いです!!!

『和尚が死んだ』

突然深夜に舞い込んだ携帯のSMSのメッセージに驚いて飛び起きる。

何い!?
和尚が死んだだと!?

いや、和尚が死んだことに驚いた訳じゃない。近ごろは耄碌もうろくして経も碌にあげられないと風の噂で聞いていた。そろそろくたばる頃だろうと覚悟はしていた。

驚いたのは差出人が兄だったからだ。
兄とはもうかれこれ十数年疎遠だ。

一体どういうつもりだ?
俺をあの家から追い出したのは兄さんだ。
五年前、毬子おばさんが死んだ時も連絡のひとつさえ寄越さなかったくせに。
後から知った俺が慌てて駆けつけたときも、あいつは門扉に鍵を掛けて決して開けやしなかったのに…

元々、水と油だった。
真面目すぎる兄と、破天荒すぎる弟だ。

俺たちは早くに両親を亡くし、身寄りがなかったため、父が懇意にしていた観海寺の和尚夫婦に引き取られた。
あっけらかんとして楽天的な和尚と彼の奥さんである優しい毬子おばさん。両親は無くとも愛情に恵まれて育ってきた。

しかし、兄とは喧嘩が絶えなかった。
兄はストイックな努力家だ。礼義作法にうるさく、何事もきちんとしていないと気が済まなかった。成績も優秀で、書、絵、文学、スポーツ等あらゆる方面の才能もあった。経文の練習も日々欠かさなかった。

一方の俺は適当人間。傍若無人で自由奔放。道楽に呆け、いつも好き勝手に振る舞っては、自分を省みることも一切なかった。ところがそんな俺の方が、兄よりもっと優秀だったのだ。成績は学校どころか町で一番。書も絵も文学も兄よりずっと上手かった。スポーツなんか何をやってもエース級だ。そのうえ腕っ節も強かった。ちまたで俺は「怪物」と呼ばれていた。兄はそんな俺を疎ましく思っていたのだろう。

『お前とは根本的に合わない!出来ることなら関わりたくない』
そんなことも何度か言われたっけ。

兄には夢があった。
僧侶となり和尚の跡を継ぎ、観海寺を大きくすることだ。その秘めたる熱意は凄まじく、日々の努力は目をみはるものがあった。

俺は別に僧侶になりたかったわけじゃない。大した努力をしたわけでもない。
ただ、兄よりも俺の方が経をあげるのがずっとうまかった。コミュニケーション能力も遥かに上だった。あらゆるジャンルに精通し、話術にも長けていた。

結局
和尚は、寺の後継者に俺を選んだ。
正式な儀式や言葉があったわけではない。
酒に酔った和尚がぽろっと零しただけだ。
俺に後を継いで欲しい、それを願っているんだ、と。
その日、兄は和尚の前では何も言わなかった。
でも、隠れて兄が泣いていたのを俺は知っている。

あの日ー
『俺じゃなくて兄さんが継げばいい』
と言っていれば、何か変わっていたのだろうかー。

きっかけは猫だった。
町外れの古い停車場の隅で、雨に濡れていた野良猫。普通だったら見捨てるはずその猫を何故か俺は連れ帰ってしまったのだ。

うちの宗派では猫も含め動物を境内に入れるのはご法度だ。神聖な場所である境内を穢すということらしい。
それにもかかわらず、伽藍へ猫を連れ込んだもんだから大変だった。
戒律に厳しい兄が怒り狂ったのなんの。
『お前なんか出て行け!』と怒鳴りつけ、なんとか取りなそうとする和尚を遮って
終いには、俺が出ていかないのなら自分が寺を出て行くと啖呵を切る始末。

俺もむきになっていた。猫を連れてそのまま家を出た。
和尚も毬子さんも町の誰も
それきり、
一切会っていない。

絶縁なんて、こんなに簡単に出来るんだと思った。



俺は携帯を閉じると枕元に放った。
にゃおうと、今夜に限って飼い猫のタマがうるさい。

バサッとタマが古びたラックの上に登る。タマはしばらくガサゴソしていたが、不意に
ぽとり、と音がして何か転がり落ちてきた。

竹燈籠だ。

俺は後生大事にこんなものまでとっていたのか!

