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病院の先生たち

娘が起立性調節障害と思われる症状に悩まされていた頃。
おなかが痛い、吐き気がする、めまいがする、などと訴える娘に
お医者さんに行こうと言うと、当初はそれほどじゃない。といって家を出たがりませんでした。

私自身も、どこへ行っていいのかわかりません。
小児科でも内科でもいいのでしょうけれど、明らかにメンタルから来る症状だと思い、児童精神科でもいいのではないかとか、思春期外来なるものがある病院で、カウンセリングをまず受けたらどうかとか悩んでいました。

ある日気持ち悪い、病院に行きたいと娘が言い出したので、とにかく昔から通っている近所の小児科に行くことにしました。

どうしました。と言われるも、黙る娘。
「朝気持ち悪くてお腹が痛いと言って・・」と私が切り出すと
机に向かっていた先生は手を止め、振り返るやいなや
「学校行けてる?」と真正面から直球を投げてきました。

あ、わかります?

行けていません。と告白すると先生は、いつから?とか症状の質問をして、
娘に向かってものすごく優しい顔で
「無理しないで今は休んで、また行けるようになったら行けばいいから」と言ってくださいました。

結局その日は特に何もなく、お話だけして
「先生、やさしかったね」
と二人で話しながら帰りました。

特になにもしなかったので、肩透かし(何かしらの薬(胃腸薬とか?)が出るかと)ではありましたが、先生が不登校に理解があり、優しいということがわかったので、何かの時にまた娘も行く気になるでしょう。

そのまま娘の症状はあまり出なくなったので、結局他に医者に行くことはありませんでした。

元気になってきた娘はおしゃれにも興味が出て来て、洋服を選んだり
お化粧をしたりするようになりました。

娘は目が悪いのですが、前々から試してみたがっていたコンタクトレンズへの思いがいよいよ強くなってきました。

私はまだ早いと思っていましたが、同級生や、近所のあこがれのお姉さんもコンタクトにしていて、今は中学生からコンタクトレンズが普通なのか…と
少々心配ではありましたが、外出意欲の為に容認することにしました。
娘は怖がりで真面目ですから、きちんとルールを守るでしょう。

私が子供の頃からお世話になっている眼科に行くと、娘はともすると小学生と見まごうばかりの容姿なので、「コンタクトレンズ?」と何回か確認されました。
しばらく待っていると、受付の方が、いくつ?コンタクトレンズを作りたいの?うーん。先生からOKが出れば作れますが・・
とにかく診察を受けてみてください。とだんだん雲行きが怪しくなってきました。

娘の顔も曇ってきます。

さらに待合室ではコンタクトレンズの弊害について、写真とともに恐ろしい記事が載った大きなポスターが嫌でも目に入ります。

一通り検査も終わり、いよいよ診察室に入って先生とご対面です。
先生はやはり、まだ早いんじゃないかと。
視力が出ないとか他の理由があるならともかく、このくらいの近視ならば
少なくとも高校生くらいになってからでいいのでは?
自分にも娘や孫がいるから、おしゃれしたい気持ちもわかるんだけどね。
それに、もちろんそんなことは想定してるかもしれないけど、
ずっとコンタクトレンズを買い続けるにはそれなりにお金もかかる。
ご両親とはよく話したのかな?

先生はすごく優しかったのですが、娘は あぁ、やっぱりコンタクトレンズは作れないんだ・・・とどんどんうつむいていきます。

私は他の眼科医でコンタクトレンズを普通に作っている中学生を何人も知っているので、この眼科でよかったなぁとつくづく思いました。

大きな問題はないかもしれない、注意して使えば、注意できる子ならば問題ないかもしれない。
けれど、子供も親も医者も慎重でなければならないでしょう。

もっともなお話をしてくださる先生に、私はざっくばらんに話しました。

今不登校であること。
ずっと部屋に籠っていたが、最近は回復し、おしゃれに意識が向いてきて、コンタクトレンズをしてみたいと言っていること。
毎日長い時間コンタクトレンズにすることは不安があるけれど、友達に誘われたりしたたまのお出かけなどに、使い捨てのコンタクトレンズが使えると外出のモチベーションもあがるのではないかと思っていること。

すると、先生はぱっと顔をあげて
「そういうことなら、話が違うよ。コンタクトレンズをつかってみようか」

ほとんど下を向いて泣きそうになっていた娘は、戸惑いながらも促されて
コンタクトレンズを試しにつけにいきました。

はじめてのことなので時間がかかったようですが、しばらくして私が行くと
見違えるように元気になった娘が嬉しそうに鏡に向かって自分の顔を見つめていました。

「うちの孫も、ちょっと今そうなんだよねぇ」
「元気に外に出られるといいね」

先生は娘をやさしく見つめていいました。



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