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「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」を浴びてきた話~レヴューのレビュー(前編)~

劇場版スタァライトの自分の中の整理と感想文です。考察には程遠い。

世界的な感染症流行でご無沙汰して以来、久しぶりに映画館に足を運びました。周囲の「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」の評判がよかったからです。アニメに満足した身であれば大迫力のスクリーンで観るべき作品であることは想像に難くありません。そして想像以上の全力パンチで殴られて今に至ります。とんでもない作品でした。

以下、ネタバレが含まれますので何も知らずにスタァライトされたい方は回れ右してポジションゼロして頂ければと思います。

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「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」は「ミュージカル×アニメ」なメディアミックス作品です。女性キャストの多い男性をメインターゲットにした2.5次元舞台としては走りに近いタイトルなのではないでしょうか。話せば長くなるので詳細は割愛しますが、男性をメインターゲットにした2.5次元と女性をメインターゲットにした2.5次元には決定的な違いがひとつ。それは「男性をメインターゲットとする場合、2次元と3次元は中の人を同じにする傾向がかなり強い」ということです。じゃあどちらが本業の人を選ぶのかということで「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」では2次元の経験問わず3次元で動けるキャストが多く起用されているのが特徴です。

2次元から入ってもらうか3次元から入ってもらうかは個々人の好み次第。2次元のスタァライトの勧め方は難しくありません。

「何も言わずに30分だけ私に時間をください」と懇願して無料配信中のアニメの第1話を観てもらうだけ。17分56秒あたりから本作のエッセンスというか文脈というか「あ、こういう感じね」が詰まっていることから、自分に合う合わないを判断可能で、多くを語らずともハマる人は勝手にどハマりしてくれます。大きな括りで言えば「少女革命ウテナ」や「STAR DRIVER 輝きのタクト」あたりが好きな人との親和性が高いのではないでしょうか。

劇中劇ならぬ劇中舞台が見どころで、9人の舞台少女たちが騎士風の装いでそれぞれの武器を持って基本的にはタイマンで戦います。あくまで舞台なので、音楽も流れますし、舞台装置も動きます。舞台装置は舞台少女の想いに呼応して動くという設定で、繰り広げられるスペクタクルなタイマンは舞台少女たちの心と心のぶつかり合いが、詩的に表現されていると言ってもよいでしょう。

アニメは9人による総当たり戦。しかし尺の都合もあって全ての戦いを細かく見せてくれるわけではありません。「愛城華恋を巡った神楽ひかりと露崎まひるの直接対決も観たかったなぁ」「主席の天堂真矢と次席の西條クロディーヌによる頂上決戦も観たかったなぁ」「星見純那と大場ななの喧嘩バトルも観たかったなぁ」などはアニメ試聴後に思い残すところであり、これをまさに叶えてくれたのが「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」でした。

あまりにも情報量が膨大で、1回の観賞ですべてを受け止めることは困難です。考えるより感じろ! 初回は「レヴュー超かっこいい!」と演出の美しさを全身で浴びるくらいが丁度いいのかなと思いました。何を食って生きてきたらこの絵コンテに至るんだよ……。観賞後に他の人の感想を聞いたり読んだりで補完したことでようやく物語のフレームを理解することができました。より正確には理解したような気になりました。そのうえでもう一度観ると、また違った角度で楽しむことができそうです。本項では私の視座で各レヴューをレビューします。理解したような気になっているだけなので解釈違いが含まれているだろうことは承知おきください。

皆殺しのレヴュー:wi(l)d-screen baroque

電車に乗っていると電車が戦場に変形して、大場なな×露崎まひる、星見純那、花柳香子、石動双葉、天堂真矢、西條クロディーヌという1対5のバトルの火蓋が切って落とされました。早々に観賞していない人に正確に文章で伝えることを投げ捨てました。どういう状況だよ。基本タイマンちゃうんか。いきなりの展開に度肝を抜かれます。挿入歌の「wi(l)d-screen baroque」がめちゃくちゃ不穏でカッコいいんですね。まさにボス戦。ゲームで言えばOP早々の強制負けイベント戦でした。

