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人工的キンモクセイ

ふと鼻をくすぐる金木犀の匂いは誰のものでもあってはいけない。自然に咲いた金木犀の匂いでそれぞれが記憶を巡らせて、毎年一瞬しかない季節を感じる。私はあの匂いを嗅ぐといつも必ず若干の寂しさと灰色を感じる。香水ならトップノートが寂しさ、ミドルノートが灰色の寒空、ラストノートでやっと秋のワクワクが来る。ラストにたどり着くまで香水ほど時間かかる訳じゃなくてほんの数秒だけど。うまく香水に繋げられた気がするからここからが本題で、金木犀の甘い独特な香りの「エモさ」を売りにして、様々なブランドからキンモクセイの香水が売られている。有名ブランドからプチプラまで、店頭でふわっと香るキンモクセイは期待通りに優しくて甘くて、人気も頷ける。雑貨屋さんでキンモクセイが香ればそろそろ秋だってくらい今やいろんな場所で売られているし、当たり前のようにデパートなどの屋内でもキンモクセイの香りがする。だけど本当に厄介なことに、私はヒトから香るキンモクセイの香りが好きじゃない。もちろん良い匂いに違いないけど、あれは街中で、ふっと予想だにしないタイミングで嗅ぐのが良いんであって、誰かから香ってしまったら、それはチャームと化したその人だけのキンモクセイになってしまっているから。咲いている金木犀の前をたくさんの人が通ったとき、それぞれがそれぞれの記憶と感情に浸るからいいんでしょ。キンモクセイを体に振りかけるなんて野暮なことはしないで、毎日毎時間嗅いでいたら心のずーっと奥にある大切なものが薄れちゃうよと言いたい。
本当に余計なお世話だと思う。おわり

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