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【詩】船と年輪

「何かを捨ててきてしまった僕ら」


***


僕らは年輪みたいに
毎日少しずつ大きくなっていくものじゃなくて
多分 川を下る舟みたいな存在なんだろう
誰もが同じスピードで流されていくしかなくて
いろいろなものを拾いながら、
いろいろなものをどこかに落としてきてしまったんだ
でも それに気がつくことができなくて
僕らは
昨日持っていたものに今日拾ったものを加えて
そうやってまた少し大人になったのだと思っている
年輪みたいに、
足し算だけでここまで来たのだと信じている

あんなに大切だったものを捨ててきたのに
あんなに悲しかったことを忘れてしまったのに

でも多分
僕らは解っていたんだろう
そうしないと重くなった僕らの舟が
きっと沈んでしまうのを

***

僕らはこれを、成長と呼んでいいのか。
成長と呼んで、誇っていいのか。

僕はいつも思う。もしかしたら昨日の僕の方が、今日の僕よりいろんなものを感じられていたんじゃないか?忘れてしまった僕らが、忘れる前の僕らを笑うことなんてできない。船が沈まないようにと捨ててしまった積み荷を、馬鹿にしてはいけない。そうする他に舟を救う術のなかった僕らが、捨ててしまった積み荷の存在を忘れてしまってはいけない。


最後まで読んでくださりありがとうございます。読んでくださったあなたの夜を掬う、言葉や音楽が、この世界のどこかにありますように。明日に明るい色があることを願います。どうか、良い一日を。