この大場ななの突然の裏切りは何だったのでしょうか。少なくともこの時点で他のメンバーが知らない情報を持っている(と少なくとも彼女自身は思っている)ことが示唆されます。アニメでもそうでした。アニメ第1話の3分51秒あたりで彼女は言います。

全部わかってるわ、私はね。

彼女は他のメンバーの何歩か先を生きています。最高の過去に執着するあまり、レヴューでトップを取り続け、最高の同じ時間を繰り返すという願いを叶え続けてきたことによるものです。アニメでは神楽ひかりの転入というイレギュラーにより繰り返しの輪から外れ、最終的に星見純那との対話により、みんなで最高の未来を目指そうというところに落ち着きました。

列車は必ず次の駅へ、では舞台は?

列車舞台の上で彼女のこの問いに答えられたのは天堂真矢くらい。他のメンバーは答えることができませんでした。脚本家との二足の草鞋を履き、舞台を俯瞰することができる彼女はこのあと引き起こされる舞台少女たちの死=挫折や後悔を予見していたんじゃないかなぁと思います。具体的にはこれより前に語られていたそれぞれの志望校に合格できなかったり合格できても振るわない未来を。アニメでのレヴューが終わったことで仲間同士の本気の切磋琢磨を忘れてすっかり腑抜けてしまった彼女たちを奮い立たせるために彼女なりに考えて準備したレヴューの真似事こそがこの皆殺しのレヴューなのではという解釈をしています。大場ななという舞台少女、優しさとは裏腹にアニメのときから解決のために選択する手段が不器用でwi(l)dなんだよな……。

なんだか強いお酒を飲んだみたい。
なんだか強いお酒を飲んだみたい。
だーかーらーなんだか強いお酒を飲んだみたいって。

キャッチーな台詞なのでバナナフレーバーのコラボドリンクメニュー待ったなし。このシーンが好きです。レヴューである以上、台詞で応答することが求められる中で「何言ってるの未成年だよ」とマジレスしてしまう星見純那。舞台少女としての自覚を喪失していることを端的に表現しています。「お前ら私に最高の過去以上の最高の未来を見せてくれるんじゃなかったのか特にお前だよ星見純那! ただの進学とか正気か???」という私情も混じっているんじゃないでしょうか。このあとやられた舞台少女たちは盛大な出血(舞台演出で味は甘いらしい)をしており、出血量は腑抜け具合に比例していたように思います。腑抜けた舞台少女たちは死にました。

ここから舞台少女たちの再生のためのタイマンのレヴュー、ワイルドスクリーーーンバロックが開演です。「ワイルドスクリーーーンバロック」は「ワイドスクリーンバロック」をモジった造語です。元々はブライアン・オールディスが提唱したサイエンスフィクションの一部の作品群を表す用語で「十億年の宴」には

時間と空間を手玉に取り、気の狂ったスズメバチのようにブンブン飛びまわる。機知に富み、深遠であると同時に軽薄

と記されているそうです(wikiより)。なるほど。ここに野性味を加えたより本能的な闘いこそがワイルドスクリーーーンバロックであると解釈しています。

怨みのレヴュー:わがままハイウェイ

突然始まった丁半博打。花柳香子がツボ振りの役で石動双葉の件について客に問いかける。わかります。西條クロディーヌが客の役で石動双葉の件についてツボ振りに問いかけられる。わかります。石動双葉がデコトラで突撃してくる。わかんねぇよ!

