感想:映画『詩季織々』 緻密とロマンティシズムとビーフン


(中国・日本共同制作 2018年公開)

現代の中国を舞台とし、「衣食住」をそれぞれのテーマとした3編からなるアニメーション作品。

写真を取り込んでの作画や3Dを駆使した緻密なアニメーションと、モノローグを多用した感傷的な物語が特徴で、新海誠作品の影響が大きい(スタッフも重複している)。
どの話も美しい思い出をノスタルジックに振り返りつつ、現在を生きる励みとするという筋立て。全体的にだいぶ駆け足で、3話トータル1時間14分で過去に重点を置いた話をするのは少し苦しかったのではと思う。
とはいえ、中国の文化に根ざした描写が多く、特に『陽だまりの朝食』『上海恋』は映像を見ているだけで勉強になり、楽しかった。
緻密でリアルな作画とは裏腹に、ノスタルジーに満ちたロマン主義的な物語が描かれるのはなぜだろうと考えていた。写実的(写真的)な表現では、都市の生活空間の人工的な色調(建物や蛍光灯など)も実感を持って再現されるため、「灰色の現実」が強調される。このため、色彩豊かに描かれる空や夜景、光あふれる自然などへの憧憬が高まり、ノスタルジーが重ねられるのかもしれない。

以下、3話それぞれの感想

『陽だまりの朝食』
内容・形式ともにビーフンが主役の物語。青年シャオミンの幼少期から現在に至るまでの人生が、彼が好んで食べるビーフンを軸に辿られる。
とにかくビーフンの描写が見事。ビーフンの調理シーンに個別の作画監督が立てられいて、3パターンのビーフン(麺から手作りされたシンプルなこだわりビーフン、麺は既製品だが野菜炒めが載っていて美味しいビーフン、チェーン店のビーフン)が見事に描き分けられている。
この話は非常にモノローグが多く、ビーフンの具材や味についても詳細にレポートされるのだが、もう少し作画の表現力に任せ、言葉による説明を省いてもいいのではと思った。
アニメーションは水・光・動きを徹底的に(そして恣意的に)描けるので、美味しそうな料理を表現するには適したメディアだと改めて感じた。上記3要素は簡略化もいくらでもできるのが面白いところだと思う。

『小さなファッションショー』
服への憧憬に主軸を置いた話なのに服の描写に力が入っていないのが気になった。トップモデルの私服が1種類なのはいただけないと思う。
ルルのスタイルブックの作画は緻密なので、イリンが初心を見失っていることの表れと捉えられなくもないが、前話のビーフンに続くとやはり落差を感じた(冒頭のイリンの撮影のシーンで一緒に映っている犬もかなり作画が粗く、本話全体の特徴なのかもしれない)
職業としてのモデルのエイジズムとルッキズムを扱っているなど、アニメーションとしては現代的な描写もみられたが、この2点の結論は「自分らしく分相応に」といった形で曖昧になっており、イリンのマネージャーでゲイのスティーブの描き方も良くなく、惜しいところの多い作品だと感じた。

『上海恋』
建築をテーマとした作品。
現在の上海を象徴する煌びやかな高層ビル群と、取り壊しの進む伝統建築「石庫門」との対比、そして最後に石庫門に主人公リモが手がけたホテルが建つ描写は、喪失した青春とその再建という作品の構成ともリンクする。
1990年代後半にはまだカセットテープが一般的だったという描写にも、上海の急激な成長と、自分の過去を象徴するモノの喪失が重ねられていた。
勉強のできるシャオユが、父親に過度な期待をかけられる描写が印象的だった。女性が勉強することへの抑圧は大きくないかわりに、家の面子を背負わされる例が多いのかもしれない(『僕と世界の方程式』でも似た描写があった。女の子が恋を頼みに勉強から遠ざかろうとする展開まで共通していて、根深さを感じる)
リモの自宅(石庫門)のものが多く雑然した描写や、学生生活の様子など、ディテールが充実しており、観ていて興味深かった。

3話とも話の筋書きはベタだったが、それだけに細部の生活様式や文化的背景が際立っていた。現代の市井の人々を描いたこのような作品が様々な国で製作されて、比較できると面白いなと思う。

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