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マオカラー出現

 ホワイトカラーでもブルーカラーでもないマオカラーというものがあるのをご存じでしょうか。ファッションに気遣いのある人ならすぐ思い浮かべられる襟の形のことです。デザインのルーツは人民服の襟の形です。

 マオカラーにお目にかかれる手っ取り早い場所は、もちろんテレビの画面です。紛れ込んでいるスタンドカラーも含めて、トークショウで知的なコメントをいうタレント、評論家、文学者、演出家や、建築家がよく着ています。私はそれらを総じて「マオカラー=男性文化人カラー現象」と呼んでいます。ネクタイを締めることに対しての抵抗感は、私にはわかりません。ネクタイからも肉体労働からも自由で、知的労働者の証しとでもいうんでしょうか。あるいは番組担当のスタイリストの陰謀なのでしょうか。美術関係者もそれに漏れず、知らないうちにマオカラーを着ている人もいます。そんなときは「おっ、文化人じゃーん」と私は言ってしまいます。

 着るものはその人が好きなものを着ればいいのだから、マオカラーが好きなひとは着ればいいし、私もマオカラーのデザインは好きです。だからマオカラーが男性日本文化人の印になってしまうのはよけいに悲しいんです。かつてベレー帽をかぶった画家がうさん臭く見えたのと同じで、そのうちマオカラーを着た人を見たら、ちょっと待てよと思うようになる方が文化にとってはいいのかもしれませんね。どのみち、制服好きのこの国の人々は制服を作っては制服に裏切られ続けてきたのだから。

2022年3月28日改訂 1994年7月22日 讀賣新聞夕刊『潮音風声』掲載

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