笑ってしまいました。丁半博打が始まったときは、てっきり花柳香子と西條クロディーヌの戦いが見られるんじゃないかと思っていたのに……! 実際は花柳香子と石動双葉による痴話喧嘩でした。この二人はアニメ第6話の約束のレヴューでも取り上げられた対戦カード。関係は共依存だと思っています。この二人は幼馴染であり主従です。花柳香子は日本舞踊の家元に生まれたことで家を継ぐ運命を背負っており、そんな彼女を支えて彼女のわがままに付き合ってきたのが石動双葉でした。片や主役。片や脇役。わがままの象徴のひとつがバイクであり、歩くのがめんどくさいと言う花柳香子のためだけに石動双葉はバイクの免許を取っています。石動双葉の願いは、花柳香子に追いついて彼女の輝く姿をいちばん近くで見守ること。そのために何でも頑張ってきたのに不貞腐れて輝きを失い京都に帰ろうとする花柳香子。彼女に想いをぶつけて再起させたのが約束のレヴューでした。

そんな二人の進路はというと、花柳香子は京都に戻り、石動双葉は演劇の道に進むというもの。「いやいやいやうちに着いてくるんちゃうんか何を勝手に決めてんの?」という恨み節が昭和歌謡に乗せて炸裂するのがこの怨みのレヴューであると解釈しています。花柳香子はアニメで一度再起はしたものの結局トップスタァになることはできませんでした。舞台少女としての実力は花柳香子が辛うじて上に立っているかもしれませんが、成長率としては石動双葉のほうが圧倒的に高く、このままいけば石動双葉が花柳香子を追い抜いてしまうことも十分あるでしょう。自分についてきただけのはずだった石動双葉が。花柳香子自身も何となくそれを察しているようで、石動双葉の進学先の話題にいちゃもんをつけたあとに「自分がいちばんしょーもないわ」と反省するシーンがあります。

怨みのレヴューで出てきた「セクシー本堂」のシーンが好きですね。「大好きなのは酒と女、あと金」とどこかのハム太郎も言っていましたが(言ってない)、いわゆる男の欲望あるあるを身に纏ったホステス香子がマウントをとる形で石動双葉に詰め寄ります。石動双葉の反論を「うっといわ」「しょーもな」と切り捨てるところがめっちゃ好き。「お前のためとか言いながら結局は自分のためちゃうんか」ということでしょうか。「おもて出ろや」は刺さる人にはめちゃくちゃ刺さりそうです。私は刺さった。

花柳香子はこのレヴューを通して石動双葉に着いてきてほしかったというよりはちゃんと説明してケジメをつけてほしかったんじゃないのかなと思います。最終的には清水寺から心中するような形で落下し、桜の花びらにダイブ。石動双葉が花柳香子に物理的にマウントをとる形となり、石動双葉がようやく本音をぶつけます。象徴的なのはバイクのキーを花柳香子に渡すところで、これは端的に主従関係の解消を意味しています。花柳香子は不満をこぼしていましたが、エンドロールを見る限り、ちゃんとバイクの免許を取ったみたいです。二人乗りもいいけど二人でハイウェイでツーリングしてくれてもいいのよ。

これまで花柳香子のわがままに付き合ってきた石動双葉のわがままを通すことで共依存を納得のいく形で解消し、それぞれの道を歩むためのレヴューでした。花柳香子、自分の定めに関してはわがままを通せず、自分の望む舞台に生きることを許されないので、そういう点では誰よりも哀れな籠の中の舞台少女だよなぁと思っています。

競演のレヴュー:MEDAL SUZDAL PANIC◎〇●

露崎まひるはアニメ序盤で私の中で最もヤベェ奴でした。

元に戻ってよ、
神楽さんが来る前の華恋ちゃんに。
お寝坊してよ! 遅刻してよ!!
また私にお世話焼かせてよ!!

