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「ギリギリ」原田ひ香

私は元彼と友達になれるタイプ。
気持ちが完全に離れてしまって「嫌い」までいくと
友達にはなれないけれど、気持ちが離れたわけでもなく
なんとなく「合わないよね、私たち」という関係になることがあり
そういう人とは友達のままつきあったりしていた。

更に、その彼と学生時代に彼の実家である東北の町に旅行したことがあるのだが彼の実家に寄らせてもらい数日お世話になった。
彼のお母さんと意気投合し、彼と付き合っていた時からつい最近まで年賀状のやり取りをしていた。時には手紙を書いたり美味しいものを送ったり頂いたりもしていたが年賀状自体を縮小するようになり自然消滅した。

そんな元彼のお母さんとの関係をなんと説明したらよいのだろうか。
まあ元彼のお母さん、でいいのだけれど、なぜ今まで(数年前だけど)付き合いが続いたのか、一体どういう関係なのか他人に説明するのは難しかった。

原田ひ香さんの「ギリギリ」は、そんな説明しづらい関係の人のお話。
夫を過労死で亡くした女性、と再婚した男性が主人公。
でその主人公は奥さんの元夫のお母さんと仲良しなのだ。
奥さんの元姑と奥さんの現夫の関係。なんて呼んだらよいのか。
人に説明するときはどうやって説明するのか。
そんな関係の中で、たぶん奥さんはまだ過労死した夫との関係が終結していなかったのか、死別する前から実は終わっていた関係だったけれど
夫の死によってうやむやになったまま、今の夫と出会い再婚する。
なんだか一個一個片づけないままに物事がすすんでしまい
ふと立ち止まったら「一体みんなどういう関係なの?」ととまどってしまう奥さん、そして、その関係を見直すきっかけになったのが
現夫が書くドラマのシナリオの内容だったり
現夫と元姑との関係だったりするのだ。
ああ、書いていてもややこしいわ。読んだらわかります(笑)

最近「パチンコ」という大河ドラマ的なある女性の一代記を読んで「こういう濃い本が読みたかった!!!」と思った。
昔ブロンテの「嵐が丘」を読んだときに「これはなんて濃くて面白いんだろう」と感動した。「濃い!」と感じた理由は、たぶん全てのことについてみっちり書かれているからだったのかもしれない。
人物のことはもちろん、その人が住んでいる家、環境、育った過程
その人の親、今暮らしている風景から漂う香りまでも全てが書かれている。
全ての文字を負うことでその人が見たこと聞いたこと感じたこと
全部わかることができるような、食べ物がどんな味をしているかわかるような、そんな感覚に陥った。
でも、続くとお腹いっぱいになるのだ。味が濃密でどこにも隙がないフランス料理を食べている感じ。
美味しいのだけれど続くと苦しくなる。で、時々ジャンクフードを食べたくなる。そして軽い本を読む、の繰り返し。

申し訳ないけれど最近の日本の女性が書く本はそんな軽い本が多いような気がする。
美味しいんだけれど印象に残らないというか。
そして登場人物に感情移入ができない。

「ギリギリ」の登場人物にも感情移入はできなかった。
過労死で亡くなった夫は愛人もいて、死後その愛人から
「彼について話し合いましょう」と誘われて謎に食事なんぞするのだけれど
心の中で「どうしてここで食事してるのかしら」と思いながらその関係を断ち切れない。今の夫の仕事にも関わってきてちょっと意地悪されたりもする。私なら「は?」で終わるから「そうよねえ、なんか断れないよねえ」とか思えない。
現夫は同窓会で再会した学生時代の同級生。なんとなく自分のマンションに住まわせている内に再婚に至った。
なんとなくマンションに住まわせた、はあるかもしれないけど、再婚って
それなりの手続きを踏まねばできないだろう。市役所に行って用紙もらってきて、書いてはんこ押して市役所に提出をしに行く。保証人とか言う人も「誰にするかな」って一応考えるだろう。何個も「再婚に至るまで」のハードルがあるはずなのだ。前夫が亡くなって気持ちが落ち着かないうちに再婚しまった、というテイだったけれど「んなわけあるか」と思ってしまう。
亡くなった夫の姑とは特に関係も悪くなくなかったけれど3回忌にあたってちょっと意見が食い違う。姑は「うちの息子は本当によくできた息子だった」という人で、そもそも「そんなこと言う奴は信用ならない」と自分の姑と重なるのでそこでもう「この人無理~~~」だったけれど、まあそれは私の個人的事情のせいだからおいておくとしても、その本当によくできた息子に実は愛人がいてその奥さんと食事をしているという話を聞いて「うちの息子に限ってそんなことあり得ない。本当だとしても私は愛し続ける」とか言って3回忌も自分の思うように運ぼうとする。
愛人がいたような夫の3回忌なんてどうでもいいし、姑がやりたいようにやったらいいんじゃない。私はそもそもそれに出ないし、と思った。

ふと寄ったカフェで可もなく不可もない食事をして「あのお店どうだった?」と聞かれたときに「ああ!美味しかったよ。あれ、私なに食べたんだっけ?」というのと同じ読後感だった・・・

悪口ばっかり言ってるけれど、元彼のお母さん元気かな?と
思い出すことができてよかったです。

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