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アニメ「ラブライブ!スーパースター!!」~平安名すみれに足りないものは~

第10話「チェケラッ!!」の感想です。以下、第10話までのネタバレと過去のラブライブシリーズのネタバレを含みますので、自分の目で確かめたい方は回れ右していただければと思います。

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まず「チェケラッ!!」というサブタイトルを見て何を思ったでしょうか。あぁ、第6話でなぜか拾われなかった第2話の嵐千砂都のラップ要素が回収されるのか。HIPHOPに身を包んだギャグ回なのか。そう思ったのは私だけではないと信じています。

よくもだましたアアアア!

どれほどの人が濃厚な平安名すみれと唐可可の絡み回だと予想できていたのでしょうか。全然これっぽっちもそんなこと思っていなかったので、身構えていても死んでいたかもしれない大技を無防備に食らってオーバーキルです。私のライフはもうゼロよ。相変わらずツッコミどころが散りばめられていますが、第8話よろしく気がつけば涙している私がいました。

第4話のすみれ加入回もいい話でした。スクールアイドルならセンターになれるかもしれないと安直に入部を希望するもセンター投票で澁谷かのんに惨敗。スクールアイドル話に入部することを辞めようとするも何やかんやあって、スカウトに扮したかのんが雨の中ですみれをメンバーに誘います。

センターが欲しかったら奪いに来てよ。

殺し文句がカッコいい。

いい話ではあったのですが、何か足りなくないですか? それはすみれの加入曲。可可とかのんの結成曲、千砂都の加入曲、葉月恋の加入曲はあるのにすみれだけ曲がなかったのです。もちろん事情はわかります。「すみれがセンターで歌う」というイベントは彼女にとって大きな節目。第4話で早々に叶えてしまうわけにはいきません。まだずっと先。どうせあるだろう2期に持ち越しかなぁと思っていたら突然ぶち込まれたのが第10話でした。

「あの、すみれ」がセンターに立つ物語。

この物語の中で、彼女がセンターに立つためにこれまで足りなかったものが示唆されていたように思います。私が思うにそれは、自らの手でチャンスを掴み取る自信と覚悟です。

「いつも自分が前に出るみたいなことは言うけど、実際に任せようとすると他のメンバーに振る」という旨の発言をかのんがしていました。なるほど。これまでの彼女を振り返ると「ギャラクシー」や「ショービジネス」や独特の言い回しで目立つ存在ではありますが、実は肝心なところでは「待つ」キャラクターでした。先に紹介した第4話もそう。第7話の生徒会選挙もそう。自ら手を挙げはするけれど、最終的には誰かに承認されないと前に進むことができないのです。センターになる機会は伺っているけれど、先の殺し文句に反して自ら奪いにいくことはしていなかったんですね。

彼女の相対的なスペックも明らかとなりました。かのんほど歌は上手くなく、千砂都ほどダンスは上手くなく、恋ほど優雅ではなく、可可ほど華やかではない。どれもそこそこできるけど、どれもいちばんになることはできない。つまりは、良く言えばオールラウンダー。悪く言えば器用貧乏。

器用貧乏が街中を歩いていてもスカウトの目には止まりません。止まったとしてもメインヒロインではないでしょう。だからこそ彼女は、村人であり、主人公の友達であり、木であり、エキストラであり、グソクムシだったのです。「そこを何とか私にメインを」と言うことができれば世界線は変わっていたかもしれません。或いは言って失敗を重ねてきたのかもしれません。とにかくこれまでの積み重ねで誰かの承認なしに自分の気持ちだけで前に立つ自信はすっかりなくなっているようでした。どうせ最後はいつも自分じゃなくなってしまうから。

第10話でついに「待ち」の彼女にセンターに立つチャンスが訪れましたが、神様はそんなに優しくありません。先行配信したすみれセンター楽曲に対するメンバー外からの第三者評価は「センターを変えたほうがいい」という残酷なもの。今回もいつもと同じでセンターに立つ承認を得ることができなかったと言えるでしょう。

そんなの決まっているでしょ。この学校のスクールアイドルなんだからみんなの意見に従うのが当然でしょ。そもそも――

捨て台詞を吐きながら、泣きながら走り去るシーンがあまりにもツラい。心をへし折られてセンターやスクールアイドルを辞めようとするすみれ。大枠の構図はまったく第4話と同じです。

第4話と異なったのは、逃げる彼女を引き止め、対話する役目がかのんではなく可可だったこと。

可可は芯が強くて曲がらない性格です。かのんや千砂都をスクールアイドル部に勧誘するときは断られても諦めず誘い続けていました。葉月恋と対峙していたときは徹底抗戦の構えでした。そして、スクールアイドルを馬鹿にしていたすみれのことは好きではありませんでした。

すみれと可可は第4話以降、何度となく対立しています。一見すると「トムとジェリー」のように仲良くケンカしているように思えますが、料理やラップの手技は認めていても「スクールアイドル」に対する姿勢はまったく受け入れられていなかったのではと思います。

すみれとは正反対に可可は「スクールアイドル」に本気です。本気だから何とか条件をつけて家族を説得して来日していることが示唆されています。可可が日本に残る条件はどうやらラブライブで勝つこと。可可の家族との電話のやりとりをうっかりすみれが聞いてしまうんですね。このことを他のメンバーは知りません。このことを他のメンバーは知りません。大事なことなので2回言いました。犬猿の仲の二人だけで共有される秘密たまんねー! 

