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餡子とマイルス・デイビス

先日とある場所で、「柿は硬い派」か「柔らかい派」かというのがちょっと話題になった。この季節、柿が美味しい。そしてこの話題、ちょいちょい出てくる。
「私は絶対トロトロに柔らかいのが好き」「いやいや硬くなければ柿じゃない」などなど、それぞれ自分の好みを主張する。

柿に限らずこの手の論争は日常でよく耳にする。
最近ではテレビのバラティー番組で、焼き餃子を食べるとき、酢醤油をたっぷりつける派か、ちょっとだけつける派かで論争していた。
そもそも酢醤油は「酢を多め派」か「醤油が多め派」かでもよく分かれる。

そう言えば似たような論争で昔からよく聞くのが「あんこ」だ。
つまり「つぶあん派」か「こしあん派」か、である。これも長きに渡り激しく争われ、今も続く世に言う「あんこ闘争」である。

うちの母はつぶあん派である。
「だってこしあんは小豆を食べたって感じがしないんですもの」
と母はよく言う。
おみやげなどで和菓子などをもらって、それがこしあんだったりすると、露骨にガッカリする(笑)

わが家ではもう一つ論争になるのがカレー。
僕の父はどちらかというと、ルーがサラサラとした感じが好き。
一方母は、ルーがちょっと固めでご飯にもっさり乗っかるくらいが好き。
子供頃、ちょいちょい揉めてた。

さて、では僕はどうなのかとうと…

これが困ってしまう。
どちらも好きなのだ。
もともと母が作るすこし固めのルーで育ってしまったので、それも好き。
とくに二日目のちょっと水分が飛んでこてこて気味のドライな感じをご飯にのっけるのはけっこう好き
でもゆるゆるのルーもそれはそれで好きで、やっぱりカレーはこうだよな~という、父の主張もわかるのである。
あんこにしてもそうだ。つぶあんの小豆の触感と香り。これぞ餡子という思いもありつつ、こしあんのしっとりとした舌触りもまた、たまらないのである。
どちらが好きとは決められない。どっちも好き。

僕には節操というものがないのだろうか。
皆がこうした論争をしているとき、自分はこっちだ!と明確に主張してるのを見るたびに凄いな~と思ってしまう。オレ、どっちかに決められないよな~、と。

まだまだある。
例えばポテサラ。皆さんはジャガイモゴロゴロ派? それともなめらか派?
決められないですよ。
ジャガイモのホクホクとした触感を残したゴロゴロのポテサラもいいが、マッシュポテトのようになめらかしっとりな舌触りを楽しむのもまたいい。
あと、リンゴジュースは白濁派? 透明派? 等々…

僕の中ではそれらもう、別物なんですよ。
つぶあんとこしあんはまったく別の食べ物。
ゆるゆるカレーとこってりカレーも別の食べ物。
ゴロゴロポテサラとなめらかポテサラも別の食べ物。
そもそも比較出来るものではないのです。
お団子だってみたらし団子もあんこの団子も両方とも好きだし。
あ、そういえば、みたらし団子とあんこの団子がセットで同じパッケージに入ってるやつ、ありますよね。たまにスーパーで見かけるのですが、あれって真ん中はみたらしとあんこがくっついてちょっと混ざるじゃないですか。あれがまた美味いんですよ。

話は逸れてしまいましたが、とにかく僕にはポリシーというか節操がないのかもしれない。

あ。
それで思い出したことが。

節操がないと言えば、僕は音楽好きなのですが、ジャンルにおいてとにかく節操がない。
なんでも聴きます。

音楽の世界でもこんな話があります。
例えばそう、イギリスのロックバンド「ジェネシス」。
ピーター・ガブリエルがいたプログレシップの時代と、フィル・コリンズ加入後のスタジアムロックな時代ではどちらが好きか、とか(笑)
どっちもいいんだよな~。ま、世代的には後者だけど。

かのジャズの帝王マイルス・デイビスは、70年代に入りロックのリズムを取り入れ、「電化マイルス」と称されて依頼、その人気と評価は未だに二分している。エレクトロニクスに取り憑かれたマイルスをジャズ評論家の中には「愚にもつかないサーカス音楽」さえ書いて酷評した人もいる。
往年のジャズファンはそのあまりの変貌ぶりについていけなかった一方、新しいジャズの夜明けとして、ロック世代の若者は大いに彼の音楽に熱狂した。
で、僕はというと、これがまたどちらのマイルスも好きなのだ。
あのむせび泣くマイルスのミュートトランペットに涙さえ流すこともあれば、複雑なリズムの中でプレイされるエフェクトされたトランペットにも熱狂する。

恐らくこれは同一のミュージシャンだと思うから、腹が立つのだ。
僕の中ではもう全く別のミュージシャン。
そう思えば、もうどちらがどうかなんてことは、どうでも良くなる。
まさにそれは、あのあんこやポテサラと同じなのだ。
それってどちらも幅広く楽しめて、なんだかお得な気分でもある(笑)

そう考えると、節操がないというのもいいもんだ。

※写真提供:写真AC

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