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【自由詩】メタクリル酸メチル

かつて、同じ教室で過ごした頃

想像していたよりもずっと

貴方はよく考え、悩み

誰かを頼って

ひとり生きているようでした。

他人にあげる優しさは、

自分が欲しい温もりの裏返し。

体温を共有しない私は

決して貴方の本音を聞くことはないでしょう。

貴方だって解っている。

だから私に話してくれたのでしょう?

だけど

誰かの温もりを求めてしまうと言う貴方に

私と似た色を見た気がしたのです。

通話の終わり、

他に言いたいことがあれば何でも聞くよと

いつも言うから

その声音に毎度不安になります。

かき集め、両の手で抱えた綿毛を

風に吹かれて飛んでいくままにするみたい。

君の優しさには希望がなくて

真っ暗な質感だけ。

触り心地が良く、見返りも要求しない。

私の影でも見ているようだわ。


あの人じゃなく貴方のことです。

メタクリル酸メチルの中に囚われた

声のない私のように。

通り過ぎる人に気づいてもらえないと

塩水に涙を溶かす透明な水槽の中で

ひとり光を探す貴方を。

体温を共有しない私でも

救い出したかったの。
















***



↓本家様。カンザキイオリ『君の神様になりたい。/初音ミク』

↓カバー。個人的にこの方の声が好きです。


***

メタクリル酸メチルを重合したポリマー(プラスチック)はポリメタクリル酸メチルと言い、透明度が高いため、水族館の水槽(ガラスではなくプラスチックなのです)に使用されているそうです。

高校の化学の教科書にコラムとして載っていたのを覚えています。テストにもほとんど出ないと知っていたけれどメタクリルという不思議な名前を暗記するのが楽しかったのです(「メタンアクリル」を繋げた発音らしいです)。

水槽越しの声が、誰かに届きますように。




最後まで読んでくださりありがとうございます。読んでくださったあなたの夜を掬う、言葉や音楽が、この世界のどこかにありますように。明日に明るい色があることを願います。どうか、良い一日を。