そのうえで可可が2人きりの場面で「同情でセンターはやりたくない」「本当はイヤなんでしょ」と喚くすみれにピシャリと言うわけです。

あなたが相応しいと思ったからです。練習を見て、その歌声を聞いて、Liella! のセンターに相応しいと思ったからです。それだけの力があなたにはあると思ったからです。

これ、可可じゃないと成立しないんですよね。他のメンバーだとすみれの主張する同情でセンターに立たせている感を払拭することができません。芯が強くて、すみれが嫌いで、スクールアイドルに誰よりも本気な可可が承認するからこそ、同情ではないことがちゃんと伝わるのです。

だから受け取りなさい。

ここからがまた素晴らしい。可可がすみれのために仕立てたドレス風の衣装を完成させるための最後のパーツ、ティアラを差し出します。これを受け取れば可可から同情ではない承認を受けたことになります。しかし神様はそんなに優しくありません。このティアラが風のイタズラで飛んでしまいます。どんな材質だよ! というツッコミは野暮なのでやめておきましょう。

可可が自分のために作ってくれたティアラが。センターの証であるティアラが。過去のコンテストで自分の元にやってこなかったティアラが。この瞬間にすみれの脳内でどれほどの想いが渦巻いたかは計り知れません。風に乗るティアラを必死に追いかけ、躓き、茂みに飛び込みながら、「届いて……!」と手を伸ばします。擦り傷のひとつやふたつできそうな飛び込み方でしたが、その手にはしっかりとティアラが。不格好で、照れ笑いした表情で「私を誰だと思っているの」といつも通りの強がる台詞。

この場面、「ティアラはそんなに簡単に渡せない」という単純な演出ではないと私は理解しています。可可からティアラを直接受け取るのと、すみれがティアラを追いかけて掴み取るのでは、その意味合いがまったく異なります。前者であればこれまでとあまり変わりません。待つだけの、承認されるだけの器用貧乏のままでした。そうであれば、風に踊るティアラを見送って終わっていたことでしょう。しかしすみれは違いました。可可に言われて気がつきました。腹を括りました。「第三者が何を言おうが、自分の夢のために、そして目の前にいるこの子のためにセンターをやりきらなければいけないのだ」と。傷つきながらも自らの手で掴み取ったティアラは、運命に抗い、重責を背負う覚悟を決めた象徴だと理解しています。ようやく神様からセンターを奪い取ることができたのです。

すみれのスクールアイドルに対する本気、センターに対する執着を見た可可は第10話にして初めて彼女を「すみれ」と呼びます。ここで名前呼びイベント発生です! 言われてみれば! 呼んだことない! 

「初めて名前、呼んだわね」
「そんなことはどうでもいいです」

何人か死んだんじゃないでしょうか。私は死んだ。

自信と覚悟を手に入れたすみれをセンターに、どこかアダルトな新曲「ノンフィクション!!」を披露。紫のドレスに縦ロール。センターを全うして安堵とも充足とも取れる最後の表情が堪りませんでした。歌い終わりにティアラを差し出したので一夜限りのシンデレラのように返却するのかと思いきや……

「ありがとう、可可」

何人か死んだんじゃないでしょうか。私は死んだ。2度死んだ。

この世の中、何かでいちばんになれる人はそんなに多くないので、多くの人がすみれに共感できたのではと思います。やりたいけどやらせてもらえなかったこと、あるんじゃないでしょうか。やりたいけど手を挙げられなかったこと、あるんじゃないでしょうか。やらせてもらえたけどうまくいかなかったこと、あるんじゃないでしょうか。私はあります。手を挙げずに任される仕事ってある意味ラクなんですよね。「いや、みんながやれって言ったから」という逃げ道があるので。だから反省が不十分で同じ過ちを繰り返してしまいます。「私がやりたいです」と手を挙げることは「私が責任を負います」と宣言するも同じこと。それはとても勇気がいることです。それでも手を挙げなければ、自らの手で奪い取らなければ、辿り着けない世界は確かにあって。

第10話はチャンスを掴むための最初の大きな1歩を踏み出そうとする人の背中をそっと押してくれる物語だったように思います。

余談1
「ノンフィクション!!」のMVでは「崩して見せるポーカーフェイス」と歌いながら悪い顔で煽る千砂都をはじめ、各キャラクターの挑発的な表情を見ることができます。きっと披露される1stライブでキャストたちがどこまでいい顔をしてくれるのか。私の楽しみのひとつです。

余談2
地区予選大会の参加校が多すぎるため、課題として楽曲の中にRAPを盛り込むことになったわけですが、RAPを盛り込むことでなぜ地区予選大会が効率化されるのかはよくわかりませんでした。何校か、韻踏めなくて、脱落する??

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