感想:映画『ラブ・ギャランティード』 マッチングアプリとロマンティックコメディ

【製作:アメリカ合衆国 2020年公開 Netflixオリジナル作品】

民事訴訟専門の弁護士として事務所を構えるスーザンは、立場の弱い人々のために仕事に邁進しているが、一方でパートナーがいないことにコンプレックスと寂しさを感じてもいた。
そんな折、彼女に新たに寄せられた依頼は、「愛を保証する」と謳ったマッチングアプリ『ラブ・ギャランティード』を訴えたいというもの。
1000回近くデートをしてもパートナーのできない依頼人ニックを訝しみつつも、訴訟準備を進めるスーザンは、その人となりに触れ、次第に彼に惹かれていく。

現在恋愛のきっかけとして主流の手段のひとつであるマッチングアプリをテーマにしたロマンティック・コメディ。全体的に軽いトーンの作品で、プロットに粗い点もみえるものの、インターネット基盤の恋愛に適応できない主役カップルを通して、現代における恋愛の在り方やそこに至る心理を批判的に描いていた。

本作で誇張して示されるように、マッチングアプリを介した恋愛は、画面越しの第一印象と初対面での初回デートに大きく左右される。
手軽さの反面、相手が「関係を築く必要がない」と判断すれば即座にコネクションが切れるシステム上、プロフィール写真やそれに付記される属性(職業・出身地・趣味・経歴など)はより重視されるようになる。
良くも悪くも恋愛を「消費」する傾向が強まり、印象を何より重視することから端的でわかりやすくインパクトのある言葉や記号がメディアを席巻する。
重く大仰なコピーと軽い内実のギャップが生じており、「ラブ・ギャランティード」を巡るやや荒唐無稽な訴訟はこの構図を示していると感じた。

恋愛の方法の変化により、20世紀後半のメグ・ライアン主演作品群のような、「第一印象は最悪だったが、やむを得ない事情や偶然があり時間をかけて交流するうちに相手の良さに気づく」というロマンティックコメディは、ますます実現の可能性が低くなっている。

この作品の主役カップルであるスーザンとニックのロマンスは、上述のような「時間をかけた恋愛」を現代に蘇らせるものだ。
マッチングアプリ上で出会っていればデートにも漕ぎ着かなかったかもしれないふたりが、弁護士と依頼人としてコミュニケーションを取る中で、表面的な属性からでは察知できない価値観や背景を知り、最終的には結ばれる。
(このため、「マッチングアプリのシステム上では交流していないがマッチングアプリがきっかけでふたりはカップルになっただろう」という主張は覆せるのでは…と思う)
根気強く他人と関わることの難しさ・重要性を示しつつも、マッチングアプリが馴れ初めであるスーザンの姉夫婦の描写など、マッチングアプリを通した恋愛も否定しない。
あまりラディカルとはいえない姿勢だが、現代の恋愛市場に馴染みながらも翻弄される人々の違和感を掬い上げる効果はあるように思った。

独立して事務所を構える弁護士の女性と、野球選手としてのキャリアをあきらめた理学療法士の男性という役割はステレオタイプを逆転させたものであり、互いの仕事や考え・役割を尊重する姿勢が貫かれていた(子どもの世話はニックの方が上手いといった描写もある)
一方で、色鮮やかな服を身にまとい、お洒落なレトロカーを運転し、仕事も充実しているスーザンが、夜は家族のいる姉と自分を比べて寂しくなる……といった描写はやや安直な印象を受けた。
婚約者に浮気をされて破局し、次の相手を見つけようと躍起になるニックにも当てはまるが、パートナーがいないと自分の寂しさが埋まらないという状況は健全とはいえない。
ふたりとも、少なくとも序盤の段階では周りや過去の自分の状況と自らを比較して焦り、パートナーを作ることが目的になっている印象だった。
こうした「恋人がいない状況を周囲と比べてみじめに感じる」描写はロマンティックコメディの伝統的シチュエーションだが、パートナーがいなくても自己実現が可能という考えが普及してきた現代の作品で留保なく用いるのはいただけないと思う。

また、「ラブ・ギャランティード」運営会社の社長(女性)の、「アジア文化やスピリチュアルに傾倒し、オーガニック食品にこだわり、抽象的な言葉で話し、実務は男性任せ」という人物描写は、複数の属性へのステレオタイプが窺えるもので良くなかった。

なお、ニックの婚約者との過去は削除されたInstagramのアカウントをスーザンがサルベージする形で明らかになる。恋愛のきっかけが手軽になり、入れ替わり立ち替わり相手を替えられるようにみえて、やり取りも写真もすべてタイムスタンプ付きの確固たる記録として残り、自分の意思で消すことのできない構造は恐ろしいと感じたし、真に「手軽な人間関係」など存在しないことを逆説的に示しているのでは……とも考えた。

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