これは露崎まひるの代名詞的な台詞です。アニメではW主人公である神楽ひかりと愛城華恋を巡って三角関係となった負けヒロインポジションでした。てっきり神楽ひかりに「返して」とぶつかるかと思っていたら愛城華恋に「捨てないで」とぶつかる形の第5話の嫉妬のレヴュー。その中での台詞になります。先の石動双葉は花柳香子という籠の中から出ようとしているわかりやすい構図である一方で、露崎まひるは愛城華恋の鍵のかかっていない籠の中に自ら閉じ込められることを望んでいます。依存させてよという願望。歪んでる……神楽ひかりに直接ぶつかるほうがまだ理解できる……。

というわけで、神楽ひかりに直接ぶつかるのがこの競演のレヴューになります。結果論にはなりますが、彼女が舞台少女として生きていくためには、愛城華恋とぶつかって舞台少女としての自覚を取り戻したのちに神楽ひかりとぶつかるのが正解でした。アニメで先に神楽ひかりとぶつかっていたら単に潰れて終わっていたでしょう。

競演のレヴューは曲名に「MEDAL」が入っていることからも五輪を意識していると思われ、2021年7月23日、つまり五輪の開会式の日に劇場版を初めて見た私にはタイムリーでした。戦闘カットにちょいちょい競技カットの挟まる演出が絵的に面白かったです。嫉妬のレヴューも野球をイメージしたコミカルな内容だったのでスポーツに絡めるのが露崎まひるのお約束なのかもしれません。露崎まひるがわりとあっさり神楽ひかりの肩掛けを落としてレヴュー閉幕……では済みませんでした。ここで1点押さえておきたいのは、あくまでレヴューの真似事であって、アニメで行われていたオーディション的な意味はないため、肩掛けを落としても勝負は終わらないということです。本人たちがそれぞれの道に覚悟を決めて初めてレヴューは閉幕します。

競演のレヴューはここからが本番です。肩掛けを落とした神楽ひかりを露崎まひるは舞台裏まで追いかけます。

私本当は大嫌いだったあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたが……

こえええええええええ! BGMもいい仕事をしてめちゃくちゃホラーでした。競技場の演出がコミカルだっただけにその落差がすごい。そもそも劇場版で神楽ひかりは何をしていたのかと言うと、ワケあって愛城華恋から逃避して学校を自主退学、単身ロンドンに渡っていました。自分から愛城華恋を奪った彼女のこの体たらく。そりゃ追い詰め問い詰めたくもなるというものです。愛城華恋からも私からも逃げるのか、と。

露崎まひるの真意は神楽ひかりに対する愛憎……ではなく応援でした。ホラーシーンも本音ではなく演技。劇場版で愛城華恋は何をしていたのかと言うと、ワケあって魂ここに在らずという状態になっていました。愛城華恋を再起させられるのは私ではなく神楽ひかりであると露崎まひる自身が理解しています。そして愛城華恋を再起させるためには、神楽ひかりを再起させることが必要である、と。神楽ひかりの舞台少女であり続けることに対する恐怖を引き出し、共感し、背中を押すところに露崎まひるの成長を感じました。成長と言えば、皆殺しのレヴューで殺されているということは露崎まひるにもまた舞台少女としての不透明な未来があったはずです。「私も怖かった」や「演技はまだまだ」という発言から、役者としての能力に不安があり、このレヴューを通して神楽ひかりを怯えさせ泣かせることができて、いくらか自信がついたのかなと思います。

金メダルを模した肩掛けの留め具を神楽ひかりの首に掛け、ゴールテープに向かって、愛城華恋に向かって送り出したところでレヴュー閉幕。ここのBGM、アニメ11話で神楽ひかりに向かう愛城華恋を送り出す際に用いられたBGMのアレンジなんですよね。本当によくできている……。

ところで「演技はまだまだ」ということは、ホラーシーンにいくらか本音が漏れ出ていたのでしょうか。もっと強烈なホラーシーンに仕上げる余地が残っているのでしょうか。いずれにしてもこえええええええええ! 成長はしましたが相変わらず敵には回したくない舞台少女です。

全部書いたら10000字越えそうなのとそれはさておきまだ終わりが見えていないので一旦ここで切らせていただきます。後編へ続く。

後編はこちらです。

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