観海寺の本堂のそばで毎年冬になると飾られていた竹燈籠。確か当時、三百本ほどあっただろうか。灯籠に火を灯すのは、兄と俺の役目だった。和尚は、この竹燈籠をいつか一万本にしたいと口癖のように言っていた。一万本なんて、誰が火をつけるんだよ、馬鹿馬鹿しい!と言って兄も俺も相手にしなかったが、和尚はこの竹燈籠にえらく執着していた。

俺が出て行ってしばらくしてから、なんのつもりか和尚が送ってきたのがこの一本の竹燈籠だ。こんなもん寄越すくらいなら、金でも寄越してくれりゃあ良かったんだ。ふうっと深いため息が漏れる。

和尚が死んだ?
関係ない話だ。

俺は転がってきた竹燈籠をゴミ箱に放り投げると、布団を被った。薄れる意識の奥で、にゃおうというタマの哀しげな声を感じながらそのまま深い眠りについた。


翌朝。
朝一で俺は始発の特急に飛び乗った。

我ながら馬鹿だと思う。なんで乗ったのか自分でもよくわからない。


十数年ぶりの故郷はずいぶんと様変わりしていた。
昔あった近所の商店街は潰れ、小綺麗なショップがいくつも立ち並んでいる。

驚いたのは、商店街の通りの両サイドに等間隔で竹燈籠が設置してあることだった。
昨日捨てた古くさいあの竹燈籠とは全然違う。もっとハイカラで綺麗な竹燈籠だ。

訝しげに辺りを見回してみると、とある店先に貼ってある一枚の広告が目に留まった。

『冬の風物詩!観海寺竹燈籠祭』

広告の文字に目が丸くなる。
観海寺竹燈籠祭だと!?観海寺!??祭!?

数百メートル先の観海寺まで足を早める。寺に近づくにつれ、道脇に設置された竹燈籠の間隔がだんだんと狭まっていき、数も増えていく。辿り着いた門前は一層華々しかった。その数ざっと百本以上はあるだろうか。続く境内にも竹燈籠が密に並ぶ道が延々と連なっている。

吸い込まれるように、俺は門をくぐった。竹燈籠の道は奥の本堂まで続き、本堂右側にそびえる急勾配の自然石の石段がまさに圧巻だった。うねる石段の道筋に沿って最下段から最上段までびっしりと竹燈籠が敷き詰められている。さらに石段を登りきった最上部に十六羅漢が堂々と居並び、中央には直径三メートルほどのひときわ大きな竹燈籠が一本あしらわれていた。もちろん、他の燈籠とは違い素材は本物の竹ではなさそうだ。しかし、中には巨大な燭台が入っている。

この燈籠にも火が灯るのか!?

こんなに大きな燭台を見たのは初めてだった。俺は息を呑んで暫しその場に佇んだ。

『おうい、帰ったか』

ふと隣の本堂から声がして、ハッと振り向く。
縁側には誰も居ない。無風なのに何故か蔀戸しとみどがカタカタと揺れている。

和尚だ!
和尚があの奥に居て、俺を呼んでいる!


再会は呆気なかった。
本堂の奥、内陣の中央に和尚は横たわっていた。
生前のまま頬をピンク色に染め、柔和な表情でまるで生けるが如く眠っている。

ああ良かった。この死に顔だ。
中有に迷うこともないだろう。極楽へ救われたんだ。

不思議と悲しくはない。
俺はそうっと和尚の顔に布を被せると、両手を合わせた。

どれくらいそうしていただろうか。
十数年ぶりに会う兄が漸く口を開く。

「九九九九本」

「は?」

「町内会の人たちが、用意してくれた竹燈籠だ。今晩、点火される」

「今晩!?」

「今晩が竹燈籠祭だからだ」

「和尚が死んでるのに?」

「今日は仮通夜。明日が本通夜だ。問題はない」

「忌中にイベントを?」

「関係ないさ」

俺は目を見開いた。おおよそしきたりに厳しい兄の言葉とは思えなかった。
そんな俺の腹を見透かすかのように兄は続けた。

「一本だけ俺が準備した竹燈籠があるんだ。特別でかいヤツが。見たか?」

「ーああ。十六羅漢の前にあった」

「それだ。お前、その竹灯籠、俺と一緒に点火してくれないか?」

兄の言わんとすることはわかった。九九九九本と一本で、一万本だ。和尚がかつて夢に見た一万本の竹燈籠だ。それを兄と俺が点火する。横たわっている和尚のかたわらで。それがどういう意味かよくわかっていた。

