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遠くて遠い

 黄土高原にある、ヤオトンと呼ばれる、ごつごつした山肌をくり抜いた住居の村をTVで見る。貧しく本当に小さな村だ。それを解消するために、小さな村全体を劇場にして、村の生活劇を村民全体で繰り広げる。牛や羊も犬も村に住むものは皆登場する。

 コロナ前は、年間5万人もの観光客が訪れていたという。

 秋の展覧会に関係する、陶淵明の詩篇『桃花源郷』を読んでいると、あの広大な大陸で隠遁生活をするというのは、小さな明るい村に住むということであって、日本の隠者のように、さびさびと庵を結ぶのではないと思った。自然がもたらす思想、感覚というものは、他では変え難いものならば、TVの向こう側に何かあると手を伸ばす猫のように、私もまた映像から広がる土地の図を鳥になったつもりで思い描くのである。陽が落ちると、星の瞬く空を見上げるでもなく、モニターの中で、世界と半身がつながっている。それもまた面白いことなのだ。


2022年4月1日 筆
©松井智惠

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