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せめて私は、それを大切にしたいんだ。

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自分が書いた詩や小説等を集めています。
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【短編小説】縫い目

部屋を引き払う準備をしていた。住み慣れた部屋ではあったけれど。 夏は暑く冬は寒さの厳しい、古いアパートの一階、西の角部屋。薄いカーテンの向こう、風を迎え入れる掃き出し窓の先には、庭とも呼べないほどの小さな空間。 荷物をまとめてみると、思ったより少ないのだった。がらんとした部屋に大きなボストンバッグがふたつ。残りのものは捨ててしまった。もともと、これほど長居する予定もない土地だった。 これから生活が変わるというのに大した感慨も実感もない、しんとした自分と少ない荷物。まるで

【自由詩】そんざいしょうめい

手のひらからこぼれ落ちていく 花びらを眺めてた 風が強く吹くもので 目を閉じては 流されていく花びらの その感覚だけを追っていた 風が。やんだ気がして 目を開けて 僕はまばたきを繰り返した ーーここには僕以外、誰もいないのだと思ってたーー 僕より少し背の高い 君をそおっと見上げてみる 目を閉じたままの その眼は見えなかった 何にも喋らず 君はただ微笑んでた 一枚だけ残ってた これは君にあげる 幻でないことを祈って 代わりにそっと 君の両の手をとった。 君はまだ な

【自由詩】メタクリル酸メチル

かつて、同じ教室で過ごした頃 想像していたよりもずっと 貴方はよく考え、悩み 誰かを頼って ひとり生きているようでした。 他人にあげる優しさは、 自分が欲しい温もりの裏返し。 体温を共有しない私は 決して貴方の本音を聞くことはないでしょう。 貴方だって解っている。 だから私に話してくれたのでしょう? だけど 誰かの温もりを求めてしまうと言う貴方に 私と似た色を見た気がしたのです。 通話の終わり、 他に言いたいことがあれば何でも聞くよと いつも言