【毎週ショートショートnote】「バイリンガル」「ギョウザ」
山奥で二人の男が迷子になっていました。
寒さに震えながら腹を空かせていると突然現れた中華料理店。
「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」
看板にはこう書かれていました。
「どういうことだろう」
「どうでもいいじゃないか。もう腹ペコで死んでしまいそうだ。中に入ろう」
不思議な店です。誰も出迎えてはくれず、紙に書かれた簡単な指示に従っては次の部屋へと進んでいくシステム。
気がつけば身ぐるみを剥がされ、白くて丸い大きなタオル一枚になっていました。
「湯はこちら。体を完全に包んでお入りください」
「なるほどわかった。飯を食う前に冷えた体を温めて清めろということだな」
一人は嬉々として次の部屋に進み、もう一人は指示を前に立ち止まりました。
「……違う、待つんだ!」
慌てて相棒を止めましたがもう手遅れ。
「嗚呼、何ということだ」
バイリンガルの彼は先に気がついたのです。
「湯」が中国語で「スープ」を意味することを知っていたから。
(410字)
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以下、今回の本文作成に至るまでのアイディアめも。
アイディアの羅列
バイリンガル:2ヶ国語、帰国子女、同音異義語、同形異義語、
ギョウザ:焼き餃子、水餃子、ニラ、包む、冷凍、
アイディアの組み合わせ
注文の多い中華料理店:バイリンガルを話すのは餃子。タネは自分が何者か知らないまま皮に包まれ餃子にされる。タネが日本産で皮が日本産はモノリンガル。タネが日本産で皮が中国産はバイリンガル。「湯」は日本語だと湯だが中国語だとスープ。バイリンガルだけが気づいて助かる。餃子を擬人化する必要はないのでは。人にすれば産地云々のくだりも必要ないのでは。注文の多い料理店オマージュで焼き直し、餃子だけに。
頂いたサポートは、美味しいものを経て、私の血となり肉となり次の作品となる。