しばし、沈黙が流れる。

「点火式は二十時だ。最後の一本だけそのときに点火する。それが祭りの開始の合図になる。別に嫌なら来なくてもいい。その時は俺一人でやる」

淡々と兄は告げると立ち上がる。そしてそのまま部屋を後にした。

正直今更だろうと思う。
直ぐに断ったって良かった。いや、断るつもりだった。でも何故か断れなかった。
それは兄が変わっていたからかなのか。それとも俺が変わっていたからなのか。
ただ雰囲気に呑まれただけなのかー。


いつの間にか日が落ちて、あたりは暗くなり始めていた。
徐々に騒がしくなってきた境内を覗き込むと、昼間見た竹燈籠の道に火が灯っている。例の町内会の人たちとやらが、点火したのだろう。暗闇の中に浮かび上がる竹燈籠の火の道は幻想的でこの世のものとは思えなかった。

そろそろ時間になる。

俺は縁側から境内に降りると竹燈籠の道を歩いた。すでに参道にはたくさんの人だかりができていた。人の波をすり抜け掻き分け、漸く十六羅漢の前に辿り着く。そのたった数十メートルがずいぶん遠く感じた。

羅漢像前の石段の竹燈籠の居並びはまさに荘厳清雅だ。


燈籠の切り模様。

灯火の赤。

焔のゆらめき。

幽玄のきらめき。

その全てを感じながら、一歩一歩踏みしめて石段を上る。


大竹燈籠の横に兄は立っていた。
まっすぐと竹燈籠を見つめたまま、横顔の兄が手にしていた松明たいまつをひとつ俺に差し出した。
その松明たいまつを受け取ると俺は兄と一緒に燭台にかざす。


兄は何も言わなかった。
別に優しい顔をした訳ではない。微笑んだ訳でもない。
真顔のままだった。
だけど、その横顔が温かかった。

兄さん。
ああ、兄さん!

俺はずっとその温もりを求めていたのかもしれない。

ぼおおおうっという大きな炎があがり
一万本目の竹燈篭へ、灯りが点った。

直後、パッとライトアップされたかのように背後の観海寺が淡く
美しく浮き上がる。

瞬間
ぶわっと俺の双眸から涙が溢れ出す。

同時に観客が観海寺の美しさに色めきだちうわっと歓声をあげる。
噛み殺した嗚咽が群衆の熱気の渦に呑み込まれて消えてゆく。

時刻二十時。

観海寺の竹燈籠祭が今ここに幕を開けたー。


あとがき🙄

みなさん
お読みいただき本当にありがとうございます。

私は小説初心者です🔰
こちらの紫乃さんの記事を読み
冬ピリカグランプリなるものがあることを知って
応募したいと思い
初ショートショートに挑戦しました✨☺️

ええ!
その通りです。
私には
ショートショートを書くのは無理でした😱
才能が無いです😅

4500文字超!
おおおお😱😱😱😱😱😱😱

どうしても長い文章しか書けません!
短い文章は私には無理です😭😭
そして
このお話を推敲して
短くする気力もない😅

ピリカグランプリへの応募は諦めました😭

でもせっかく書いたので
ここに捨て置きます…

初めて書いたので
地の文とか
文体とか時制とかめちゃくちゃと思います😅
カギカッコの使い方も変かもしれません😅

感想いただけるだけで
満足です✨
また、今後の創作の参考にしますので
鋭いご批評等も頂けますと喜びます💗
小説はもう書きませんが(笑)

ちなみに私は無理でしたが
ショートショート小説投稿
文字数にお悩みの方は
こちらの
はねのあきさんが書かれた記事は大変役に立ちます☺️


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#捨て置く
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#もう小説は書かない

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